第34章 カンカンカカンカン
奇妙な格好をしたアーカーと名乗った男はコインをテーブルにテンポよく打ち付け続けた。
「で、こっちはYAKA。」
箱型の足が生えた機械が、コインのビートに合わせてお辞儀する。
( )
ルイは思った。
そして、アーカーはグラスに入ったカクテルをグッと飲み干した。確かに、彼は曲者の様な容姿をしていた。身体の至る所でコートが破れておりそこから、ワイヤーや銅線が血肉と共にはみ出ており、またそこからは狂気も溢れていた。ハイドファーに至っては被っておらず、まるで頭蓋骨から望遠鏡が生えているかの様に、暗視ゴーグルが埋め込まれていた。そんな男が、コインを打ち付けながら不気味な機械を操る姿は異様なまでに狂気的だった。
「んでー、タワーに入りたいんだつけー?」
喉の奥で震えている、力が入ったり抜けたりを繰り返す声が口から聞こえた。その声はまるで奇抜な見た目の毒キノコの様だった。
「普段はこんな事聞かーないんだけどなんで?」
暗視ゴーグルが埋め込まれた顔面の口がニチャッと笑う。Bはその奇妙さに不信感を隠せないまま返事した。
「彼女の身元が知りたい。力を貸してくれ。」
アーカーが結月の方を見る。結月はアーカーの醜さに顔を背けた。
「あるか分かんないけど?いーの?ワンチャン死んじゃうよ?」
アーカーがまたにやける。
「あぁ。頼む。」
Bは銃のホルスターに手を掛けていた。
「その様子で頼めんの?まぁお願いされたならやるか。」
アーカーが立ち上がり代金を机の上に置く。
「ついてきー。」
アーカーはコインを腰に巻いたチェーンに打ち付けながらフラフラ歩き出し。
カンカンカカンカン
不気味な機械がアーカーに追いつき、彼の体を這って肩にのった。B達は不安に思いながら後を追った。
地下世界のビルのまた地下に彼は住んでいた。薄汚い床には肉の塊や焦げた鉄が散乱している。アーカーはロングコートを着たまま大きな椅子に腰掛ける。
「彼女の身元が知りたいんなら、メインタワーに乗り込む必要はないなー。」
「じゃあ何処に?」
思わず結月が大きな声を出す。
「じょーちゃん。うるさいねー。」
アーカーはニヤッとすると話を続けた。
「政府はサブで何処に施設を置いてる。じょーちゃんを見る限りそうだなぁ。東側のB地区に有る施設にいったらほしーもん見つかるかもなー。」
アーカーが脚を机に乗っけた。
「じゃあ、そこに…」
「じゃあ始めましょー。イッツショータイム。」
アーカーはバッと椅子から飛び上がると、出口に歩き出した。嫌な予感がしたのかBが彼に声を掛ける。
「所で、君への報酬は?いくら欲しいのだね?」
アーカーが頬を上げる。
「要らないよ。僕が欲しいのは、施設に入った時のスリルだ。あと、はフフフ。ハハハハハ。」
いきなりアーカーが笑い出した。奇妙な笑い声だ。
「はぁ、あとは、指。人の指さ。」
アーカーは笑いながら家から出た。
五人は結月の車に乗り込んだ。運転手はアーカーがする事になった。
「んじゃ、準備おーけーね?」
アーカーはアクセルを踏み、車を浮かせる。そして、車用の検問所にならんだ。
後ろに乗った四人でアーカーに聞こえないよう小声で喋る。
「心配ないさ、ポルポの紹介だ大丈夫さ。」
Bが三人をなだめようとする。
「 」
ルイは小声でいった。
「うん…そうね…。」
そう言うとミューは不安のせいか、はたまたこれから政府の施設に乗り込む為か、横になった。
「私、大丈夫かな。」
結月が弱音を吐いた。しばらく沈黙が続いた。
「 」
結月は黙ったままだった。
ハイドファーのファッション性
ハイドファーは元来、単なる正方形の箱でした。しかし、当時ハイドファーは高価であった為、大半の人間が日用品を改造し、ハイドファー化させた。この改造が流行り、現代までそのファッション性が受け継がれて来た。モルテックに繁あれ。
モルテック社ハイドファー誕生記念碑(右)