53 焼肉
「志織ちゃーんっ」
後ろから神様が来、どんっと背中を押されてよろける。
「風魔法・ヴィント!」
私はすぐ魔法で姿勢をたてなおす――
「ぎゃっ!?」
――ことよりも、神様を攻撃することを優先した。
風が神様の正面から吹き付け、姿勢を崩した神様が、
どしゃあっ!
私と同時に地面に倒れた。
「はっはっは、一人だけいい思いはさせんぞ神様」
「いやおかしいでしょ……普通自分がコケないように魔法使うでしょ」
「とっさの道連れ判断……我ながらいい判断だ」
「……何してんすか」
ファレアに呆れられたが、私は満足である。
立ち上がり、汚れを払う。
こういうとき、学園長が使ってた「クリーン」ってのは便利そうだな。
「殿! 美味そうなものを見つけましたぞ!」
少し前を歩いていたカイリュウが手を振っている。
竜三人のところへ行くと、肉の焼ける香りに、さっき満たされたはずの食欲がそそられる。
「『焼肉屋』、っすか」
「くふ……ほう……肉か……」
そこには祭りで見るような屋台があった。
どうやら、串に焼肉を刺したものらしく、片手で食べられる。
ということで、これを買うことに決定した。
どんな焼き肉があるかな?
メニューを見てみる。
ええと、牛、豚、鳥、蛇、鴨、
……蛇?
もう一回見てみよう。
牛、豚、鳥、蛇、鴨、兎、蛙、熊、アザラシ、鯨、猪、羊、魚、蜘蛛、などなど。
その下には、「お持ち込みOK!」と書いてあった。
えっと……焼き、肉?
「蜘蛛はまだ食べたことないな……でも蛇も美味いよな……じゅるり」
「ケイト、鍋食べたばっかですよ? あ、でも熊……美味しかったんですよね熊……」
「鯨やアザラシは食べたことありますぞ。しかし焼いたものは初めてですな……」
竜達がノリノリだが……まぁ、竜だし、野生だったし……しょうがないよな、うん。
「……えっと、私は豚にしとくっす」
他の人間達が若干引きつった笑みを浮かべている。
「俺は蜘蛛食べてみようかな」
完全に捕食者の顔で、ケイトがそう言った。
「僕は、そうだなぁ……熊にします」
「我は、アザラシ!」
蜘蛛とかよく食べる気になるよな。
まぁ個人の好みにはどうこう言わないけど。
えっと、お値段は、っと。
メニューの上の方を見る。
四十イェル! 安!?
なんという良心的なお値段なのでしょう!
肉を焼いていたおじさんに五人分の二百イェルを払い、熊とアザラシと……蜘蛛、と、私と神様の分の猪の串を受け取った。
他のみんなもそれぞれ好きなものを買っていた。
それはいいんだけど。
いいんだけどね。
蜘蛛の串が、なんというか……衝撃だった。
三センチメートルくらいの蜘蛛が、ぶすっ! ぶすっ! ぶすっ! てなかんじで、三匹串に刺さっていた。
見た目が完全にゲテモノ。
ケイトは喜々として食べてたけど。
とりあえず、これで最初の目的はクリア。
次の目的地、魔道具屋を探し、私達は歩きだした。