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ゾンビ様、リトライ!



 さて、だいぶ夜が更けてきたけれど、もちろんオレは家に帰る事はできない。

 というか聞くところによると、オレの家は用意されていないらしい。なんでも、ずっと村の入り口にいなきゃいけない説明子に家なんか必要ないだろってことらしい。さすがに意味がわからない。


 腹が減って死にかけていたオレは、女神官にもらった包みを開けてみた。中にはなにやら肉団子のようなものが入っている。

 暗くてよく見えないが、まああの優しい女神官がくれたんだから変なものではないだろうってことで、拳大の大きさのそれにかじりついてみる。うん、ジューシーで美味い。


「これめちゃくちゃ美味いですね」


 今まで散々煽られてきたので、仕返しとばかりにオレはミョルニルに自慢してやった。立て看板には食えないだろほらほら!


『よくそんなものが口にできるな……』


「羨ましいんですか? あげませんよ?」


『いや、そういうわけではなく……』


 なんだ? 嫉妬か? 見苦しいぞ?


『それ、何の肉か分かって食べてるのか?』


「……へっ? なんでしょう? 牛か豚ですか?」


『オークは好んで人を食う。……そのオークから奪ってきたということは……』


「……」


 オレは黙って肉団子を包みに戻して、地面に置き、二三歩後ずさった。あー、食欲が失せたわ。


「はぁ……まさかこんなに辛い仕事だったなんて……」


 改めてミカエルを恨む。


『人間なだけ我よりはマシだろう』


「そんなわけないでしょう」


『いやある』


「ない」


『あーるー!』


「なーいー!」


 と、暇を持て余しまくったオレたちは不毛な言い争いをしていたのだが……


『ある……』


「ない……」


 疲れていつの間にか寝てしまったようだ。オレはともかくミョルニルが寝るということはいまだにどういう仕組みなのか分からないが。




「……うぅ」


 ……なんだうるせえな、ミョルニルの寝言か?


「うぅ……あぁ……」


「うるさいですよ!」


 睡眠を妨害されたオレは、声のする方に向けて腕を振り回した。


 ――ビシンッ!


 いってぇ! まるで静電気を大量に蓄えた金属に触れた時みたいに、オレの手に衝撃が走った。……ん? 背中に何かが触れている。どうやらオレは村を取り囲む木の柵にもたれて寝ていたようだ。多分柵の外に手を出そうとしたので、村の外に出れないという説明子の『制限』とやらに引っかかって弾かれたのだろう。

 うーん、めんどくさいな。


 と、柵の外に目をやったオレは、とある人物と目が合った。


「こんばんは、ここははじまりのむらです……けど」


 すぐに違和感を感じた。

 そいつの顔は青白くて生気がなく、髪はボサボサで、口をだらしなく開けた……


「うわぁぁぁぁぁっ!? おばけぇぇぇぇっ!?」


 オレは慌てて柵から離れようとしたが、腰が抜けて動けなかった。

 そいつは、口をかくかく動かしながら、なにか言おうとしている。……めちゃくちゃ怖いはずなのに、オレはそいつから目が離せなくなってしまった。


「……うぁ……た、たすけ……」


「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」


 にげろぉぉぉぉ! しかし、想いとは裏腹に身体は動かない。ペタンと尻もちをついたお尻の周りに生暖かい感触が広がる。違う、そうじゃなくて! 立って、走れ! ……くそっ、幼女になってさらにビビりになってしまったのかもしれない!


『うるさいぞキャベツ』


「うぁぁぁぁぁっ!? 漏らしてません漏らしてません!」


『はぁ?』


「じゃなくて、お化けですミョルニル先生!」


『……あぁ』


 あぁじゃねぇよ。アホなのかこいつは?


『なーにビビってんだ。異世界なんだから夜になればゾンビくらい出る』


「う、うぅ……」


 まるで同意するかのようにお化けさんも頷いた。


「よく平然としてられますね!」


『大丈夫だ。我がいる限り魔物の類は村には入ってこれない』


 ……お?


「……そうなんですか?」


 俺の問いかけに、お化けさんはまたしても頷いた。よく見たら顔色が悪いことと、口が半開きであることを除けば意外と可愛らしい?


「うぅ……わた……し……むら……に、すんでた……かえり……たい」


 帰りたいのに入れないから困ってたってこと? 可哀想だけどお化けだしなぁ……入れたら何をしでかすかわかったもんじゃない。


「……って言ってるけど」


『悪いがそれはできん。我にも村を守る仕事があるからな』


「……おねがい……いれて」


『……なるほど、やなこった! 消えろぉぉぉぉ!』


 ピカァァァァッ! とミョルニルが輝く。そしてその先端から光の筋が伸びて……お化けさんに命中した。


「あぁぁぁぁぁぁ……」


 という声とともにお化けさんは光に包まれて……消えてしまった。

 ミョルニルぅぅぅっ! なんて可哀想なことをしたんだぁぁぁっ!


「なにも消すことはないでしょうに」


『あぁ? 何言ってんだビビって漏らしてたのはキャベツのほうだろ。キャベツだけに水分たっぷりだな毎度』


 ……誰か、誰かクワガタムシの幼虫を持ってませんか? ボロい立て看板とか幼虫のエサに最適だと思うんだけど!


「……意地悪なクソ看板とは口をきかないことにしました」


『……へっ?』


「……」


『お、おい』


 途端に慌て始めるミョルニル。……もしかしてこれが弱点か?


『おーい、もしもーし』


「……」


『キャベツ……キャベツさま! キャ……』


「……」


『……わ、悪かった! 許してください!』


 なるほどわかったぞ! こいつは極度の寂しがり屋だ。今までオレに散々パワハラしてたのだって、やつの構って心の現れだったのだ! ふっふっふ、もうこいつの思い通りにはさせないっ!


『あぁぁぁぁぁぁっ! お願いです無視しないでください!』


 オレの周りをブンブンと飛び回るミョルニル。うるさい。


「……着替え」


『はい?』


「着替えを用意しなさいミョルニル」


『はいっ、ただ今!』


 と、完全に立場が逆転したオレたち。お陰でオレはミョルニルに、胸に恥ずかしいセリフが入っていない(ここ重要)新しい服と、寒いので毛布と、パンとスープを魔法で出してもらうことに成功したのだが……。


『……ていうか、無視してきたらお仕置きすればいいのでは?』


「……は?」


『よしキャベツ、尻を出せ!』


「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」


 ……そんな関係は30分と続かなかったのだった。




 またしばらくうとうとして、そうだな……数時間経った頃だろうか。時刻は恐らく明け方の4時くらい。そろそろ日が昇ってくるころ……な気がする。


 こんな時間に、村の方から人が歩いてきた。体格の大きい……またゾンビ? いや、ミョルニルの話では村の中にはいないらしいし……違うか。


 暗くてよく見えないが、そいつは座りながらぼーっとしているオレの目の前にやってきた。なんだ? 幼女を誘拐しに来たか? そいつは残念だったな。ミョルニルさん、出番ですよ!


 しかし、懸念していたようなことは起きず。


「幼女氏、お疲れ様でゴザル」


 あー、なんだロリコン紳士さんか。


「……あ、おはようございます。ここははじまりのむらです」


「デュフフ、幼女に見送られて出かけるのはいいものでゴザルな。今日も一日頑張ろうという気になるでゴザル」


 ていうかロリコン紳士さん、こんな朝早くからどこに行くんですか?


「ロリコン紳士さんはこれからどこに行くんですか?」


「デュフフ、隣町で推しのライブがあるでゴザルよ。物販があるから始発凸して全裸待機するでゴザル。今日も戦利品楽しみにしてほしいでゴザルよ!」


「いや別に楽しみにはしませんけど」


 こんな時間からご苦労なこった。まあこれがやつの仕事なんだろうな。


「それでは、行ってくるでゴザル!」


「いってらっしゃーい」


 すっかり気にいられてしまったオレは、複雑な気持ちを抱きながら、ロリコン紳士を見送った。

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