52 首都観光②―花鳥風月―
私達は、食べ物屋を探しつつ、話しながら歩く。
「ソルナ、ちょっと聞きたいんすけど」
「何?」
ファレアが横に来る。
「ソルナのまわりって美形率高すぎないっすか?」
「え、そう?」
神様、カイリュウ、ケイト、リヒト、キッド。
十二人中五人。確かに多めかな。
今も、町の人達にすごく見られてるし。特にその五人が。
すれ違う女性方が、その五人を見てボッと赤くなるのである。
中身が残念なのが一人混じってるが。
あと、ルードスさんとラウザンも、一応平均より上である。
「神様、ケイト、リヒト、カイリュウ、キッド、あとルードスさんにラウザン」
「ラーガルさんだっていわゆる癒し系なんじゃないっすか?」
「男子全員かよ。すげえ」
私も、確かに美形多くね? と思ってたのだが、冷静に考えるとやっぱり多かった。
「私的には、神様くんとケイトくんとリヒトくんがトップ3だと思うっす」
「あー、確かにね」
神様はお手本と言ってもいいくらいに整った顔立ち。かっこいいというよりは、綺麗だというのが近い気がする。
ケイトも、前世の学校で流行った男子アイドルが可哀想になるくらいの美形。造形の神様が特注でつくったと言われても全く違和感はない。
そんなリヒトの双子の弟であるリヒトもやはり美形。ただ雰囲気はケイトとは大分違う。クール系なのがケイトだとすると、ふわっとして可愛いのがリヒト、ってかんじ?
この三人がトップ3か。
で、カイリュウはさわやかな美青年。
キッドは、黙ってさえいれば普通に美少年に入る。黙ってさえいれば。
が、口を開くと、
「おい世間知らず馬鹿、何だ僕をジロジロ見て! 気持ち悪いし無礼だぞ!」
……コレである。
「ていうか、ファレアもキレイだよ?」
「ないっす、それは」
「そんなことないよ、キレイだよ? 少なくとも私よりずっと」
「……ネシュレ学園が誇る花鳥風月の一人が何を言ってるんすか」
……花鳥風月?
学園の?
「……え?」
「え?」
しばし、沈黙がおりる。
「知らないんっすか? ネシュレ学園の女子生徒の中で美人のトップ4をまとめてそう呼ぶんすよ」
何ソレ知らない。
というか、私がその一人?
「私なんかがそれなわけないし、第一、私今日初めて学園行ったよ?」
「今日、学園でめっちゃ見られてたの、気付かなかったんすか?」
え。
見られてた?
「全っ然」
私がそう答えると、ファレアは、はぁ、とため息をついて説明してくれた。
「今年の花鳥風月は、
『花』が2年生の『薔薇の姫君』、ローズ・リグ・フィーベル先輩。
『鳥』が5年生の『ハヤブサの片翼』、クシュト・ロイ・ニクス先輩。
『風』が8年生の『疾風の女王蜂』、ヒュイ・ルーア・クートン先輩。
去年まで『月』だった先輩は今年卒業しちゃったんで、生徒会が次の『月』を決めるため入学式のある今日も学園で調査してるんっすが、ソルナを見つけた、というわけです。
性格が見た目より甘くなかったというか、思ったことはハッキリ言うとか、ちょっとサドな一面があるとか、まあいろいろ性格が黒っぽかったけど実は優しいところがあったりと、『月』のイメージに合ったらしいので、今日から花鳥風月の『月』は、
『月下の天使』のソルレーナ・フォン・ナトゥア
っす。よかったっすね、性格黒めで」
「をい」
どういうことだよ性格黒めって。
しかし、『月下の天使』ねぇ。
生徒会が決めちゃったらしいからしょうがないけど、恥ずかしい二つ名だな。
ていうか、ローズ先輩じゃん。
いやそれより、入学式に美少女探しとか、生徒会何やってんだ! 暇だな!
「なんでファレアがそこまで知ってるの?」
「学園で周りの生徒達がめっちゃ話してたじゃないっすか……一応聞くっすが、生徒会の目的は?」
「知らん。暇だからじゃね?」
「違うっす。花鳥風月は、学校の代表の一つっす。だから、生徒会が決定するっす」
へぇ、暇だからじゃないのか。
生徒会の方々、失礼なこと言ってすいません!
「ちなみに、花鳥風月にはそれぞれファンクラブがあるっす。「花見衆」「鳥見衆」「風見衆」「月見衆」っていう名前っす。そのクラブに所属する人の名前も花鳥風月の人ごとにあって、例えば今年は、フィーベル先輩なら「赤の庭師」、ニクス先輩なら「風切り羽」、クートン先輩なら「働き蜂」。ソルナはどうなるんっすかね?」
なんじゃそりゃ……。
「花鳥風月は、さっきも言ったっすけど生徒会と並んで学校の代表の一つっす。頑張ってくださいっす、ソルナ」
まじ?
「ちょっとファレア、美味かもん探すの手伝ってくれとる? あれとかどげね?」
「あー、今行くっす」
ファレアがツァナのところに行った。
「あの、主君」
と、リヒトが話しかけてきた。
不安そうな表情のリヒトが横に来る。
「ん、どした?」
「えっと、あのぅ……」
リヒトは視線を地面に落とした。
「主君は、僕達がいらなくなったら、捨てますか?」
一瞬、言われたことが理解できず、固まる。
「いつまで、一緒にいられますか?」
やっと意味を理解し、何か言おうとするが、言葉が出てこない。
と、リヒトがハッとし、表情に後悔の色を浮かべた。
「ご、ごめんなさい! なんでもないです、忘れてください!」
そう言うと、リヒトはケイトとカイリュウのところへ走っていってしまった。
私はまだ言葉が出てこなかったけれど、リヒトが言ったことはやけに耳に残っていて、忘れられそうにはなかった。
神様は、リヒトとソルナの会話を少し後ろで聞いていた。
(いつまで、かぁ……)
神様の笑みが、一瞬苦笑に変わった。
(だったら僕は、)
つま先にこつんと当たった小石が転がる。
(……時間切れ、なのかなぁ)
転がった小石を、またこつん、と蹴る。
小石は、道の端に転がっていった。
神様はまた笑顔を浮かべ、にこやかに、ソルナに話しかけた。