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Re:天使から始める異世界生活

 いやーたまげた。オレはどうやら死んではいなかったらしい。

 ふむ、しかしおかしいな。オレはどこの誰でここはどこなのか、さっぱり分からない。ただ、()()()()()()()()()()()()()ことだけはハッキリと……。


 うーん、とりあえず周りの状況は……。


 オレは刑事ドラマとかでよく見るような取り調べ室のような場所で机に座らされていた。なにか悪いことしたのだろうか。前世は犯罪者だったとか?

 取り調べ室の壁には何やら文字の書かれた紙が所狭しと……えっと、なになに?


『転生者に無闇にチート能力を与えてはいけません! By.ガブリエル』


『めんどくさいからって全員勇者に転生させるべからず! By.ラファエル』


『てか、何でもかんでも転生させるな! By.ウリエル』


 ほうほう、なんか面白いことが書いてある。だが、それよりも興味深いことに、オレを取り調べる刑事さんの席には、水色の髪のパイオツカイデーなチャンネー(意訳︰おっぱいのでかいねぇちゃん)が座っておられた。チャンネーの頭の上には光り輝く輪っかが浮かんでおり、背中には白い翼が生えている。

 あれだ。パトラッシュ僕もう疲れたよとか言ったら楽しげな音楽とともに空から舞い降りてくる裸の……まあこのチャンネーは白いゆったりしたワンピースをお召しになっているのだが。恐らくこれだろうな。


「天使!」


「ピンポーン! せいかーい☆ ウチは四大天使の一人、ミカエルっていうの! 本物だよ! で、キミは死んじゃったんだけど、わかってる?」


 騒がしく(さえず)るチャンネーだ。JK風ってやつか。オレにはちょいとついていけないぜ。


「どうやらそのようだな。ここはどこだ?」


 オレが尋ねると、ミカエルと名乗ったチャンネーは、机の上に乗っていたライトをオレの方に向けてきやがった。眩しいなちくしょう。


「順番に話すからちょっち待っててー? えっとねー、死因はっと……自動車とぶつかったことによる全身複雑骨折アーンド内臓破裂ぅ! 残念だったねー。まだ若いのに」


「そうなの。よく分からんわ」


「あそ、覚えてないならいいやっ☆ で、ここから重要な話なんだケドね。キミは運がいいねっ! ウチが転生を担当するってコトは出来るだけ希望に添った転生先を用意するよ! これが頭でっかちのラファっちとか、口うるさいガブりんとか、脳筋のウリたんとかだったらロクな生物に転生できないよん。みんなアリとかになっちゃうよアリ!」


「ふむ、それもアリだな。アリだけに」


「あははははっ☆ キミ、面白いことゆうね! ヤべーウケる! やばたにえん!」


 ミカエルは右手に持ったピコピコハンマーで、左手のひらをピコピコ打ちながら爆笑してくれた。おあとがよろしいようで。


「まあでも、そんな面白いキミをモノ言わぬアリにしてしまうのはちょっちもったいナイトプールって思ったワケよ。つーわけで、チート能力を与えて勇者にしてアゲル」


()()()()


「どしてぇ!?」


 ミカエルは心底驚いたようだ。まん丸のおめめがさらにまん丸になってやがるぜ。


「ウチがチート勇者に転生させてアゲルってゆった人間はみんなめっちゃ喜んでくれたのに! キミマジで人間?」


 知らぬわ。前世の記憶はほとんどないんだって。でも自分が死んだということと、これだけは覚えている。


「オレは楽して生きたいんだ。勇者だとかなんだとか知らないけど、誰かと戦ったりとかお姫様を助けたりとか、なんかクエストしたりとか、そういうのは嫌なんだよな。何か楽して生きられるような職業ない? 一日中突っ立ってるだけで金が稼げるみたいな」


「はぅ、うーん……」


 オレの無茶振りに、ミカエルは頭を抱えてしまった。


「やっぱりキミ変だよ。そんなことゆう人間は初めて。異世界ライフを楽しもうと思わない感じなの?」


「思わない。なんでかは知らんが、それだけは譲れねぇな」


「はぁ、そう。うーん……一日中ただ立っているだけでいい仕事……うーん……ふにぃぃぃぃぃぃぃぃにょんにょんにょん……」


 やっぱそんな都合のいい役回りは異世界にもあまりないか。ミカエルは怪しげな駆動音を立てながら、頭から湯気を出している。パソコンとかだったらオーバーヒートしてしまいそうだな。

 これ以上無茶言ってミカエルをいじめるのはやめるか。


「すまんな、別に勇者でもい――」


「あるよっ!」


「うわぁびっくりしたぁ!」


 いきなり大声出すなや! 寿命縮むわ! もう死んでるんだけどね!


「イチニチジュウ タッテルダケデイイシゴト アルヨ」


「何故にカタコト?」


「ウチ チュウゴクジン ダカラ ニ キマッテル アルヨ! アイヤーッ!」


「あいやーっ!」


 オレは目の焦点が合わなくなってしまった哀れなミカエルの手からピコピコハンマーを奪って、その頭をぶん殴った。


「いたっ! はっ! ウチは一体何を……」


「よかったな。気がついたみたいだ」


 ミカエルは完全に元通り? になったようだ。ふむ、荒療治ながら上手くいったか。だいたいのものは叩けば直るって天国のじいちゃんが言ってたしな。


「えーっと、どこまで話したっけ?」


「一日中ただ立っているだけでいい仕事があるってとこ」


「あーそっか。……うん、あるよ」


「じゃあそれで! 転生頼むわ」


 まあなんにせよ、楽して暮らせるならそれに越したことはないっつうか、久しぶりにのんびり生きられるってだけでありがてぇことだった。


「よーし、そうと決まればウチ張り切っちゃうよ! キミのコト、その職業に適した姿とステータスで転生させちゃうもんね!」


 ミカエルはなぜか両拳を握りながらふんすっと気合を入れた。


「あー、そうだ。ちなみにその職業ってなんぞ?」


「え、あぁ、あれだよ村のせつめ――ちょっち待って……あー、うん? ガブりん?」


 突然ミカエルの天使の輪がピカピカと点滅し始めて、ミカエルは虚空に向かって話し始めた。電話みたいなものだろうか。なかなかイカしてるじゃねぇか。


『ミカエルさんっ! 転生者一人にどれだけ時間をかけるんですか! さっさと転生先決めて次の転生者に取り掛かってください! ミカエルさん担当の転生者がもうかれこれ2時間待ちで待ってますよ! 早くしないと私の仕事が増えちゃいますからさっさとしてください!』


 相手の声が丸聞こえじゃねぇか。ぜんぜんイカしてないわ。不便な電話だ。


「めんごめんご☆ ちょーっちトラブってたけどへーきへーき! すぐやるから待っててもらってよん!」


 ミカエルは煩わしそうに通話を終えると、オレが机の上に置いたピコピコハンマーを手に取って


「ってことだから、さっさと転生させちゃうよ! ごめんねっ!」


「ちょっと待てまだ話は終わってな――あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 必死の抵抗も虚しく、オレはそのままミカエルにピコピコハンマーで殴られて気を失ってしまった。

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