3 生徒会への立候補
帰りのホームルーム。
担任の吉沢先生は矢継ぎ早に連絡事項を告げ、最後に思い出したように話した。
「来月の生徒会選挙、一年生でも立候補できるから、もし、興味があれば、俺のところに放課後くるように。立候補届を渡す」
吉沢先生がぐるりと教室を見渡して、ゆいに目をとめた。
「哀川、お前どうだ? 大好きな生徒会長さんと青春できるぞ?」
「や、やりません……」
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放課後、部活に入っていないゆいは帰り支度を済ませて、昇降口へと向かった。
下校する生徒はまばらで、運動部の掛け声が響いていた。
ゆいは少し先に、さらさらと前髪がなびく生徒を見つけた。
昇降口の隣にある用具倉庫に生徒会長がいた。
真っ黒のセーターの袖には、「生徒会」と書いてある腕章がかけられていた。
ふと、風が昇降口を突き抜けて、生徒会長の前髪を攫った。ゆいは生徒会長の黒髪を綺麗だと思った。
ゆいがぼんやりと眺めていると、生徒会長はゆいの視線に気づいて微笑んだ。
ゆいは気づいたら、職員室に来ていた。
「先生、立候補届、ください」
吉沢先生はにっと笑い、立候補届を渡した。
「頑張れよ、応援してる」
「応援って、ちゃんと立候補についてですよね?」
「まあそれも含めて、色々だ」
ゆいは雑に一礼し、職員室を出ようとしたところで、吉沢先生が呼び止めた。
「ああ、そうだ。高峰エイジ。生徒会長は、かなりモテるぞ」
吉沢先生はガッツポーズをした。
ゆいは帰路で考えていた。
クラスメイトや吉沢先生が言っていた「生徒会長はモテる」ということについて、考えていた。
たしかに、あんなに素敵なひとだから、多くの人から好かれるのだろう、とゆいは思った。
けれど、誰も「なぜモテるのか」については話していなかった。
ゆいはそのことが少し気になっていた、ような気がした。