交通事故からはじまる異世界狂想曲
――人は何故働かなければいけないのか
これは永遠の謎だね。
働かざる者食うべからず。この資本主義社会で働かなくても生きていけるのは一部のブルジョワと、あと何? 趣味で食べてる人とかかな? 自分の好きなことをして生きていける人はほんとに羨ましいよね。
でも大多数の人間はそうじゃない。やりたくもない仕事を永遠とさせられて、年老いて使えなくなったらなけなしの退職金と年金をもらって「これであとは何とかしてねーっ」って言われる。うん、理不尽だ。
――働きたくねぇ
――楽して生きてえ
でもそんなことは許されない。わかってる。しょうがねぇな働くよオレは。
ならせめてこのクソッタレな世界を楽しむしかない。例えば、何の変哲もない通勤中の道。これをRPGの世界の魔王城への道と考えよう。道中には様々なトラブルが起こる。道にはゴミが落ちているし、もっと酷ければ犬の糞とか踏んづけちまうかもしれない。子どもが自転車で飛び出してくるかもしれないし、歩きスマホとぶつかるかもしれない。毎日が冒険! なんだか楽しくない?
そう、ちょうど今みたいに、暴走した車が突っ込んでくることだってあるのだ。
人間って凄いよな。ピンチの時ほど頭が冴えて、スローモーションで時が進む。突っ込んでくる車のフロントガラスの向こうには、慌てふためいた様子の白髪の男性の姿が見えた。最近は高齢者ドライバーの問題が取り沙汰されてるからな。気をつけてくれよ爺ちゃん。オレを殺しちまったらまたネットで叩かれんぞ。まあ、今更どうにもならんか。
さあ、ボウソウジドウシャがあらわれた! ――――▼
オレはどうする? ――――▼
んじゃ、とりあえず『逃げる』で。
オレはにげだした! ――――▼
にげきれない! ――――▼
ですよね。じゃあ戦おう。自動車相手に生身で勝てるかは分からんがやってみよう。
とりあえず防御だ!
オレはみをまもった! ――――▼
ボウソウジドウシャのこうげき! ――――▼
クリティカルヒット! オレに143466のダメージ! ――――▼
強っ! さすが鉄の塊。攻撃力が半端ない。でも不思議。脳内でRPGに変換してるせいか、思ったほど痛くない。これは新発見かもしれない。ノーベル賞取れるかもしれない。
オレはたおされた! ――――▼
やはり一撃死だったか。現実世界においては死=ゲームオーバー。リトライやコンティニューはできない。んなもん当たり前だ。つまりオレは終わった。ノーベル賞受賞する前に召されてしまったわ。
ボウソウジドウシャのドライバーは18のけいけんちをえた! 2000まんえんのそんがいばいしょうをせいきゅうされた! ――――▼
ドンマイだったな爺ちゃん。一応オレにも家族がいるんでね。今までろくに親孝行してなかったが、仮にも腹を痛めてオレを産んで育ててくれた母ちゃんが。金、しっかり払ってもらうぜい。
というわけで、オレの短い人生はこうやって幕を閉じたのでした。クソほどの役にも立たないクソみたいな人生だった。悔いはないぞ、うん。もし来世というものがあるなら、その時は――
――楽して生きたい
以上! 終わり!
――めでたしめでたし――