第50章 「二多いよ。」
Bは朝からカシの露店へ酒を買いに行っていた。
「よぉ。」
Bは挨拶するが、カシから反応が無い。
「なんでもいいから頼む。」
カシは無言で、酒を取り出した。
「ありがとう。」
ようやくカシから反応があった。
「おい。」
「ん?」
尖った声の呼びかけに反応する。
「この村から出て行け。」
そう言い、Bをフード越しに睨む。
「…。」
Bは突然の事で少々驚いた様子だったが、機嫌が悪いのだろうと思いなした。
Bはそのままバーに寄った。酒瓶を片手に機械だらけのカウンターに寄りかかる。
「タイヘンモウシワケナガラ、オイルシカアリマセン。」
機械のバーテンダーが言う。しかし、Bは無視して酒瓶に口をつけた。
しばらくして、誰かがBの肩を叩いた。
「そこの貴方。」
ボイスチェンジャーで変えられた、高い声。しかし、触れられた肩からは、‘肉‘が感じられた。
振り向く。そこには、防塵マスクをした髪の長い女が立っていた。大きなロングスカートが砂漠の風に揺れる。
「仕事をお探しで?」
Bは無視したが、女は続けた。
「結月の事は残念でした。」
「!!」
Bは振り向く。まるで司祭の様に佇む女は両手に立方体のキューブと新品の様なカセットテープが握られていた。
「このキューブは報酬。中に種子が入っています。そして、このカセットが依頼。これを目的地まで届けて下さい。」
Bは化石化していないカセットテープに驚いたが、それ以上にこんな依頼で植物の種子を渡してくる、彼女に驚いた。
「分かった…これを何処に…?」
Bは種子に目が眩み、操られが如くキューブとカセットを受け取った。
「砂漠を東に超えた、森の奥。そこに、古代の遺物がある筈です。そこに置いて来て下さい。」
Bのハイドファーに苔に蝕まれた直方体状の建物の画像が送り込まれる。
「宜しくお願いします。」
そう声を残して、女はいなくなった。
「森…か。」
Bは結月の家に皆を起こしに行った。
「起きて下さい。蓮様。」
Θ(サラ)は何度も揺さぶるが、一向に起きる気配がしなかった。Θ(サラ)は仕方なく、台所に着く。冷蔵庫を探すも、何処もかしくもエンジンオイルだらけで、唯一人間が食べれる物と言えばボロボロのパッケージをした缶詰だけだった。
「ただいま。」
Bが帰ってきた、と同時にミューが階段を降りて来る。
「おはよ…。」
ミューは階段上から蓮とΘ(サラ)を見ると、
「ルイ見て来る…。」
と告げて、出て行った。どうやらとうの前から起きていた様だ。
「すまないな。朝食が無かったんだ。これで我慢してくれ。」
Bは棚の上から缶詰を取り出すと、ダムダムの修理用品で温めた。
Θ(サラ)はそれを見て、蓮をより強く揺さぶる。
「朝食が出来上がりました。起きて下さい。」
その言葉に、ようやく蓮が起き上がる。
「ルイ…連れてきた…。」
丁度ミューとルイが帰ってきた。
「 」
ルイは蓮に挨拶を交わす。
そして、ルイとミューは机に着いた。
温められた缶詰が運ばれる。
「どうぞ。」
Bがスプーンを手渡す。缶の中からは、トマトと豆の様な化学物質が湯気と共に踊った。
「いただきます…。」
「 」
ミューはスープを頬張る。蓮もその匂いに釣られて、机に着いた。
「いただきます!」
蓮は物珍しそうにスープを覗き込むが、勇気を振り絞って飲み込んだ。
「んぅ…」
蓮が咽せる。口に合わなかった様だ。
「不味い!」
蓮が喚く。いきなりで、Bは驚いたがとっさにΘ(サラ)がフォローに入った。
「分かりました。蓮様。私が食料を見つけて来ます。Bさん。失礼にお詫び申し上げます。」
Θ(サラ)はBの方を向いて、深々とお辞儀をすると、外へ出ようと扉に手を掛けた。
扉を半分開くと、Θ(サラ)の手が止まった。
しばらくΘ(サラ)は無言だったが。
「敵です!!」
Θ(サラ)が蓮達に向けて叫ぶ。Bが急いで駆け寄ると、政府軍のロゴが入ったトラックが幾つか浮いていた。
「逃げるぞ!車に急げ!」
Bは皆を裏口に誘導する。
「ルイ君。みんなを頼む。」
「 」
皆を連れて、車に向かった。しばらくして、Bは銃を持って後ろから追って来た。
走りながら、ミューはΘ(サラ)に質問する。
「何で此処に政府軍がいるの?」
「返答:あれは特殊部隊。対ドーム外敵性生物駆除部隊です。銃も装備も古いタイプが使われており、レーザー光線の火傷程度の傷じゃすみません。」
「貴方達に?」
「その様です。」
目の前に車が見えて来た。
その瞬間。車が火柱を上げて爆発する。
「嘘…。」
「 」
ミューが絶望を漏らす。しかし、追いついたBはもう別のプランに行動を移していた。
「こっちだ!!」
Bが元来た道をダッシュで帰る。向こう側では、鉄が歪んだり、穴が空く音が響く。
何とか倉庫の前まで戻って来るも、重装の政府軍に立ち塞がれる。
「大人しくしてろ。」
火薬銃を構える政府軍をルイは腕の装置を使って吹き飛ばす。
「此処に篭ってろ。私達が片付けて来る。」
Bがルイを見る。
ミューと蓮、Θ(サラ)は倉庫に入った。
「行くぞ!」
「 」
外で銃声が鳴り響く。
「此処で待っていれば大丈夫な様です。」
「うん。」
蓮が頷く。ミューはこんな時でも、自前のパソコンをいじっていた。
ガンガン
扉が激しく開かれる。
そこには四人の政府軍が縦に並んでいた。
「見つけたぞ!確保しろ!アンドロイドには発砲許可が出てる!撃ち殺せ!」
ミューはうずくまる。
「来るな!」
ドカン!
耳がキーンと聞こえなくなる。そこには四つの大きな穴と、政府軍がいた。政府軍が倒れ込む。
「行きましょう。」
Θ(サラ)だ。Θ(サラ)は銃床が異常にデカい銃を携えていた。
Θ(サラ)は蓮を起き上がらせる。
「ミューさんも。」
ミューは無言のまま引き上げられる。
外に出ると、軍は引いていた。
「あれ見て!」
ミューが指を差した先には、ルイとBが手状にかけられ、輸送されていた。
「行きましょう。」
Θ(サラ)は蓮達を連れて離陸していない政府軍のトラックに向かった。
[封筒の裏側]
少し待って欲しい
この封筒に世界の真実だとかそんな大それたものは入ってない、ただ私が前の世界の研究所から逃げ出す前に書いたメモのようなものがあるだけだ。だがお上に知られたら面倒事になる、そうなりたくないならこれを中身ごと燃やして全て忘れろ。
〔中には2枚の紙が入っている、片方は酷く損傷しているが、もう片方はとても綺麗な状態である。〕
[綺麗な方の紙]
ならば君は中身を読みたいということだ。私は元々研究所で研究をしていた、だがある日にそこから逃げ出したんだ。
[損傷している方の紙]
戦争を起こしたクソッタレ共へ、
くたばれバーーーーーーカッッッッ!!!!
一体何が起こっているんだ、とにかく逃げなくては。だがその前に書き残しておく。これを見つけた人にとって、何かの役にたつかもしれない。
始まりは1週間ほど前だったと思う。急に戦争が始まった。我々は国家から認定された銃器研究者だったからすぐに保護されたが、無意味だと思い知らされた。核爆弾は雨の如く降り注ぎ、国際法なんてもう無かった。結局元の研究所の方が安全だったんだ。毒ガスにダムダム弾、捕虜の虐殺…数え切れない。私以外の博士たちは恐らく死亡しただろう、誰とも連絡がつかない。とにかく研究所から資料をできるだけ回収して逃げるつもりだ。それ以外は燃やしてやる。
ダメだ[判別不能]時間[判別不能]無い
近くで銃声が
[判別不能]
さっき逃げ出した[判別不能]どうくつのなかで[判別不能]
少し落ち着いた。まだ見つかってない。
試作の光学拳銃をここに置いて行くことにした。さっきから熱くてたまらん。
まずいだれかきた足音が[判別不能]人だどうにもならない拳銃じゃ[判別不能]にもない
ここが私の墓場らしい
一体世界で何が起きている?なぜ戦争が起こった?なぜ無駄に人々は殺しあっている?なぜ核爆弾を撃った?なぜ私はこんなものをかいている?なぜ生き延びようとしている?どうして博士たちは消えた?どうしてだ?
そうか、そういうことだったのか
結局のところ、私たちは
〔焦げと血の跡でこの先は読めない〕
女神は微笑んた。
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