第三章 暗く
車に乗り込むと大きな溜息をついた。
「 」
と小声で呟く。バン車の中に声が響く。すると、
「うるさい」
と少女の声が聞こえた。車内をよく見渡すと、ハイドファーの代わりに目の部分に穴が空いた麻の袋をかぶり、首に太いロープをぶら下げているパーカーを着た人間がいた。身長は155位だろうか。麻袋から黒い長い髪が垂れている。
「Bさんが帰って来るまで黙ってて」
少女はそう言い放つと、うつむいた。その数秒後、さっき青年を助けた男が急いで乗り込んできた。
「大丈夫?」
「あぁ、ただ急がねば」
そう言いながら男は、車を宙に浮かす。一方、少女は席に着きパソコンを取り出す。
「青年よすまない、状況が飲み込めないだろうが説明は後だ。」
そう言って男は、車を飛ばした。少女は、懸命にパソコンを打つ。後ろを見ると、警察の車両が見える。すると、男は空中の車道を下り、ビルの間をすり抜ける。
「前の車止まりなさい」
警察が忠告する。しかし男がアクセルを緩める気配は無い。その数秒少女のパソコンから、カチッと音が聞こえる。その瞬間、警察車両が急にビルへ突っ込んだ。
「やった...」
少女の声が聞こえる。
もう一台の、警察車両が再度警告する。
「これ以上抵抗を続ける場合条例により、発砲する。今すぐ降参しなさい。」
しかし、男から車を止める気配を感じられない。
一方少女も男のカーチェイス並みに緊迫して、パソコンを打っている。すると突然、キュンッと警察が発砲する音と共に車体が揺れる。
「もう一体目の対処はまだか?ミュー君?」
「もう少し...あと...」
少女がボソッと呟く。少女のタイピングが速くなる。警察は、市街地であるにもかかわらず発砲する。揺れる車内、空気が冷たい。
「よし...これで...」
少女がそう言った瞬間、パソコンからまたカチッと音が聞こえる。同時に車の揺れが止む。後ろにはやかましいサイレンの音が止んでいた。
「よし」
「やったぁ...」
二人の声が聞こえる。そして男が車を車道へと浮かす。少し走り大通りに出ると男が口を開く。
「すまない、自己紹介を忘れていたね、私は253-b型、Bさんと呼んでくれ。そして君の前にいるのが---」
Bさんの言葉を遮るように、少女が喋り出す。
「私はミュー、ミューさん」
そう言うとまた黙った。
「青年よすまない彼女は少し人見知りでね。よくしてやってくれ。ところで、君の名前は?」
青年は答えようと口を開こうとしたがが答えない。
「なるほど、事情があるのか。なら話さなくていい。代わりに---」
途端、またミューと呼ばれた少女が口を挟む。
「ルイ...」
「ん?ミュー君何か?言った---」
「ルイ」
少女がさっきより少し強く言う。
「ル、ルイ?まぁいい丁度呼び名が浮かばなかった事だ。どうだ?青年?本名が嫌ならルイで呼ばせてもらうが?」
「 」
「なら決まりだな。宜しくルイ君。」
そうBさんと自称する男が言い、また少し沈黙の時が過ぎる。そして、交差点を曲がった所で、Bさんがまた口を開く。
「ルイ、沢山質問があるだろうが、基地に着いてからにしてくれたまえ。」
「 」
車内にまた沈黙が訪れる。ルイは、席で足元を眺めていた。
十数分後......
車のスピードが落ち、車道から外れる。すると、車がゆっくり下降して行き、ボロボロな三階建て程の家の前に着く。窓には、内側から鉄板がはめられ、所々割れている。すると、Bさんが口を開く。
「我が家だ、少し寄っていくといい。」
「 」
そして、Bさんが車から降り、ドアを押さえる。ミューが駆け足で中へ入る。青年も、車から降り中へ入っていった。
名前: 253-b型(Bさん)
身長:183.7cm
体重:69.3kg
身元:定かでは無いが、話によると元軍人らしい。
好物:卵料理
特徴:背が比較的高く、ハイドファーは壊れたパソコンに"故障中"と大きく書かれた貼り紙が付いている。紳士的な振る舞いや口調で喋る。
名前:ミュー(ミューさん)
身長:153.5cm
体重:38.2kg
身元:不明。しかし、Bさんが保護したと思われる。
好物:カップ麺
特徴:ハイドファーの代わりに目の部分に穴の空いた麻袋を被っている。パソコンを得意としており、全体的に暗い印象。