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異世界ニート魔術師

 しばらくして、完全復活した女騎士は、妹の女神官を伴って意気揚々とオーク退治に出かけた。オレは女神官に気に入られてしまったようで、「よかったらどうぞ!」と、美味しそうな手作りおにぎりを貰ってしまったりしたので、またしても餓死の危機から逃れることができた。美少女の手づくりおにぎり……美味しかったです。


『なにをニヤけている? お仕置きが必要か?』


「やめてくださいよ。この世界は頭のおかしいやつが多いんで、ああいうまともな子に優しくされると嬉しいんですよ」


『はぁ……』


 分かってねぇなミョルニルは。

 おっ、話していたらまた誰かが村の中からやってきたぞ。ん? ちょっと待てあのハゲ頭は……。


「こんにちは、ここははじまりのむらです!」


「うむ、しっかりと仕事をしているようじゃな」


 杖をつきながらオレの目の前にやってきたのは、昨日オレが転生後に初めて出会った村人――村長のソンだった。


『ソン。こいつはサボってばっかで使えないぞ』


 おいこらミョルニル。ようじょキックを食らいたいようだな。


「ちゃんとやってましたから!」


『やたらと疲れた〜腹減った〜漏らした〜って嘆いてたイメージしかない』


 あー、いるよね。そういう人の欠点しか探せないやつ。こいつほんとに嫌いだ。


「……まあそれはいいんじゃが、説明子。お前に頼みたいことがある」


「ん? なんですか? といっても私ここから離れられませんけど」


「大丈夫、村の外には出ないしすぐに終わる。どうしてもお前にしかできないことなのだ。……ミョルニル、良いか?」


 ソンは近くに突き刺さっていたミョルニルに話しかけた。


『あぁ、他ならぬソンの頼みとあれば致し方ない。今日は勇者が来る気配はないし、少しの間なら良いだろう。行ってこいキャベツ』


「やったぁ! クソ看板のパワハラから解放されるぜぇ!」


『誰がクソ看板だ! 誰がパワハラだ! 尻を出せキャベツ!』


 しまった! 嬉しすぎてつい心の声が漏れてしまった!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」


 またしても、尻を叩かれる幼女の悲鳴が村に響き渡ることになった。




「で、私に頼みたいことってなんですか?」


 ソンに続いて村の中を歩きながら、オレは尋ねた。


「うむ……それなんだがな。……ダンジョン攻略じゃ」


「は?」


「じゃから、ダンジョン攻略じゃ!」


 いやいや、よく聞こえなかったんじゃなくて、意味不明だから聞き直してるの! なんだよダンジョンって。そういうのは勇者がやるんじゃねぇのか? 村の幼女にやらせるってどういうことだ。どんだけ人材不足なんだ?

 いや待てよ。確かにこの村の奴らは頭のおかしいやつらばっかりだし、他に頼れるやつがいないんだとしたらなかなかかわいそうだ。


「……嫌です」


 でも嫌なものは嫌なので、はっきり断っておこうな。面倒事の匂いしかしないし、オレの嫌うめんどくさい仕事の匂いもする。


「仕方ない。ミョルニルを呼んでお仕置きをしてもら――」


「やりますやりまーす! よーし、やるぞーっ!」


 そこでミョルニルの名前を持ち出すのは卑怯だ。くそぅ、ホントなら今すぐソンにようじょキックをお見舞いしたかったのに。


「お前ならそう言ってくれると思っておった」


 なーにが「思っておった」だ。てめーが脅したんだろ!


「あ、こんにちは! ここははじまりのむらです!」


 オレはすれ違った三人組の村人に反射的に挨拶した。そいつらは、昨日出会ったバグと同じようなポンチョを身にまとった男三人組で、服装だけでなく顔までそっくりだ。特徴のない顔、モブキャラ臭がする。


「むらのことなら村長にきくといいぞ!」


「武器はそうびしないと意味がないぞ!」


「むらの近くの森に強いまものが住み着いてしまった……! 誰かなんとかしてくれないものだろうか……!」


 男たちは三人とも同じ声で口々に応えた。なるほど、こいつらマジもんのNPCっぽいな。決められたセリフを口にしてるだけのようだ。村長ならここにいるぞ。武器なんか持ってないし、村の近くの魔物は知らん。オレは村から出られないんだし。


「ご苦労じゃな、A、B、C」


 へ? こいつらの名前はA、B、Cっていうんですか? 村人Aってやつだろうか。うーん、相変わらずミカエルのネーミングセンスは腐っている。


「むらのことなら村長に――」


 話しかけたソンに応え始める男たち。決められたセリフはあるもののある程度自由意志に基づいて行動できるオレとは違って、奴らはほんとに決められたセリフしか口に出来ないらしい。そもそも意志があるのかすら分からない。割と不気味だ。

 まあいい、実害がないだけマシだ。ソンとオレは男たちと別れて更に村の奥へと進む。村の奥にダンジョンがあるのか?


「ダンジョンというか、ダンジョン化してしまった家なのじゃがな」


「家?」


「あぁ、引きこもりが住んでる家じゃ。家から出てこないから生きてるか確認するために何人かに確認に行かせたのじゃが……誰も帰ってこなかった。なにも家の中に危険な瘴気が充満してるとかで」


 あぁ、ミョルニルも村には引きこもりがいるって言ってたな。しかしそんなにやばいやつなのだろうか? そんなところにか弱い幼女をやらすソンの神経はどうなっている?


「じゃあ私にも無理ですよ」


「いや、『説明子』は村から出れない代わりに、村の中ではちょっとやそっとのことでは死なん。恐らく、村の中においては最強の存在じゃ」


 そんな大層なもんじゃねえっての! ただのビビり幼女だよ! 爺さん、ボケてきてるんじゃないか? 大丈夫かな?


「あ、あの家じゃ」


 村の奥の奥、木の柵にくっ付くようにして建っている一軒家をソンは指さした。別に見た目は普通だけどな。


「「あ、村長。そして説明子じゃねぇか。あの家に何か用か?」」


「うわっ!?」


 いきなり背後からエコーのかかったような、まるで二人で同時にしゃべっているような声が聞こえたので、オレは変な声を上げて飛び跳ねてしまった。


 振り返ると、そこには青髪のイケメン――バグ・リーが立っていたのだが……。


「なんで分裂してるんですか?」


「「あぁ、これか。これはバグってこうなってしまった」」


 バグの体は二人に分裂しながらしきりに点滅している。分裂したそれぞれが同時にしゃべっているから声が変なふうに聞こえるみたいだ。とりあえずチカチカして目に悪いので直すか。



 メイコのようじょキック!――――▼


 しかしそれは分身だった!――――▼



 分身の方を蹴ってしまったか。足が空を切る。仕方ない。それならもう片方を蹴るだけだ。



 メイコのようじょキック!――――▼


 きゅうしょにあたった!――――▼


 バグに2345のダメージ!――――▼


 バグのバグはなおった!――――▼



「うぐぁぁぁぁぁっ!? ……すまねぇ、助かったぜ」


「よかったですね」


 バグの分裂は直って一人になった。まったく、世話の焼けるやつだ。


「バグ、お前はあの家のことを知っておるのか?」


 ソンがバグ直りたてのバグに話しかける。


「あぁ、なんでも引きこもりの魔王が住んでいて、訪れる村人をとって食うとかなんとか」


「魔王!?」


 いやいや、魔王ってあれだよね? ラスボス的なあれだよね? なんでそんなんがはじまりのむらにいるんだ!? しかもなぜ引きこもる!? 世界征服する気ないだろ!


「あくまでも噂だがな。少なくとも数年間、誰も出てきたところを見たものはいねぇし」


「その前は?」


「ずっと空き家だったんじゃが、村の外からやってきた何者かが勝手に住み着いたんじゃ。ワシもチラッとしか見たことがないが、銀髪の変人じゃった。確か魔法を使っていたような……」


「はぁ……」


 変人のソンに変人呼ばわりされるって相当だな。ていうか特徴聞く限りは限りなく魔王っぽいぞ。魔術師で銀髪とか絶対強いでしょ。どうすんだよオレ勝てないぞ多分。


「じゃあ入るだけは入りますけど、危なそうならすぐに引き返しますよ?」


「それで良い。頼んだぞ」


 最低限の保険は付けた。もう、扉開けてやばそうなら直ぐに戻ろう。うん、そうしよう。


「頑張れ隱ャ譏主ュ舌?るュ皮視繧貞?偵○?」


「ようじょキック!」


「ぐはっ! ……すまねぇ助かったぜ」


 オレはまた突然バグりはじめたバグにキックをお見舞いすると、心配そうな表情のソンとバグに見送られながら、引きこもりの住む家へと一歩踏み出した。


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