27 実技テスト
こんにちは、モスコビウムです。
「終了! 筆記用具を置け。テストを後ろから回収する」
テスト、やりきった~!
今回のテストの内容は、数学が百五十点、国語が百点、そして恐竜・古生物が二百五十点の合計五百点満点だった。
数学と国語は、範囲が小学四年生から高校三年生の内容。分かるところは答えたけど、中二と中三、あと高校の内容は分からないところが多かった。
恐竜・古生物は、二百五十点満点の自信があるくらいには簡単でしたかねぇ。
……なんてことを言っていた私は、今になってあることに気づいた。
……この世界の恐竜・古生物と、私がテストで答えた前世の恐竜・古生物って、別物……だったり、しない、よな……?
この世界には魔物と動物がいて、動物に関しては前世とほとんど同じ生き物がいるみたい。
だが生態系等は大きく異なる。前世では普通にいた動物がこっちではレアだったり、逆に前世ではとっくに絶滅してたはずの生き物がそこらへんにいたりもする。
前者の例としては鳩、後者の例としては朱鷺とかかな。
満点の自信がなくなったぜ。
「よし、テストの点数は二時間後に放送で発表する。ちなみに、今から5分後に校庭で行われる実技試験は見学が可能だ」
やった! 見に行こう。
「それでは解散!」
私はラーガルさんと神様と一緒に、ケイトとリヒトが受ける実技試験を見るため、校庭に行った。
あ、ちょうど始まるところだ!
さっきの教室百部屋分はありそうな広い校庭の、校舎寄りの半分のスペース。その中に、幅一メート理宇、高さ三メートルほどのわらの束が、一列に五束で二列、合計十束が立っていた。
同じ試験は試験でも、閉塞感が段違い。
と、一列目のわらの傍にいた男の先生が話し始めた。
「これから、このわらの束に魔法で攻撃してもらい、どのくらい傷がついたかを五百点満点中何点かで評価する。だが、防御力が非常に高いイナワのわらに何重にも防御力を上げる高位の強化魔法『ハイシールド』をかけてある。半端な魔法は通用しない」
なるほど。ただの藁じゃなかったらしい。
「それでは、生徒番号一番の生徒から」
「くふ……我か」
先生が説明を終えると、一人の女の子が一歩前へ出てきた。
「生徒番号と名前、あと使う魔法を」
「分かっておるわ。我が名はラテラト・ナーティ。生徒番号は一である」
絹かそれより上質だと思われる素材で作られた白いワンピースを着ている。
とくべつ美少女ってわけではないけれど、高貴なオーラをまとっている。
でも、名前が二段階、つまりフォンだとかロイだとかが名前の間に挟まってないから、平民だとは思うんだけど。
ナーティさんは周囲を見まわす。
「くふ……よいか愚民どもよ! 神より選ばれし『救世者』の称号をもつ我の! 華麗なる聖魔法を見せてやろうぞ!」
ぐみんっていわれた。
いいよーだ! 私だって一応ギフテッドだもんねー!
などと私が思っている間に、ナーティさんがゆっくり手をわらの束に向かってのばす。
「聖魔法、『光ノ裁キ』!」
ナーティさんがそう叫ぶと、光が円になって現れ、大きくなりながら二列に並ぶわらの束に向かってとんでいく。
ザンッ
小気味いい音を立てて、鋸のように光の円がわらの束を横一文字に切っていく。
六つわらの束を切ったところで、光の円は消滅した。
「おぉ…さすが『救世者』だ。あの強化に強化を重ねたイナワを、こうもあっさりと両断するとは」
男の先生は、そう言って得点をつけた。
「くふ……見たか愚民ども……我が大いなる力を……」
あっけにとられている生徒たちを見、ナーティさんは満足げに笑った。
ん?
ナーティさんの魔法で切られたわらの束が、元通りになっていく……?
私を含む驚いている生徒たちに、男の先生が説明を補足する。
「この試験場には、再構築魔法がかかっている。試験でついた傷は三秒で元に戻るようになっているから、次の者も待たずに出て来い」
へぇー、めっちゃ便利。
『スキル「魔力感知Lv.1」を発動しました』
むぅ。
確かに、なんとなく魔法がかかっているような……気がする。
『スキル「魔力感知Lv.1」は「魔力感知Lv.2」のLvUPしました
ボーナスで
スキル「火魔法Lv.3」を獲得
経験値を1002取得しました
スキル「白蛇の所以」の効果により
経験値が三倍になりました
人族 ソルレーナ・フォン・ナトゥア は
Lv.9になりました 』
あ、ラッキー!
魔法が、それもLv.3でもらえた! やった。
発動する方法は風魔法と一緒だろうから、あとで試してみよう。
あ、もう生徒番号二十一まで進んでる。
「生徒番号二十一番、モブラート・ヘン・ボイルです。風魔法、ゲール!」
わらが三本くらい切れた。
あのわらの束、やっぱりかなり丈夫だ。
私はふと、魔法の名前がいろんな生徒で大体同じだという事に気付いた。
私は自分で名前つけたけど、定型があるみたいだ。
今のところよく出てくるのは風魔法「ゲール」と火魔法「ファイア」。
私もバードなんていうのじゃなくて、定型を調べてからの方がよかったな。
ん?
あ、次ケイトだ。
「えと……生徒番号二十二番、ケイト、です」
「君、名字は?」
「いや、使い魔だから」
「あぁ、それでは、主人の名を」
「ソルレーナ・フォン・ナトゥアだったと思う……あ、いや思います」
「……ナトゥア家か」
む。
「くふ…愚民の底辺の手先か……」
ぐみんのていへんっていわれた。ちょっとショックです。
と、ケイトがナーティさんを睨みつける。
「お前、メシアだか何だか知らないが、俺の主をバカにするようなら粉々にするぞ」
こ、粉々……怖い、ケイトなら本当にやりそうで怖い。
「くふ、くふふ……愚民の底辺の手先の分際で我にそのような口をきくとは……。くふ……我に従い崇めておればよいものを……」
「なっ!?」
ケイトの目に殺気がやどる。
こ、この雰囲気はちょっとヤバいぞ?
「ちょ、抑えて! 抑えてください!」
「抑える義理なんてない」
「抑えて! 主君と一緒に学園行けなくなりますよ!」
「う……ぐぅ……」
リヒトが宥めてくれた。
よかった……。
ケイトなら、文字通り「粉々」にしかねないからな……うん、よかった。
「とにかく、このわらの束をブッ壊せばいいんだろ?」
「まぁ、そうなるが。君、ブッ壊すっていうけど、たぶん傷をつけるのが限界……」
ケイトは、先生の説明を最後まで聞かずに、校舎の二階くらいの高さまでジャンプで跳び上がった。
身体能力がえげつねえ。
ケイトは、上昇が止まった瞬間、手をわらの束に向かって手を突き出した。
「闇魔法、シャドークレート!!」
ケイトがそう叫ぶと、ケイトの手のひらに黒いけれど光のようなものが渦巻き、黒い球体のように収束しながら巨大化する。
一瞬で直径三メートルくらいになり、球体の巨大化が止まる。
先生と生徒たちが呆然と、ケイトと球体を見ている中、球体が高速でわらの束に向かって放たれる。
ズッ ドォオォォオオォッ!!
球体は、わらに触れた途端、物凄い衝撃音とともに爆発した。
砂煙があたりを包む。
しゅたっ
ケイトが着地する。
「ふー、スッキリした」
「ケイト、やりすぎちゃダメって言ったじゃないですか!」
「でもちゃんと校舎巻き込まないように、高く跳んでから地面に向かって魔法を」
「目立ってたらアウトですよ」
「え、あ。ごめんリヒト」
だんだん砂煙が引いていく。
そして、わらの束があった場所には、
直径十メートルくらいのクレーターができていた。
先生と生徒たちは絶句し、夢でも見ているかのように呆然とクレーターやケイトを見ていた。
やっと、先生が我に返り、「無」の顔になって得点をつけた。
「……次、生徒番号二十三番」
「あ、はい!」
あ、リヒトだ。
リヒトは、先程のケイトの破壊行……いや魔法の効果が嘘だったかのように元通りになったわらの束の前に出る。
「生徒番号二十三番の、リヒトです。ケイトと同じく、ソルレーナ・フォン・ナトゥア……に、仕えさせていただいています」
リヒトの言葉、特に後半を聞いた先生の目が一瞬、どこか遠くを見たことを、私は見逃さなかった。
「魔法ですよね。えっと、光魔法、光切波!」
リヒトはそう言うと、右手を肩の高さで横一文字に振った。
すると、その軌道を追うかのように一筋の光がすっと横に閃いたかと思うと、わらは全て両断されていた。
「よし!」
ガッツポーズをするリヒト。
リヒトは少し離れたところにいたケイトに駆け寄り、二人でいぇーい! とハイタッチ。
先生は黙って得点をつけていた。
「俺は、何も見ていない……クレーターとか……両断されたイナワとか……そう、何も見ていないさ……」
なにやらブツブツ言っていたけれど。
「えー、生徒番号二十四番の者は前に」
どうやら実技試験は、終わった人から解散でいいようだ。
だったら、この気まずい空気からケイトとリヒトを連れて一刻も早く逃げ出すとしよう。
「け、ケイト、リヒト、中庭でも行く?」
声をかけると二人はパッと顔を輝かせてかけてきた。
「主、見てくれてたのか?」
「ケイトってば、僕の忠告を聞きもしないで派手な技使ったんですよ!」
「だ、だって調整とか、いちいちめんどくさいし」
「なんだか身分の高そうな女の子にも突っかかるし!」
「それはあいつが主を愚民愚民って言ってたから」
「はいストップ。喧嘩はやめい」
しゅんとする二人。
「こんだけやったから試験に落ちるってことはないだろうし、結果オーライってことで。あとちなみに、派手ではなかったけどリヒトの魔法の威力も相当なモンだぞ」
よし、それじゃこの気まずい空気から逃げ出しま、
「げ」
「くふ……無礼な手先の主は貴様か……。我がわざわざ話をしてやる……感謝し、崇め……媚び諂って愚かな醜態を晒した上で……我に捧げものを渡すがよいぞ……」
後ろを向いたら、ナーティさんがいた。
「お前、また主をバカにしに来たのか? そんなに粉々にしてほしいのか。なんなら蒸発させてやろうか?」
物騒極まりねぇ。
「馬鹿にする? くふ……我がそのような幼稚なことに興じるように見えると? ……くふ……愚かな奴め……」
威嚇を続けるケイトと、挑発するナーティさん。
これでは気まずい空気が大量生産されるだけなので、ナーティさんには退場してもらおう。
「すいませんけどナーティさん、私はあなたに媚び諂うつもりはありませんので」
「何だと!? ……くふ、無礼で愚かな手先の主人は、やはり無礼で愚かであったか……くふ……許せぬ……我はIQ129の『救世者』であるぞ……。愚かな故……この格差が理解できぬとは……高貴なる我が哀れんでやろう、低能な虫ケラよ……」
あー、頭にきた。
……作戦変更。
気まずい空気を無視して、目の前のお嬢さんをなんとかしよう。
「ナーティさん、あなたの論理でいくと、あなたの負けですが」
「くふ……負け惜しみか……?」
「あなたがそんなに偉そうなの、IQが129だからととっていいんですね?」
「くふ、そうだ……我は平凡な者よりも高貴な知能を」
「私140なので」
「……は?」
「私、IQ140なので。あまり人に自分の能力をひけらかすようなことは好きじゃないんですが。あなたがそういう主張をするのならば、私も言いましょう。私はあなたより高貴な知能をもっている、という単純なことです」
「な、嘘をつけ……」
「嘘なんてついて、私に利がありますか? 別に鑑定してくださって結構ですよ? それとも、あなたはこの格差が理解できないおバカさんなのですか? おっと、これではあなたと同じことを言っていますね」」
「う、ぐぁ……」
「自分の能力を見せびらかして傲慢な態度をとり、相手を見下す……虫ケラ以下、いや虫ケラ未満の行いですよねー。さぁ、低能な虫ケラ未満なのはあなただと、やっと理解できましたか?」
「黙れ低能……」
「あぁ、そうでしょうね。私より優れた人はいっぱいいます。まあ私が低能だったとすれば、あなたは無能さんですかね?」
「貴様ぁ……!」
「ハッ、ほざけ雑魚」
王手。
「流石主!」
「主君、かっこいいです!」
「あねご、お強いっ」
「わあ志織ちゃん怖い……ていうか手加減ない……」
「えへ」
「志織ちゃん怖い……」
私、自分の能力を鼻にかけて人を見下すって、あまりよくないと思う。
そりゃ確かにナーティさんはIQが高くて賢い人だ。
でもそれを自分のためにしか使わないなら、本当に賢い人とは言えないんじゃないかな。
……と、私は考えます。
「覚えておるのだ、虫!」
ナーティさんはそういうと、走り去っていった。
個人的には、ナーティさんは結構お気に入りです。