うそとほんとう
"うさぎ"は、その白い花を眺めていました。
「そらちゃん?その花を見てどうしたの?」
"うさぎ"は、なんの花かを尋ねました。
「ん〜?その花はねマーガレットだよ。小さくてきれいでしょ?」
"うさぎ"は特に何も言わず、庭の手入れを始めました。
「そらちゃん、どうかしたの?」
"うさぎ"はなんともないと返し作業を始めました。
すると奥から金髪のポニーテールの女の子とメイドがやってきました。どうやら同じところの担当のようです。
「はじめまして。私は穂丹、あなたは?」
"うさぎ"はそらとだけいい、黙々と作業に取り掛かりました。主な仕事は花の水やりや、芝の整理でしたがもともとうさぎの"うさぎ"には大したことのない仕事でした。むしろ、自然な感じがしてとても楽しんでいました。
そこへシロトがやってきました。シロトは進捗を見に来ると同時に、メイドにどんな調子かを尋ねていました。そして笑顔で手を振って帰っていきました。
昼過ぎに一通りの作業を終え、部屋に戻った"うさぎ"は考え事をしていました。いくらうさぎといってもこの"うさぎ"は人間の並程度の知能はあります。この作業はメイドがすることではないか、何を信用すればいいのか、そんなことを考えていました。
「そらちゃん、シロト様がおよびよ」
そう言われ、"うさぎ"は和歌子と一緒にシロトの部屋に向かいました。
部屋の前には、黒髪のショートヘアで丸眼鏡をした女の子とそのメイド、穂丹とそのメイド、そしてメイド長の樹音がいました。
「揃いましたね。これから、シロト様の前でピアノの演奏、そしてシロト様とダンスを踊って頂きます」
「なぜですか?」
「は?雨音様、どういうことでしょうか?」
「だから、なんで私達なの?部屋番号も全然違うし、急になんなの?」
雨音という女の子はかなり強気に話していました。
「それはお伝えすることはできません」
「ふーん。まあいいや。テストに合格したみたいな感じなのか?だとしたら早すぎるよな?」
「素晴らしい考察力ね。」
不意に背後から声がしました。
「あながち間違いではないわ」
その声の正体は茶髪の二つ結びの女の子のものでした。
「茅菜様!」
「あなた達は合格したのよ。一次試験にね。仕事に誠心誠意向き合う姿勢や容姿などからね。」
「なるほどね。何を考えているのかはおおよそわかったわ。この国では一夫多妻制があるからそれで私達と結婚しようとでも?」
「違うわよ。王族は妻は一人しか持てない。つまりその中から一人"だけ"結婚できる。そして、メイドの数も大幅に減る。給料がなんたらかんたらって言ってたわね。」
「茅菜様、もうやめてくださいませ」
「まあ、そりゃそうでしょうね。私は隣の国の王子と結婚するし、シロト兄様は寿命がもうないしで、王族を途絶えさせないようにするには早くに子供を作らないといけないし、お金もいるしで大変だもんね」
まるでこの王族にいたくないようなことを言っていると、
「茅菜ちゃん、行こっか。」
そう後ろから茶髪の青年がいました。垂れ目の背の高い人でした。
「それではごきげんよう」
そう言って茅菜はその青年と屋敷から出ていきました。
「今の言葉本当ですか!?」
そう食らいついたのは穂丹でした。
「いえ、あれはエイプリルフールの冗談ですわ。気にしないでください」
しびれを切らしたのかシロトが部屋から出てきて、どうしたのかをたずねてきました。
「なんでもありませんわ。それでは始めましょうか」
そう重々しい空気の中、ピアノの演奏が始まりました。
雨音はピアノがとびきりうまいわけではありませんでした。
穂丹はピアノがとても上手でした。
"うさぎ"は何をしたらいいのかわからず、指を本能のままに動かしました。
そしてダンスに変わりました。
雨音は、ダンスがとても上手でシロとをリードするほどでした。
穂丹は軽やかなステップが魅力的で、柔軟なダンスを踊りました。
"うさぎ"はこれまたわからず、本能のままに体を動かしました。
そして、そのまま部屋に戻るように言われ、部屋に戻りました。
部屋で"うさぎ"はまた考えました。茅菜は信じてもいい。和歌子も信じていい。シロトは何か似通った何かを持っている。そして、樹音は隠し事が多い。考えていると部屋に誰かがやってきました。
それはシロトでした。シロトは"うさぎ"に夜に踊らないかと尋ねました。"うさぎ"はその返事を悩んでいました。
シロトは"うさぎ"に自分の気持ちを伝えました。
その晩、"うさぎ"はシロトと踊りました。それはとても美しく。とても幻想的でそして、愛がありました。
そして気が付くと…
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そらはクロトと共にシロトのもとへ向かいました。そして、シロトとクロトとそらは話しはじめました。
「シロト、そろそろ話さないか?なあ」
その問いかけにシロトはわかったと返し、話し始めました。
もともと人間だったこと、クロトと屋敷を抜け出してきたこと、魔法使いに出会ったこと、そして、自分はもう人間ではないこと。
「うん、まあ、そういうことだ」
「え?クロトとシロトって王族の?クロト様は亡くなったけどシロト様はまだ生きてるじゃない」
「あ〜。俺は死んだことになってるのか。まあでもわかんねぇよなあれは。仕方ねえ仕方ねえ」
「え?わからないってどういう…」
「死んだのはシロトだ。森で蜂に刺された。そこに魔法使いが来て、シロトを生き返らせる方法があるっていうんだ。だから頼んだ。だけどな、うまく行かなかったんだ。で、魂からうさぎを作ったそれが今のシロトだ」
「え?じゃあ今の人間のシロト様は?」
「あれは俺だ。身体はな」
「え?え?」
「気付いてないのか?てかもともとの髪の色からじゃわからないか。魂を抜かれると髪が白くなるんだよ。」
「あ〜。だからクロトはクロト様の身体をシロト様としてかえしたんだ。あれ?じゃあなんでここにいるの?」
「王族にいたくないからだ」
そらは言葉が出ませんでした。似たような境遇だったんだと思いました。
「シロトを独りにしたくない。あいつはうさぎなんだ。でも、普通のうさぎじゃない。だから他のうさぎから嫌われている。だから一緒にって話がグルグルしているな」
そう朗らかに笑って話していましたがその目は慈愛に満ちていてとても優しいものなんだと、そらは感じました。その優しい笑顔にそらはドキドキしていました。
そんななかうさぎたちが一斉にそらたちの方へ走ってきました。キツネが出たというのです。キツネはうさぎたちの天敵、慌てて逃げようとしました。しかし、そらはキツネに近づいていきました。そのキツネは体が真っ白でアルピノと呼ばれるものでした。そのせいで群れから追い出されたのだろうと思い、そらはキツネに話しかけました。
「大丈夫?」
キツネは唸ることしかできません。
「おい、そら!早く離れろ!食われるぞ!」
「クロトたち、食べ物採ってきてくれない?」
「はあ?嫌だね。なんでキツネを助けないかんのだ」
「あっそ。じゃあ私一人でやるから。」
そう言ってそらはキツネの看病を始めました。その姿に他のうさぎたちも次第に手伝うようなりました。しかし、キツネは決して動くことはありませんでした。
そして夜になってもキツネは動くことはありませんでした。
「あぁ。なんてこと」
そらは泣いていました。
「あのときは悪かったな。」
クロトが声をかけました。
「お前はすごいよな。他の動物のために命をかけれるなんて。優しいんだな」
「それはクロトもでしょ?シロトのために命を懸けてるじゃない。」
「そうか。そうかもな。ありがとよ。」
しばらく沈黙が続きました。先に口を開いたのはクロトでした。
「なあ。踊らないか?月下の舞踏会なんて最高だろ?」
そこ問いかけにそらは答えを出し渋っていました。
しかし、次にクロトが発した言葉でそらは踊ることにしました。
そしてそらとクロトは踊りました。このときだけは、人間になったような気持ちになりました。
そして気が付くと…