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君の二の腕をたべたい

 な、なんてこったパンナコッタ……。


 すっかり意気消沈してしまったオレは、もう何もかもがどうでも良くなって――かといってキャラクターの制約故に村から出るわけにもいかず。他にやることも無くて……。ミョルニルの待つ村の入口にとぼとぼと戻ってきた。


『あっ、おい待ちくたびれたぞキャベツ! 早くこいつを何とかしてくれ!』


「……あ?」


 なーんでミョルニルの言うこと聞かなきゃいけねぇんだ。オレは今絶賛落ち込み中だから構わないで欲しいのに。

 と思いながらミョルニルの方に視線を向けると、なんとミョルニルは真っ白にペインティングされていた。おいおい、いくらオレが落ち込みモードだからといって、体を張って笑いを取りに来なくていいんだぞ? なにやってんだ、おい、いい気味だなぁ?


「……くすくす」


『笑うなクソキャベツ! 笑い事ではないぞ!』


「いやー、だって……ねぇ?」


 よく見るとミョルニルはただ白くペインティングされているわけではない。何かがミョルニルの体(体なのか?)中にベッタリと塗りたくられている。――白くて、ベトベトした……うわぁ卑猥!


「これやったの君でしょ?」


 オレはミョルニルの傍に突っ立っていた幼女に声をかけた。否、幼女といってもオレとは全く別のカテゴリーの幼女だ。うん、こちらはリアルガチな幼女。この村の子どもだろうか? 赤いふわふわの髪の毛に白いワンピースを着ている。そして、特筆すべきは手に持っている大きなマヨネーズのチューブ! なんだあれは! だがここはぶっとび天使のミカエルが創造した世界。もはやこの程度では驚かないぞ!


「うん!」


 あら、いい返事。


『てめぇぇぇぇっ! ぶち〇す!』


「ようじょキック!」



 ――ゴスッ!



 ミョルニルがおおよそいたいけな幼女に対して口にしてはいけない類の表現を口にしたので、脳内レーティングに引っかかったオレは、ミョルニルにようじょキックをお見舞いした。すると、奴は大人しくなった。

 どういうわけか、ペインティングされたミョルニルはオレにお仕置することはないらしい。飛べなくなっているのか? よく分からないがこれはチャンスだ。奴のパワハラから脱するためのな!


「ナイス幼女!」


 女神官の一件から完全にメンタルが立ち直ったオレは、マヨネーズ幼女にビシッと親指を立てて見せた。


「いぇい! ナイスようじょ!」


 すかさず同じポーズを返してくるマヨネーズ幼女。もしかして――


「もしかしてそのマヨネーズでミョルニルをペインティングしたの?」


「うん! ボロボロだったから綺麗にしたよ!」


「よーし、ナイス幼女!」


「ナイスようじょー!」


 確かにな。ミョルニルはボロボロの立て看板だしな。綺麗にペインティングしてあげなきゃな。


『てめえら! 覚えてろよ! 後で』


 いやー、ミョルニルの悔しそうな声を聞くのは爽快ですね。日頃の鬱憤が晴らされるというものです。


「マヨネーズ幼女様、お名前を教えてくれる? オレ……いや、私は説 明子っていうんだけど」


 オレはお近づきのしるしに自己紹介した。すると、マヨネーズ幼女は自分の顔を指さして「私の事?」みたいな顔をした。ので、オレが頷くと――


「ナイスようじょ!」


 いやいや、そうじゃなくて名前だよ名前!


「あの、名前は?」


「ナイスようじょー!」


 なるほどよく分かりました。ナイス・ヨウジョさんですね。ていうかそれ、オレが言った言葉じゃん……それを自分の名前として使うってアリ? アリなの? オレ、図らずもこの子の名付け親になってしまった?


「まよの名前は、唐四面体(からしめんたい) 真世(まよ)。明太子とマヨネーズで戦う戦士だよ」


「なんだよちゃんとした名前あるんじゃ――ん? ちゃんとした?」


 いきなり辛子明太マヨネーズ! そしてオレと同じ漢字名! ミカエルらしからぬ……いや、逆にこの統一性のなさがミカエルらしいといえばらしい! もしかしたら幼女は全て漢字名なのかもしれない! 幼女だから漢字読めるわけないのに! なんというジレンマ!


 オレの脳内ツッコミが追いつかなくなったところで、真世と名乗った幼女は、マヨネーズのチューブの蓋を開けて、こちらに向けてきた。……まさか、まさか!?


「おいやめろ落ち着け! 話し合おう! な?」


 ――ブチュッ!



 唐四面体真世の『まよすぷらっしゅ』!――――▼



 説明子に21のダメージ!――――▼



 説明子はマヨネーズだらけになった!――――▼



「ぶべぇぇぇっ!」





 ――はじまりのむらにて



 ――しろいべとべとしたものを



 ――ぜんしんにかけられた



 ――ようじょがひとり



 ――じめんにすわりこむ



 ――じあんでしかない





「いぇーい! ナイスようじょ!」


「ナイスちゃうわ! ダメダメようじょだお前は!」


 歓声を上げる真世をオレは怒鳴りつけたが、彼女は何処吹く風といった様子だ。全く、ムカつくやつだ。――とオレが手のひらを返したところで、ミョルニルが口を開いた。


『こいつ、この村の人間ではないし、明らかに怪しかったからシールドで弾こうとしたんだが、問答無用で押し通ってきたとんでもないやつだ。魔王か何かかもしれん』


「あー、確かに、ひーちゃんによると近々この村に魔王四天王のサイ・ジャックがやって来るらしいし、それが関係してるのかも?」


 ミカエルワールドのことだ。魔王がこんな幼女だったとしても別に驚かない。そして、いきなり村に魔王が現れたとしてもな。


「まよは魔王じゃないよ。勇者でもないし。……言ったじゃん、明太子とマヨネーズで戦う戦士だって」


「いやだからその職業が謎すぎる……いや待てよ、ミカエルだからか」


 と、オレは全ての責任を、今日も天界でのほほんと転生者を生み出してるであろうミカエルに投げつけて無理やり納得することにした。



「で、このベトベト……マヨネーズはどうするんだよ……?」


「まよが食べる」


「……は?」


「だいたいのものはマヨネーズかければ食べれるから、まよが食べちゃう」


 なんだよそのマヨラー思考はぁぁぁぁっ!!!!



 説明子はにげだした!――――▼



 おいつかれてしまった!――――▼



 唐四面体真世の『たべる』!――――▼



 スキル『捕食』がはつどうした!――――▼



 説明子に47のダメージ!――――▼



 唐四面体真世の『たべる』!――――▼



 スキル『捕食』がはつどうした!――――▼



 クリティカルヒット!――――▼



 説明子に70のダメージ!――――▼



「いた、いたいたいたいたいたいたいたいやめてやめてたすけてたすけていやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 幼女に二の腕に噛みつかれて悲鳴をあげながら、オレはなんとか真世の頭を反対の手で引き剥がそうとした。が、幼女のヤワな腕力ではそれは適わず。たちまちオレの柔らかい二の腕の皮膚は破れて血が噴き出してくる。


 真世はそんなことはお構い無しに噛みつき続けて……やがてミシミシと骨が軋む音すら聞こえてきた。やばい! マジでやばい! めちゃくちゃ痛いし! このままじゃ死ぬ!


 オレは助けを求めようとミョルニルの方をうかがったが、そうだ奴は今は役立たずだったんだ! さっきは大爆笑してごめんよミョルニル……


 それにしても痛すぎる。嫌だ、まだ死にたくな……もうこれ以上死にたくない! できることは……まだできることはないか!?


「ようじょキック! 膝蹴りバージョン!」



 ――ゴスッ!



「うぉえっ!?」


 咄嗟のようじょキック膝蹴りバージョン! それは見事に真世の腹部にめり込んで、奴は何かを吐き出すような気持ち悪い声を上げながら地面に倒れこんだ。

 そして、真世はゆっくりと立ち上がると、自分の腹と股間を押さえながらこんなことを言い出した。


「あぶな、もう少しで明太子が漏れちゃうところだったよ」


「どーゆー仕組みだよ!」


 思わずツッコんだね。

 まあいいや、奴の体内の組成のことはどうでもいい。奴の体が人肉で構成されてようが明太子で構成されてようがミカエルのせいってことで納得するしかないのだから些細な問題でしかない。


 オレは真世に噛みつかれていた二の腕に視線を落とす。

 相変わらず鈍い痛みがあって、見るも無惨に噛みちぎられそうになっていた腕だが、どういう仕組みか、地面から立ち上ってきた緑の光が腕を包み込んでみるみる傷が治っていく。すごい。

 これが説明子の特権「村の中にいる限りは最強」ってやつなのか。ミカエルすごい!


 結局、オレは分からないことは全てミカエルのせいにすることによってなんとか発狂することなく異世界ライフをおくれているのだった。



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