44 いただきましょう
ちょうど話がまとまったタイミングで、鍋が運ばれてきた。
それぞれのテーブルの中央の穴に鍋がはめこまれる。
「それでは、火をつけます」
店員さんがエプロンから手のひらサイズの赤い鉱石のようなものを取り出した。
音声さん、あれ何?
『……認識。魔石でス』
へー、あれが魔石。
『あれハ火属性の魔石で、あラかじメ魔法がこめラレていマす。ナので、詠唱を行ウこトで魔法が行使可能でス』
なるほど。
「我らに知恵なる熱と光を、ゲノファイア」
店員さんがそう言うと、魔石が一瞬赤く光り、テーブルの穴のまわりの金属部分にポッと火が付いた。
『ゲノファイアは、料理によク使用さレる低火力の火魔法デす』
ほうほう、攻撃ではなく料理に使ったり灯りにしたりするわけか。
「くふぅ! 早く食事の挨拶をするぞ!」
食事の挨拶か。
「人によってそれぞれだと思いますんで、個人でするっす」
うん、それがいいね。
「ええと、獣の神アルマの御名のもとに。いただきます」
「慈愛の女神リラよ、今日も賜りしご慈悲に感謝を……」
「戦の神ファルバよ、業を成して備えとし……」
「汝の力なる雨は地への恵みと……」
皆がそれぞれ信仰する神に祈る。
リヒト、ケイト、神様はナトゥア家に合わせていたので、獣の神アルマに祈っている。
竜を司らない神に竜が祈るというのも、祈られる側であるはずの神様が祈るのも、おかしな話ではあったが。
「殿、これは?」
カイリュウが首をかしげている。
「これはね、皆、それぞれが信仰してる神様にお祈りしてるんだよ。神様によって微妙に違いはあるけど、今日も食べ物をくださってありがとうございますってなかんじで」
「ふむ、感謝は大事ですな。祈る、とはどのようにすればよいのですかな?」
「えっと、私の場合は『獣の神アルマの御名のもとに』っていったあと、両手を合わせて『いただきます』って言う」
「ふむふむ、心得ましたぞ!」
カイリュウも挨拶を終える。
「そんなら皿に入れるけん、みんな一人ずつやよ?」
ツァナが待ってましたとばかりに立ち上がり、ほかほかと湯気の立った豚の鍋からとりわけ用のおたまで具をすくって皿に。
おたまがかたむけられると、わっと湯気が立ち、それと一緒に出汁の美味しそうな香りが周囲を包み込んだ。
「うわ、美味しそ……」
ごくり、と唾をのむ。
「ハイ次、ソルナ」
「いいの? ありがと」
春菊やもやしに似た野菜、豚肉、こんにゃくなど、いろんな具が入っている。
四人におたまが回り、食べ始めた。
何から食べようか?
とりあえず野菜かな、と思い、白菜っぽい野菜をぱくり。
と、猛烈な熱さが舌を襲った。
「あっっつ!」
涙目になりながら水を飲む。
猫舌なの忘れてた……。
くそぅ、冷めないと食べられないじゃないか。
『スキル「風魔法Lv.2」「魔力操作Lv.2」を発動しました 』
私がやろうとしていることを、お分かりだろうか?
そう、風魔法で冷まそうとしているのだよ!
弱い風をおこして……いやLv.1だと威力が大分弱まるので、普通に風をおこすことを考えよう。
名前は「ゲール」で十分いいんだけど、食事中にぎょっとさせるのも悪いし、新しく考えるとしよう。
「風魔法、クールダウン!」
すると、私の皿の上を、魔法で出た風が通過する。
それと同時に、皿から熱を奪い取る。
「クールダウン」は、対象から熱を奪い取る風魔法なのである!
それでは改めて、いただきます!
しゃきっとした歯ごたえ。からみつく出汁。肉の旨みもとけだしている。
美味しー!
「うんめぇ! 鍋はうめぇのう」
「うむ。オレも同感だ」
「豚って美味しかったんですね!」
リヒト、知らなかったの?
「食べてみようとしたことはあるんですが、攻撃したら一撃でミンチになっちゃって」
……ここにも古代竜がいたぜ……。
「食べようにも食べられなくて。こんなにきれいに狩れるなんて、この豚を取った人はすごいですね!」
いや、すごいのは君たちのほうだろう、どう考えても。
やっと食べ始めました。
やったお昼ごはんだ、的なことを38部分からずうぅっと書いてるのにやっと食べ始めたよあいつら。