うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら(ryできるかもしれない
「真世を……真世を返せぇぇぇっ……」
結界に弾き返され続けた幽霊さんは怨霊よろしく地面に這いつくばりながら、右手を伸ばす……が
――ビシッ!!
「グァァァァァッ!!」
おいおい、何度やるつもりだこのやりとり……学習能力ねぇな……。
オレはもちろん、ミョルニルも、ロリコン紳士も、幽霊さんの娘だという真世も、呆れて物が言えないといった様子でただ突っ立って幽霊さんの奇行を眺めていた。
「ちくしょう、なんでや……なんでワイは村に入れへんのや……!」
『そりゃあ幽霊だからだろう』
嘆く幽霊さんに呆れた様子で呟くミョルニル。すると、幽霊さんは赤い髪を振り乱しながら、ブンブンと首を横に振った。
「ちゃう……ちゃうんや……ワイは人間……のはずや! ……どうしてこないな」
「いい加減認めたらどうですか?」
「喧しい!!」
――ゴツッ!!
いってぇぇぇぇぇっ!! また石投げてきやがったよ! おかしい! オレに対する風当たりだけ強すぎる気がする! 世の中は理不尽である!
『まあ、そこの真世? ってやつもシールドに弾かれたけど強引に突破してきたクチだし、その父親なら幽霊であろうとなかろうと、シールドに弾かれるのは別に不思議ではないがな』
つまり、この親子は両方ともシールドに弾かれる性質を持っているが、幽霊さんは真世ほど強くないからシールドを突破できないってことだろうか。ふーん、雑魚なのか幽霊さんは。
それとも真世が強すぎるのか。よく分からない。そもそもそのミカエルワールドの強さの基準がよく分からない!
すると、真世と仲良く手を繋いでいたロリコン紳士が、優しく彼女の背中を押した。
「行くでゴザルよ。大切な家族がいる――帰りを待っている父親がいるんでゴザルから、心配をかけるのは幼女失格でゴザル」
「で、でも、おいちゃん……」
待て、ストップストップ! 感動的なシーンのような気がするが、いろいろツッコミどころが多すぎるせいで全然泣けねぇ! まず幼女失格ってなんだ!? ロリコン紳士の中の幼女像って一体どうなってやがる!? てか幼女像ってなんだし……言ってるオレも訳わかんねぇよ……!
しかも真世さん、ロリコン紳士のことを「おいちゃん」って呼んだよな? 真世が自ら呼んだのか? それともロリコン紳士が呼ばせているのか? どちらにせよ事案な気がする。
「真世ぉぉぉぉぉぉっ! こっちや、こっちに来い! パパとお家に帰るんや!」
「さあ、行くでゴザル!」
二人の間に挟まれて、困った様子で二人のオッサンの顔を交互に見つめる真世。うん、わかるぞ、オレが真世ならどっちにも行きたくないからな! でも、どっちも嫌だとも言えない。そんな心境なのだろう。――と勝手に予測してみた。
「いや! おいちゃんがいい!」
なんと、真世はギュッとロリコン紳士に縋りついた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
オレと幽霊さんは同時に断末魔の叫びを上げる。なんてこった。そんなに幽霊さん嫌われてたのか……いや、何となくわかるが、わかってしまってはいけない気がする。そう、パンドラの箱の開封式に付き合わされている気分だ。お願いだから村の入口じゃなくて他所でやってくれ!
幼女に縋りつかれたロリコン紳士はというと、困惑しながらもどこか嬉しそうで……このロリコンめ!
「な、なんでや……なんでや真世……ワイは……ワイはずっと真世の背後霊として真世のことを護ってきたやろ……せやのになんで……なんでそないな、どこの馬の骨とも知れへんやつに……」
おいおい、このオッサンついに自分のことを『背後霊』と認めたぞ!? オレはなんのために石をぶつけられてたんだ? 野球の練習か?
どこの馬の骨とも知れない大男に娘が懐いてしまい、完全に情緒不安定になってしまった幽霊さんはその場で大粒の涙を流し始めた。
「ワイは……ワイはなぁ……真世を背後から護ることだけを生きがいにしてきたんや! せやのに、少し前に魔王四天王とかいうやつに襲われて、護っているうちに真世と引き離されて……やっと見つけたと思たらワイは村には入れん! 娘に触れられん! おまけによう分からん男に娘を盗られる! 泣くやろこんなん……」
うん……話の途中に出てきた魔王四天王についてはいろいろ聞きたいことはあったけれど、少し……というかだいぶこの幽霊さんが可哀想に思えてきた。
「よーしよs ――」
――ビシッ!!
「いってぇぇぇぇぇっ!!!!」
しまった、幽霊さんをなでなでしようとしたら、そういえばオレもシールドの外に出れない『制約』がついているんだった……。ってことは、オレと幽霊さんはどう足掻いても触れることができない悲しい運命を背負った(ryなのかもしれない。
「パパ怖い。ストーカーだもん」
と、容赦のない真世。確かに、幼女にとっては背後霊はストーカーに見えるのかもしれんな。かもしれんが、さすがにパパ可哀想じゃないか?
「ガァァァァァァァァァァッ!!!!」
幽霊さんのライフポイントはもうゼロのようだ。奇声を上げて地面に突っ伏すと、そのまま動かなくなった。
『よーし、もういいだろう? そろそろ浄化するぞ?』
と、ミョルニル。昨日ゾンビさんを浄化したあのビームを使うつもりだ。こいつもこいつで情け容赦ねぇ! 弱り目に祟り目……いや、これ以上苦しみを与えないためにも、ここで成仏させておいた方がいいのかも?
というわけで、オレは特に何も口を出さなかった。
すると、ミョルニルは地面からフワッと浮き上がり、黄色く輝き始める。
『哀れな幽霊よ……安らかに眠るが良い……はぁぁぁぁぁっ!!』
「おごぉぉぉぉぉぉぉっ!! せやからワイは幽霊やのうて……ワイは、ワイは『唐四面体 霊魂』じゃぁぁぁぁぁっ!!!!」
という断末魔の叫びを上げて、幽霊さんはミョルニルから放たれた黄色いビームを受けて、跡形もなく消えてしまった。……しかし幽霊さん。最後の最後になって名乗ったな……。からし蓮根とか言っていたか。親子揃って美味そうな名前だな。
で、お父さん消えちゃったけど真世はショックを受けて――
「ふぅ……さぁおうちに帰ろっか、おいちゃん!」
全くショックを受けてねぇぇぇぇぇ!!
余程パパが嫌いだったらしいな。いいのか? そんなことでいいのか? ほら、真世に懐かれているロリコン紳士も困惑してるし!
『はぁ……浄化したら疲れたわ。我はまたしばらく寝るから後はよろしくー』
と、相変わらずマイペースなミョルニル。もうこいつは放っておいていいだろう。寝ていてくれるならその方が好都合だ。
「……ねぇ、ロリコン紳士さん」
「……なんでゴザルか幼女氏?」
オレは、真世をあやすロリコン紳士に声をかけた。
「……親子ってなんなんでしょうね」
「……さて、拙者にはよく分からないでゴザル。……否、分からなくなってきたでゴザルよ」
「……ですよね」
「……でゴザルな」
こいつ、意外と話が通じるな。このミカエルワールドにおいて話が通じるキャラというのはそれだけで貴重だ。このロリコン紳士とは仲良くせねば。
オレは静かな夜の村で、密かに決意したのだった。