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11 ストリートファイト、in船

 


 広間に行くと、さっき誰かが叫んだ指示に従って、全乗客およそ百人が集まっていた。

 何か皆さん円のように集まって、真ん中の方に大きくスペースが空いている。

 そしてそのスペースの中心には、筋肉ムキムキのマッチョさんが一人立っていた。


「集まってくれて礼をいうぜ。今から、サプライズイベントを行う! それは……ファイトだ!」

 

 集まった人たちがざわつく。

 ファイトは、路上や客船などで行われるゲームで、一人のファイターが挑戦者を募り、挑戦者はいくらかの挑戦費を支払ってファイターに挑み、もし勝てば、その時のファイターの勝ち金をもらえるというものだ。


「今回は全員参加だ。乗船チケットに番号がついていたと思う。俺がその番号を適当に呼ぶから、呼ばれたやつは俺と戦え! 挑戦費は五百イェルだ!」

 イェルはこの世界のお金の単位で、一イェルが日本円でちょうど一円くらいだと思う。

「まぁもちろん、番号を呼ばない挑戦(チャレンジ)も受けて立つぜ! それじゃあ早速スタートだ。挑戦者(チャレンジャー)は!?」

 誰も名乗り出ない。

 だよねー。

 私だってこんなマッチョなおっさんとなんて戦いたくないし。



「じゃあ……七番だ!」

「俺か」

 ファイターの後ろの方から声がした。

「お父様ぁ、がんばってください!」

 七番さんが歩み出ると、七番さんがさっきまでいた場所からおそらく八才くらいの少女が顔を出した。 七番さんの子供かね?


 さて七番さんだが、なかなか引き締まった体つきをしている。

 七番さんは軽く拳を握って腰を落とし、かまえをとった。この人何か武術をやっているんだろうか。

 七番さんが鋭いパンチや蹴りを続けて繰り出す。が、ファイターに全て軽々とよけられてしまう。

 と、ここで七番さんの表情が変わり、一歩踏み込んで回し蹴り!

 しかし、ファイターは蹴りが当たる前にしゃがんでかわし、低姿勢から七番さんの鳩尾に蹴りを繰り出した。

「ぐっ」

 勝負あり。

 七番さんは鳩尾をおさえながらよろよろと家族のもとへ戻っていった。

 すごい、このファイター強い。



「なかなかいいが、まだまだだな! さあて次は……八十七番!」

「ひぃっ、僕!?」

 三十才くらいのぽっちゃりした男の人がファイターの右の方で悲鳴を上げた。

 あちゃー。

 試合が始まる。

 まあここにいる人の大半が予想していたとおり、開始十秒とたたないうちにぽよぽよしたお腹にファイターのキックがヒットし、八十七番さんはあっさり負けた。

「全然だめだ。もっと俺を興奮させるような強者はいないのか? 次は、三十九番だ!」


 あれ?

 誰もファイターのところへ行かないし、悲鳴も聞こえない。

「誰だ? 怖気づいているのか? 出てこい三十九番!」

 ……そういえば私って何番だっけ?

 この時間に、一応見ておこう。

 ドレスにはポケットなんてものはなかったので、手に持っていた乗船券を見る。

 ……おっと?

「おい、ここの子供が三十九番の乗船券もってるぞ!」

 そういった男の人の視線の先にいるのは……。


 そう、何を隠そう、私だ!


 周りにいた人たちがサーッと私から離れて行き、自然とスペースができたので、私が中心スペースに出ていったような格好になった。

「ソルナ!?」

 エーデル姉様の声(悲鳴ともいう)が聞こえた。

「ほぅ、随分と可愛らしいお相手だなぁ」

 ファイターがニヤリと口角を上げる。

 え、戦う気?

「ちょ、ソルナはまだ三才なんだ! 呼ぶ番号を変えて……」

「いや、もう三才だ。この船に乗るのに乗船券が必要になるのは三才から。乗船券を持っているってことは、つまり参加できるってことなんだよ。まぁ、挑戦費くらいはタダにしてやるか」

 シュルト兄様の案を却下するファイター。

 ええ……。

 三才相手にいい男大人がファイトとか。

「そんな…ソルナぁぁぁぁぁ!!」


 ぶおーー。

 シュルト兄様の悲鳴をかき消すようにスクリューが唸る。

 その音と同時に、ファイターがとびかかってきた。

「ひぃ!」

 とっさにしゃがむ。

 飛びつくものがなくなったファイターは、顔からずざざーっと床に着地した。

 キッと怒りのこもった目を私に向けるファイター。

「こんのガキィィィ!」

 猪のように突進してくる。

 頭がちょうどいい高さだったので、近づいてからせめてもの足掻きとフックを繰り出す。

 私は頭を狙ったつもりだったがその間にもファイターは前に進んでいたため、私のフックはファイターの首にヒットした。

 そして私の小さな拳はファイターの首の骨の間にめり込んだ。

「ギヤァッ!」

 ファイターが悲鳴を上げ、首をおさえながら横に転がって私から距離をとった。

 見ていた人たちは状況が分からずきょとんとしていたが、数秒後状況を理解したのか半分くらいの人が応援をはじめてくれた。

「やるじゃねえか嬢ちゃん!」

「無理すんじゃねえぞ!」

「頑張れ!」

 ふう。拳が小さくて良かった、かも。ラッキー。


 私を応援する声か、私のフックか、それとも他の何かに腹を立てたのかは知らないが、首をおさえて蹲っていたファイターがガバッと立ち上がり、背後に敵意の炎を燃え上がらせた(ように私には見えた)。

「うらぁぁぁぁ!!」

 さっきとは比べ物にならないスピードでファイターが突進してきた。

 そんなスピードを、私が見切れるはずもがなく。

 まして、避けられるハズもなく。

「ぎゃふっ」

 私はまともに突進を受け、ふっとんだ。

 前世で同じようにふっとんでいた赤い竜を思い出す。

 同情するぜ、じいさん……。

 床に落ちるまでがスローモーションに感じられた。

 どすっ。

 派手な音をたてて床に落ちた。

「きゅう……」

「ソルナぁぁぁ!!」

 シュルト兄様が叫ぶと同時にわたしの傍にかけよってくる。

 シュルト兄様は目を回した私を抱き上げて、兄弟達のところへ連れていってくれた。

「ソルナ、痛いところはないかい?」

「あります……ていうか全身痛い……」

「三才の子供とファイトするなんて、あのファイターどうかしてますわ」

「あの野郎! 俺がブッ飛ばしてやる!」

 ファイターのところへ行こうとしたダンク兄様を、横にいたゼルク兄様が左手を広げて制した。


「ちょ、なんでだよ! ゼルク兄だって腹立つだろ!?」

「いいからここで待て」

 ダンク兄様は納得いかない表情をしながらも渋々引き下がった。

 それを見て、ゼルク兄様が中心スペースに歩み出る。

「え、ゼルク兄!?」

 兄弟達が驚きの声を上げるが、ゼルク兄様は歩みを止めない。

 そして、ファイターの二メートル手前あたりで立ち止まった。

 ゼルク兄様が何かを指ではじく。

 回転しながら床に落ちたそれは、500イェル硬貨だった。

挑戦者(チャレンジャー)は歓迎してくれるんだろう?」

 ゼルク兄様はめずらしく挑発的な口調でそう言った。

 ドスがきいているわけではないが、冷たい声色だったので兄弟達ですら少し顔を蒼くした。

 しかしファイターに物怖じするような様子は見られず、むしろ好戦的な表情だ。いわゆる戦闘狂というものなんだろうか。

「若造がイキってもいいことはねえぜ?」

「ああ。それはあんたを見てよく分かっているつもりだ」

 眉一つ動かさず、淡々と皮肉を言う兄様。

 う、うわぁ。

 兄様、かなり怒ってる。

 そして、今の発言でファイターもかなり怒った。


「こっっの」

 そしてゼルク兄様に突進するファイター。

「全く、ワンパターンな奴だ」

「猪突猛進が俺のウリなんだよ!」

 私をふっとばしたときより明らかに速い突進をゼルク兄様は表情一つ変えず横にひらりとかわし、そのまま流れるようにファイターの横腹に蹴りを入れる。

 ファイターは横にふっとび、床を数回バウンドしてからやっと止まった。

 え、ゼルク兄様強すぎじゃね?

 ファイターは数秒後に立ち上がり、兄様をギッと睨みつけ、さっきの突進よりさらに速度を増した物凄い速さで兄様に殴りかかった。

「兄様あぶないっ!」

 とっさに叫ぶ。

 が、そんな心配は必要なかったようで。

 ゼルク兄様はパンチを受け止めたり、そらしたり、かわしたりし、その上で相手(ファイター)にフェイントをかける等して挑発している。

 ゼルク兄様すげえ。どんだけ万能(オールマイティー)なんだよ。

 勉強もできて運動もできる文武両道とか、すげえ。

 と、ファイターがしびれをきらして、威力を増したパンチを放とうとした。

 その、一瞬のスキ。

 そのスキにゼルク兄様はパンチを避けながらファイターの鳩尾にパンチを入れる。

「がはっ」

 鳩尾をおさえてうずくまるファイター。

 勝負あり。

 私はシュルト兄様に抱き上げられたままだったので降ろしてもらい、ゼルク兄様に駆けよる。

「ゼルク兄様っ!」

 一瞬驚いたような表情をしたゼルク兄様だったけれど、すぐほっとした表情になって、私の頭を撫でてくれた。

「痛いところはないのか?」

「はい、大丈夫です!」

 後ろの方で、見ていた人たちの一部、主にご婦人方が、いいお兄さんねえ、などと言う声が聞こえる。

「兄様すごいですね! かっこよかったです!」

「そうか」

 照れたのか、ちょっと顔を赤くする兄様。

「ゼルク兄様!」

「ゼルク兄、さすがだな!」

 兄弟達も駆け寄ってくる。父上と母上も微笑んでいた。

「くそ……」

 忘れられていたファイターが起き上がる。

「ほらよ」

 ファイターが投げ、チャリンと音をたてて床に落ちたのは、挑戦者(チャレンジャー)達が支払った1500イェル――500イェル硬貨3枚だった。

 ゼルク兄様はそれらを拾うと、1枚を7番さんに、別の1枚を87番さんに投げてわたした。

「ゼ、ゼルク兄様が優しい……?」

 ミレーヌ姉様が目を見開いてそう言った。

「ほら、ずっとそこにいては迷惑になりますよ」

 母上が声をかけてくれる。

 私達が広間から出ていく頃には、集まっていた人たちの大半は各自の個室に帰っていっていた。





こんにちは、モスコビウムです。

今回は、書きたかった戦闘シーンです。イェーイパチパチ。

「何が『イェーイ』だよ!痛かったんだからさ、こっちは!」

「そうだよ、僕もソルナがとんでいくのを見ていられなかったよ」

あ、ソルナと前回もいたシュルト。

「いやあでも、文武両道のゼルク兄様はうらやましいけど頼りになるなー、と今回実感したよー」

「ソルナも可愛いよ♪」

「兄様…嬉しいですけどそういう発言やめた方が」

「なんで?」

「…や、いいです」

えーと、二人の事は置いといて。

今回も、楽しんで頂ければ嬉しいです。


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