痛いのは嫌なので幼女力に極振りしようと思います
「浄化って……まるでワシらが穢れてるみたいな言い草だな……」
圧倒的な強者オーラをまとっているガブリエルに対し、杖を持った老害のロウが進み出た。
「穢れているというか、あってはならない存在なんです。また新しい転生先を探しますから大人しく……」
「はっ! 嫌なこった! 誰が大人しく浄化されるか! 一昨日来やがれ!」
「――『プリフィケーション』!!」
「ぐぁぁぁぁぁっ!!」
ガブリエルがロウに向けて右手のひらをかざし、なにか唱えたと思ったら、白いビームのようなものが手のひらから撃ちだされてロウを直撃。老害を跡形もなく消し飛ばした。
「一撃で……? 嘘だろ?」
地面に下半身が埋まったバグが唖然とした様子で呟く。口調は深刻だけれど、その格好のせいでとてもシュールだ。
「――『プリフィケーション』! 『プリフィケーション』! 『プリフィケーション』ッッッ!」
ガブリエルはビームを乱射し、あれよあれよという間に、モブキャラの村人ABCが浄化されてしまった! しかし、何故か村人たちは仲間が浄化されても一向に逃げ惑う様子がない。
「お、おいお前ら! 逃げなくていいのかよ!」
オレは思わず叫んだ。すると、オレの背後から大きな人影がポンッと肩に手を乗せてきた。
「拙者たちはミカエル氏にこの村を守るように言われたでゴザル。だから最後まで戦うでゴザルよ!」
いや、ロリコン紳士さんなんかかっこいいけどそれちょっとおかしくないですか!?
「戦うっていっても、どうやって……」
「こうするでゴザル!」
ロリコン紳士は背中に刺さっていた二本の長いポスターを引き抜いて剣のように構える。いやいや、さすがにそれじゃあ戦えないでしょ! だが、ロリコン紳士はそのまま猛然とガブリエルに向かって走り始めた。オタクらしからぬ走力……いや、これが噂に聞く『コミケダッシュ』というやつなのか!?
とにかく、凄まじいスピードで迫り来るロリコン紳士を、ガブリエルはビームで迎撃しようとした。
「プリフィケ――むぐぐっ!?」
「今だよっ!」
見ると、呪文を唱えようとしたガブリエルの口に、食パンが押し込まれている。あれはもしかして……ジョシ・コーセーさん? あのいつも走ってばかりの女子高生が本領を発揮して、ガブリエルの口に食パンを早業で押し込んだに違いない。なんだかよく分からないけれどチャンスだ!
「ジョシ・コーセー氏、かたじけない! お覚悟を!」
――ズバンッ!
ポスターが唸りを上げてガブリエルの身体を切り裂く。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ガブリエルは悲鳴をあげて倒れ込んでしまった。その身体からは血しぶきの代わりに黄色いキラキラする粒子のようなものが放出されている。とにかくダメージが入ったのは確かなようだ。天使を圧倒するなんて、女子高生とオタクのコンビ……恐ろしい。
「やったか!?」
離れたところで様子を見ていたオンナ・キシがフラグを立てた。まずいと思ったが後の祭り、案の定、ガブリエルは呻きながらも立ち上がる。
「よくも――よくもやってくれましたね! 私を本気にさせたこと、後悔するといいのです!」
――メキメキメキッ!
おぞましい音を立てながらガブリエルの身体が変容する。ゲームのラスボスの形態変化シーンのようだ。といっても、背中から更に4枚の翼が生えてきただけなんだけど。
計6枚の翼を生やしたガブリエルは、一層神々しいオーラをまとっている。端から見ていても「あ、こりゃあ勝てないわ」って一目で分かるようなオーラだった。
「これが私の真の力です! 滅びなさい!」
ガブリエルはおよそ天使にふさわしくないようなセリフを吐きながら、両手からビームを乱射する。もう、無差別に撃ちまくっているようで、さながらサーチライトショーとか、ディスコのミラーボールとか、サイコガ〇ダムとかクィンマ〇サの攻撃とか、そんなレベルの無差別な光の嵐がオレたちを襲った。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
あたりはたちまち阿鼻叫喚の地獄と化した。オレは咄嗟に地面に伏せて、その小さな身体を活かしながらガブリエルの攻撃によって地面に空いた穴に逃げ込み、なんとかビームの直撃を免れる。すると、同じ穴に同じく幼女の唐四面体 真世が逃げ込んできた。
「どうしよどうしよ!」
「落ち着けマヨネーズ幼女! 隙をみて逃げるしかない」
正直あんなのに勝つのは不可能だ。まず近くに寄る前にビームに当たって浄化されてしまう。
やがて、外が静かになった。ビームの乱射は終わったらしい。流石に疲れたのか。
オレは恐る恐る穴から顔を出して外の様子を伺ってみる。
――外は地獄だった
ビームに寄ってそこらじゅうの地面が掘り起こされ、地面はボコボコ。建物にもかなり被弾して近くの家は消し飛び、遠くの家も穴だらけ。そして……
「おい、しっかりしろ!」
オレは思わずソレに駆け寄った。地面に広がっている美しい金髪、そしてボロボロになってしまったローブは、オレがこの世界で最も推している最愛のオンナ・シンカンちゃんだった。
「あ……メイコさん……ご無事で」
シンカンは横向きに倒れた状態で掠れた声で呟く。オレは慌てて辺りを見回したが、他に人影はいなかった。皆やられてしまったのだろうか。
「に、にげてください……ここは私が……」
モゾモゾと動いて立ち上がろうとするシンカンをオレは手で制した。
「なにいってんだ、一緒に逃げるぞ!」
「でも……」
「あら、まだ生き残りがいましたか。しぶといですね」
ガブリエルはゆっくりとこちらに視線を向ける。
「私の魔法陣なら……多少は耐えられます。その隙に……できるだけ遠くへ……」
「できるかよそんなの! オレはこの村の中にいる限りは最強なんだ。だからオレが時間稼ぐ!」
「ふっ……いくら『説明子』でも……大天使には……勝てませんよ?」
そんなことは分かっている。でも、いくらイカれた世界とはいえ、ここで暮らしている人達を『浄化』としょうして抹殺しているガブリエルは許せなかったし、なによりオレの男の心が女の子に庇われるのを拒否している。
「ごちゃごちゃうるさいですね! 消し飛びなさい!」
ガブリエルは問答無用でビームを放ってきた。オレが咄嗟にシンカンと、オレの隣で様子を伺っていた真世を庇おうとした時。
――ゴギァァァァァッ!!
「なにっ!?」
ビームは変な音を立てながら何かに防がれ、ガブリエルの驚愕の声が聞こえた。ビームの光がおさまるとそこには――
白いTシャツを身につけたボサボサの銀髪の女が木の立て看板を両手で構えて立っていた。
「ごめんねー? 遅くなっちゃったー」
「ひーちゃん!?」
オレは思わず声を上げたけれど、真世とシンカンはひーちゃんのことは知らないらしく、「誰?」みたいな顔で首を傾げている。
そう、オレたちの前に立っていたのは、引きこもりの巨乳干物女、モリ・ヒキコその人だった。