29 ゆいの役割は……
次の週のはじめ。ゆいは生徒会室で完成した生徒総会の資料をまとめていた。
体裁がきちんと整えられ、簡潔ではありながらも論理立ててまとめられた文書を、ゆいはじっと眺めた。
「これ、私が作ったんだ……」
ゆいは週末の苦労を思い出して、達成感に浸っていた。
「初めてにしては上出来だ。哀川、よく頑張ったな!」
高峰は片手でゆいの頭頂部を掴むと、そのまま雑に左右に振った。
乱暴ではあるが温かい高峰の手に、ゆいは人知れず鼓動を速めていた。
「た、高峰サンも、パソコンが得意というか、意外に面倒見が良くてすごかったです……」
高峰はスパルタではあったが、分からないことには全て丁寧に答えてくれたので、ゆいは実力以上のものができたと思っていた。
「お前ら、分かってるとは思うが、面白いのはこれからだからな?」
高峰は右手の人差し指で、リングのついた鍵を回していた。
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ゆいと高峰と藤堂は体育館の舞台裏に来ていた。
埃っぽく、雑多に演台やピアノが置かれた空間は、そこだけ時間が止まっているようだった。
「今週の金曜日、僕たち生徒会はここで資料をスクリーンに映し出したり、議題の説明をしたりする。だから、今日はリハーサルも兼ねて準備しておこう」
高峰は透き通るような声で説明を始めた。
生徒会室での高峰との声質の変化に、ゆいは面白いと感じた。ゆいは本来の性格の高峰をだんだんと見慣れてきたので、呪われた状態の高峰のほうが変だとさえ思った。
「——それで、役割分担なんだけど、メインで話すのは僕で、データに関するところは藤堂君に説明してもらうよ。藤堂くんは説明が上手だからね。そして、哀川さんにはパソコン操作をお願いしようかな?」
高峰はゆいのほうを向いて小さく微笑んだ。
「わ、私がパソコン……?! スクリーンに映る画面の切り替えとか、できる自信が……」
ただでさえ人前にでることが苦手なゆいは、不慣れなパソコン操作ができるか不安だった。
すでに緊張して目線が定まらないゆいに、高峰は右手の拳をぐっと握ってみせた。
「大丈夫だよ、当日は僕も近くにいるからね。何かあったらすぐに駆けつけるよ。それに、これは哀川さんにとって、一番適した仕事だと思う」
「そうだねぇ。ゆいはまず、人前でも落ち着いていられるように練習することが大事だとおもうよぉ」
藤堂は諭すような優しい声色で言った。
ゆいは自分が立っている舞台から、体育館全体を見渡した。舞台は高い位置にあるので、体育館のどこから見ても、その姿はっきりと見えるだろうとゆいは思った。
すると、先ほどまで時間が止まっていたように感じていた舞台裏が、急にせわしない市場のように思えて、ゆいは震えた。
「私も、頑張らないと……皆さんの視線が、すごそうですけど……」
ゆいは決意の定まらぬまま、当日に浴びるであろう生徒たちの視線を想像し、息をのんだ。
「ゆいのことを一番よく見てるのは、俺なんだから。ゆいは俺の目だけ気にしてればいいんだよぉ?」
藤堂はゆいの視線の先に回り込み、ウインクした。
「藤堂くん、キザなかんじだけど、今の言葉は、かなり心強い……」
ゆいは呪われた藤堂でもすがりたいと思った。
「藤堂くん、呪われているほうが言い方がスマートだよね」
「高峰先輩ほどではないですけどねぇ?」
呪われた二人は静かに視線で戦っていた。




