第三十五章 う憂ゥ
車が検問所を通り、地上に上がって行く。燃える様な光が次第に味気ない、青色の光に変わっていった。アーカーが走らせた車は、B地区へ浮揚する。久しくみた地上の世界。それは、今まで見てきた世界を白昼夢へと変える様に、その冷徹な姿を現した。
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ルイは思った。外を眺める結月は歯痒い様子で、より一層、薄情になった世界を見つめていた。
「レディースアンドジェントルマン。もう少しで到着ですので心の準備をして下さい。」
アーカーは扇動した様子で言う。
この辺りはお金持ちが多く、稀に大金持ちがデカい屋敷を建てる。そんな地区だ。
「大丈夫…?」
ミューが結月に話かける。しかし、結月は反応を示さない。
車を着地する為、スピードを落とす。Bもホルスターの銃に手を当てた。
「着いた。ヒヒ。あそこが施設だ!」
アーカーが指差す。駐車場を囲むビルの合間から見える家。それは、施設とは言い難い豪勢な屋敷であった。
「あれが?施設か?」
「あぁ。勿論さ。ひ、必要なもんは揃うよ。あそこで。ヒヒヒ。」
アーカーは高揚を抑えきれないようだ。
「私達を嵌めるつもりか?」
Bが憤り始めた。
「そんな訳ないだろ。俺はもうくぞ。ヒヒヒィ。」
アーカーは車から飛び出るとYAKAと共に、屋敷に走り出した。
「やれやれ。あんなボロ屋敷なら、下手に戦わずに済むだろう。」
そう言って、Bもついて行く事にした。それを聞いて、ミューも結月の手を引っ張ってBを追いかけた。
「 」
ルイは、呟いた。
アーカーは屋敷近くのマンホールを一人で開けていた。すると、後ろからBが追いかけ来た。
「何をやっているのだね?」
「見りゃわかるだろ?ヒヒ。マンホール開けてんだ。ヒィ手伝ってくれ。」
Bがそれを手伝っている最中。ミューと結月、ルイがB達と合流する。
ガラン
マンホールが開いた、その途端。アーカーが逸散に下水道目掛けて飛んで行った。
アーカー達は下水道を通り、屋敷へ入る。アーカーは妙に慣れた足取りで、屋敷の脇道に出た。
「んじゃ。ヒィ警備室行ってくぜ。ヒヒ。」
そう言うと、アーカーは屋敷の裏口に消えて行った。
「はぁ。ポルポが言った通りだな。」
Bがやれやれと首を振ってルイ達に指示を出した。
「三人で、屋敷の捜索に当たってくれ。私は奴を止めてくる。」
そう言ってBは既に姿の無いアーカーを追って消えて行った。
「 」
ルイは裏口から屋敷に入り、二人は後を追った。
裏口は厨房に繋がっていた。廊下に響く足音から、見張りが巡回している事を理解する。
「何処に行くの?」
ミューが声を潜めて聞いてくる。
「 」
「分かった。」
ミューは素直に頷くと、結月の手をぎゅっと握った。
結月は屋敷に入る前から、一切と発言をせず、ひたすらに沈黙を貫いていた。
「行くよ。」
ミューが優しく声を掛ける。
ルイは目的地に行くために、屋敷内を隠密に行動した。柱から柱へ影を隠しながら、移動する。
「今。」
ミューと合図を交わしながら、窓から青紫色の光が溢れる廊下を潜々歩く。近くから警備員の足音がして、物陰に隠れる。無防備な警備員の無線が聞こえてきた。
「此方、巡回中です。」
ザザザザザ…
「侵入者?了解。警備室に向かいます。」
その警備員が此方に向かって来た。
タッタッタッタッ
革靴が廊下を叩く音が憂虞を煽る。
「やだ!」
結月が叫んだ。目的は分からないが、その声からは煩慮の念が感じられた。
「誰だ!」
警備員が此方に気づき、銃を構えた。
ルイがスプレー缶を抜くにも、ミューが銃を抜くにも遅すぎた。
ドーム外に憧れる人間は多々居る。と言うのも、ドーム外には魅力的なものが沢山有る。古びた洋館、鳥居、斬新な服。そんな魅力的なドーム外に憧れる者は、今ある物でドーム外に行く気を晴らす。何故なら叶わないのだから。それを証拠に一人の男は古代の洋館に似せた建物を作った。それだけでない。地下世界のオオカミロックバンドもドーム外に居る伝説の歌手J-マイクに似せて、オオカミの被り物をしていると言われている。