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引きこもりって、それはないでしょう!

「ごめんくださーい!」


 呼びかけながら家の扉をトントン叩く。……反応はないか。居留守か? ナメやがってちくしょう!


「返事ないなら勝手に入りますよー?」


 不法侵入感半端ないが、危険人物が住んでいるのなら仕方ない。オレは家の扉をゆっくりと開け――


 ――ガガガラガラガッシャーン!


「ぶぇぇっ!?」


 突如として家の中から溢れてきたゴミの山によって、オレは押しつぶされた。


「説明子ぉぉぉぉっ!!」


 バグの悲痛な叫び声が聞こえるぜ。そんなに叫んだらまたバグってしまうんじゃないか?


「うぁ……死ぬかと思った」


 オレは袋に入った生ゴミらしきものを押しのけながら再び立ち上がった。


「……なんだと? あの家に入ろうとした奴らはだいたいあのゴミの雪崩に押しつぶされて死ぬのに……」


 いや、弱すぎだろそいつら……


「言ったじゃろ? 説明子は村にいる限りちょっとやそっとのことでは死なん」


 とソンはなぜか自分の事のように得意げに口にする。多分……オレが強いのではなくて、他の奴らが弱いだけだと思う。


「そのまま中に入るんじゃ!」


 なーにが入るんじゃ! だし、他人事だなぁ。

 オレはため息をつきながらも、ゴミの山をかき分けるようにして家の中に入っていった。


 内部は村長の家と似たような木造りの小屋だった。幸いなことに、ゴミが積み上げられていたのは玄関の周辺だけで、廊下を奥に進むにつれて次第に足の踏み場ができた。よかった。

 廊下の先には扉がある。あの先に部屋があるのだろうか。ゴミを跨ぎながら歩くのは、足の短い幼女には辛いものがあるな。


 オレは背伸びをしながら扉のノブに手をかけて――思いっきり引いた。


「……えっ」


 てっきりまたゴミが溢れてくるのかと思ったし、なんならバリケードが築かれていて、家電とかが倒れてくるかもと命の危険を覚悟したけど、意外にも扉はすんなり開いた。


 ていうかさ……なんかこの部屋からピコピコ音がするんですけど……誰かゲームでもしてるんですかねー?


 とりあえず、すぐにやばい事にはなりそうにはなかったので、オレは恐る恐る部屋に踏み込んだ。


「……うっ?」


 その瞬間にオレを襲ったのは、なんとも言えない雰囲気……ではなく、まあ言っちゃえば()()だ。かび臭いような……どこか懐かしいような匂いだ。うーん……実家のような安心感! 思わずただいまって言いたくなるな。


「ただいまー!」


「おかえりー!」


 うっそ! 何となく言ってみたら返事があったぞ!? まさか……ほんとにお母さ……いやいや、なんで異世界にお母さんがいるねん! 多分現実だとオレのお母さんはピンピンしてるわ。多分だけど!


「いや、誰!?」


 オレは部屋の隅で設置されたディスプレイの前で寝っ転がりながら(ていうかこの世界にゲームあるんだ……その前に電気通ってるんだ……)、手に握ったゲーム機のコントローラーをカシャカシャ弄っている人物を見て思わず大声を出してしまった。


 そいつは、ボサボサの長い銀髪の女で、ぶかぶかの白いTシャツを着ている。そして、うつ伏せで胸元に白い大きなクッションを抱えるようにしながらゲームをプレイしている。ザ・典型的干物女だ。


「あっ、マジかぁ……入口の結界、突破されちゃったかぁ」


 銀髪の女は、あははっと笑いながらコントローラーを置くと、こちらを振り向いた。うーん、くるくると人懐っこい緑の瞳が特徴の、なかなかの美人お姉さんだ。ぐうかわなちゃんねえってやつだな。なんでこんな奴が引きこもりやってるんだ? てか魔王なのか? このちゃんねえは?


「あのゴミが結界なんですか?」


「あーうん、そのつもりー」


 ちゃんねえは右手でクッションを抱いたまま、左手でTシャツを捲りあげてお腹を掻いたりしている。……ていうかこいつ、マジでT()()()()()()()()着てなくないか? つまり、ボトムスは愚か下着すら着て……ゴホンゴホン! 自分の部屋だからってやめてくれ、幼女の教育によくないから!


 オレが慌てて目を逸らすと、こともあろうにやつはそのままノソリノソリとオレに近づいてきやがった。……なるほど、逃げるか。


「ちょっと待ってよーっ」


「なんで待たなきゃいけないんですか!」


 背を向けたオレの襟首は、ちゃんねえにしっかりと掴まれてしまった。相手は魔王だ……逃げられない……。


「はぁ……ひーちゃんは魔王じゃないってー!」


 こいつ……思考を読みやがった!?


「は、離してください!」


 オレが手足をバタバタさせて抵抗すると、ひーちゃんと名乗った魔王様はすんなりとオレを解放してくれた。


「だから……魔王じゃないのーっ。ひーちゃんはただの引きこもり。モリ・ヒキコだよっ」


「は、はぁ……」


 名前を聞いて理解した。こいつは引きこもりだ。ミカエルネーミングだから分かりやすい。


「キミはセツ・メイコだねー? だから結界が破られたのかぁ……」


 引きこもりさんは胸の前で抱えていたクッションをボソッと落とすと、両手を口元に持っていってふぁぁぁっと大あくびをした。

 ……クッションに隠れていたから分からなかったが、こいつの胸はかなりデカい。暴力的なまでだ。ミカエルよりデカいかも? しかも、Tシャツから伸びる日焼けのない白い手足には、引きこもっているせいか、ちょっと贅肉がついていてなんという……だいぶ肉感的で()()()だ。

 やめよう、これ以上は危険だ。早くこの空間から逃げないと!


「だからなんで逃げようとするのさー?」


 思考を読んでくる引きこもりほどめんどくさいものはないな! お陰で隙をついて逃げるなんてこともできない。


「わ、私ちょっと用事を思い出して!」


「はぁ……わかってるよ。村長さんに様子みてこいって言われたんでしょー?」


 逃げようとして首筋を掴まれて、もがいて解放されて……という一連のやり取りを繰り返したオレは、さすがにこれ以上は不毛だと判断して逃げるのをやめた。とりあえずこいつの話を聞いてやった方が早く解放されそうだ。


「……」


「やっと諦めたかぁー……じゃあ適当にそこら辺に座って? ひーちゃん人と話すの久しぶりだから少し嬉しいなーっ」


 自分で好き好んで引きこもってたくせによぉ……。

 とはいえ、逆らうのは時間の無駄なので、大人しく示された場所に座る。


「あーっ、肩凝ったよーっ」


 すると、なんと引きこもりさんは、どこから取り出したのか、電動マッサージ器を右手に持ってその先を股間……ではなく、左肩に当ててスイッチを入れた。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……」


 変な声だすなぁ!


 巨乳だからなのか、はたまたゲームのやりすぎかはわかんないけど、もっと他に肩のほぐし方ないんですかねぇ!? びっくりしたぞオレは!


 こいつは……この村の人間の中で間違いなく一番の変態だ。幼女が近寄っていい相手ではない。18歳未満の人間の接近を許していい人種ではない。


「メイコちゃんもどう?」


 引きこもりさんは、まるで同僚にタバコをすすめるサラリーマンのようなノリで、電動マッサージ器をオレに手渡そうとしてきた! なにやってんねん! 純粋無垢な幼女やぞ! 我、幼女也!

 大人のオモチャで穢そうとするな!


「いえ、結構です」


 なので断ると、引きこもりさんは、そっかそっかと笑った。……なにがそうなのかわからない。用がないなら帰るからな?


「ふぁぁ……メイコちゃん」


「……なんですか?」


「村長さんに伝言頼めるー? ひーちゃん外に出るのめんどくさいからー」


 外に出てください! しっかり運動して、あとちゃんと服を着てください! 色々とツッコミどころが多すぎて困るよこいつは……!

 でもまあいいか、文句言うとまたなにかめんどくさい展開になりかねないし……結局オレも引きこもりさんもめんどくさい事が苦手なのは同じかもな。こんなやつと共通点が見つかるのは心底嫌だけど。


「……聞くだけ聞きます」


「いい知らせと悪い知らせどっちから聞きたいー?」


「いや、どっちでもいいです」


 そういうゲーム性ほんといらないと思う。

「じゃあ悪い知らせから」といって彼女が続けた内容は、想像を絶するものだった。


「……一週間後に、この村を魔王四天王が襲ってくるよー」

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