窓際クランの新人戦3
時間は少し遡り、十匹のビッククラブを倒した直後のこと。
ユーリは撮影担当のギルド職員に質問をしていた。
「すみません、ギルド職員さん。現在の得点ってわかりますか?」
「すごいですよ、皆さん。レイラさんは現在二位です!」
そのセリフを聞いて、ユーリは少し苦々しい顔をした。ギルド職員はそれをみて不思議そうな顔をした。二位だというのに全然喜んでいなかったからだ。
周りで聞いていたフィーもそのセリフを聞いてササっと装備を整え、近くに転がっていた小石を拾った。
「じゃあ、止まってる間はないわね。次行ってくるわ」
「おう。よろしく頼む」
フィーはそう言い残すと、モンスターハウスの方へとモンスターを誘い出しに行った。
アルティナにパーティメンバが一人いた。彼女のポイントを稼ぐために、最初はアルティナが補助に入るパターンも考えていたんだが、パーティメンバーのポイント稼ぎは後にするらしい。
先にやってくれれば少し余裕が増えたんだが、そう上手くは行かないらしい。
「・・・最初なんて関係ない。最後に一位になっていればいい」
難しい顔をしているユーリにレイラがそういうと、ユーリはため息を吐いた。
「それもそうだな」
フィーがモンスターを連れてくるまでそう時間はない。ユーリは盾を構え、レイラも杖を構えて、次の魔法を使う準備に入った。
しかし、そのセリフを聞いていたギルド職員は衝撃を受けた。
「え!?一位を取るつもりなんですか!?アルティナ様がいるのに!?無茶ですよ」
ユーリは苦笑いしながら大声をあげたギルド職員の方を顔だけ振り返った。
「無茶なのは知ってるよ。でもやらないといけないんだ」
ユーリの真剣な瞳にギルド職員の女性は一歩引いた。
ユーリはしっかりと盾を持ってモンスターハウスの方を見据えた。
「大切な俺たちの居場所のために、引くわけには行かないんだよ」
「だからって」
そう話しているうちに、遠くからフィーが引っ張ってきたビッククラブの足音が聞こえてきた。
「連れてきたわよー」
ユーリはもう振り返らない。
「あと二時間!全力でやるぞ」
自分を鼓舞するために力強くそういうと、返事が二つ帰ってきた。
「・・・当然」
「当たり前でしょ」
ユーリは思わず頬を緩めた。それでも、集中は全く途切れていなかった。むしろいつもより集中できている気がした。
こうして二回目の戦闘が始まった。
***
実況席の二人は驚きに目を見開いていた。
後半になり、三分の二を過ぎたあたりでアルティナが絶対的に有利だった状況は変わってきていた。
画面の向こうでは効率的に敵を倒し、次のモンスターを釣りにフィーが駆け出していた。
「『紅の獅子』パーティ!四個目のモンスターハウスをもうすぐ潰してしまいそうだ!対するアルティナ様は二十体目の大型個体部屋に向かって移動中。しかし」
ルナは現在のアルティナの位置とおそらく次に向かっているであろう大型個体の部屋を地図で確認した。
「遠いですね」
「そうだな。まさかこんなことになるとはな」
アルティナが向かうべき大型個体の部屋はかなり離れた位置にあった。移動にはかなりの時間がかかりそうだ。
得点的にはまだアルティナが有利だが、このモンスターハウスをユーリたちが潰してしまえばおそらく逆転する。そういう状況まで来ていた。
しかし、アルティナが大型個体の部屋に着く方が早かった。アルティナがジャイアントシーホースを倒して少ししてからユーリたちは四つ目のモンスターハウスを潰した。
そこで奇しくも、レイラのポイントは1000ポイントとなり、アルティナとポイントが並んだ。
「おっと、ここで、ポイントが並びました」
ユーリたちも荷物をまとめて次のモンスターハウスへと移動を開始した。
「そして、次の『紅の獅子』の目的地より、アルティナの目的地の方が遠い」
そうなのだ。最初は大型個体部屋の密集地体で狩りを始めたアルティナだったが、今は大型個体部屋があまりないエリアまで足を伸ばしている。
一方ユーリたちはまだまだモンスターハウスの密集地体から出る気配はない。一部屋でのポイントの数が大型個体よりモンスターハウスの方が多いことがここになって効いてきていた。
そして、ユーリたちは次のモンスターハウスにたどり着き、レイラが一体目のビッククラブを倒した時、レイラのポイントが単独首位になった。
大広間からはワッと歓声が聞こえてきた。アルフレッドとルナも驚きで目を見開いていた。
「いったい誰が想像したことでしょう。『紅の獅子』逆転しました!単独首位!単独首位です!!」
ルナが興奮気味にそういうと、アルフレッドはユーリたちを賞賛するように拍手をした。
「いや。あっぱれとしか言いようがないな。これはもう窓際クランなんて言ってられないな」
ルナは椅子から腰を浮かせて、少し興奮気味にアルフレッドに向かって言った。
「アルフレッドさんはこのまま『紅の獅子』が一位だと思いますか?」
ルナの問いに対してアルフレッドは余裕そうにニヤリと笑顔を向けた。
「いや、こんなところで終わるやつじゃないよ。アルティナは」
画面の向こうではアルティナがパーティメンバーの女の子をお姫様抱っこしていた。




