窓際クランの決戦当日3
出場者はクランごとに待合室に案内される。
部屋といっても、窓と扉が一つづつある部屋に机と椅子が置いてあるだけの場所で、十人分の椅子があるが、十人入ればいっぱいいっぱいになるような場所だ。
当然、どの部屋も窓と扉を全開にして少しでも圧迫感を下げようとしている。
ユーリたちは自分たちの待合室に入った。十人入れば狭いが三人しかいないユーリたちにとっては十分に広い部屋だ。ユーリは普通に扉を閉めた。
窓も開けようか迷ったが、外の喧騒がない方がリラックスできると思ったので、開けなかった。
「しっかし新人ってこんなにいたんだな」
「・・・ユーリはもっと外に行くべき。ダンジョン以外、ほとんどずっとクランハウスにいる」
ユーリのつぶやきにレイラは冷たく返した。フィーもうんうんとうなづいた。
「そうよ。友達とかいないの?」
フィーの質問にユーリは苦笑いしながら頬をかいた。
「ははは。フィーとレイラ以外だと、アルくらいかな」
ちょうどそのタイミングで扉が開いた。
開いた扉から入ってきたのは話に上がったアルティナだった。
「僕のことを呼んだかい?」
「おぉ。アル!」
ユーリが右手を上げて近づくと、アルティナは少し恥ずかしそうにその手にハイタッチをした。こう言う対応には慣れていないらしい。
「やぁ。ユーリ。久しぶりだね」
「久しぶり。まぁ、最近はずっとダンジョンだったから、誰とあっても久しぶりなんだけどな」
そのセリフにアルティナは一瞬目を見開いて驚いた後、顔を引き締めてユーリを見た。
「そうなんだ。じゃあ、今日は期待してもいいのかな?」
ユーリはニヤリといつものように余裕がありそうに笑った。
「楽しみにしていていいぜ?まぁ、勝つのは俺たちだけどな」
アルティナもユーリに向かって微笑んだ。しかし、その微笑みにはいつものような柔らかさはなかった。
獲物を狙う狩人のような、研ぎ澄まされた剣のようなそんな気配が潜んでいた。
「言ってくれるね。僕も負けるつもりはないよ。僕は五階層の一番の転移門から行くつもりだが、ユーリはどうするつもりだい?」
「それは秘密♡」
わざとらしく頬に人差し指をつけてぶりっこポーズをとり、可愛らしくユーリはそういった。すると、アルティナの頬が一瞬引きつった。どうやらお気に召さなかったらしい。
「ぷはは。なんだいそれは!?」
ちがった。笑いをこらえていたらしい。ユーリはアルティナにわかるくらいに顔が真っ赤になった。
「アルティナ様ー!」
そんなやりとりをしていると、外からアルティナを呼ぶ声が聞こえてきた。アルティナは目尻に溜まった涙をぬぐいながら扉の方を見た。
「おっと。呼ばれてるみたいだ。僕はもう行くよ」
「おう!お互いガンバろうぜ!」
ユーリはアルティナに向かって拳を突き出した。
「あぁ」
ユーリの突き出した拳に軽く拳をぶつけて、アルティナは少し嬉しそうに去っていった。
「・・・ユーリはすごい。あのアルティナ様と普通に話してる」
「そうか?」
その時、こんこんと扉をノックする音が聞こえた。千客万来だ。ユーリたちが許可するより早く部屋に入ってきたのは、ミミだった。
「やほー。元気そうだね」
「・・・ミミも、元気そうでよかった」
レイラとミミが楽しそうに話していると、ユーリはカバンから地図を取り出してミミに渡した。
「そうだ。これをあげるよ」
「なにこれ?五階層の地図?」
ミミはその地図をしっかり確認した。
「そ。そして、その赤い丸が大型個体の部屋で、赤い線が比較的モンスターに邪魔されずに大型個体の部屋を移動するルート」
「今これを渡すってことは、アルティナ様がどこから行くかわかったの?それにこの地図に書いてるのって」
実は、事前にミミにはアルティナの近くの転移門から潜って大型個体の部屋を潰しておいてくれるようにお願いしておいたのだ。とは言っても、ミミが潰した大型個体の部屋にはアルティナはおそらく行かないだろう。保険の保険といった意味あいだ。
「パーティ全員で決めたことだよ。出会うことはないだろうけど、出会ったらよろしく頼む」
「まあ、いいけど・・・」
そうこう話していると、探索者ギルド側からアナウンスが入った。
『参加者は所定の転移門にいどうしてください』
「もう集合か。またな」
「えぇ。また」
そう言ってミミは部屋から出て行き、ユーリたちは探索の最終準備を始めた。
***
五階層への転移部屋には五つのパーティがいた。みんな緊張しているようで硬い表情をしていた。
いや、みんなではないようだ。2番の転移門の前に立ったユーリが辺りを見回していると、1番の転移門の前にたったアルティナと目があい、柔らかく微笑みかけてきた。
ユーリは苦笑いすることしかできなかった。
「準備はいいか?」
「・・・ん」
「だ、大丈夫よ!」
フィーは小さく震えていた。緊張がまたぶりかしてきたらしい。そういえば控え室でも一言も喋っていなかったような気がする。
ユーリはフィーの背中をばちんと叩いた。
「痛いわね!なにするのよ!!」
フィーがユーリの方を睨むと、ユーリはいつものように笑った。
「今回が最後ってわけじゃないから、全力を出そうぜ」
フィーがあっけに取られたような顔をしていると、今度はレイラがフィーの背中を叩いた。
「・・・私たちはずっと一緒」
「ユーリ、レイラ・・・そうね」
フィーはまっすぐと転移門を見てたった。もう、フィーの震えは止まっていた。
レイラとユーリはそんなフィーの様子を見たあと、目を合わせると安心したように笑いあった。
「それでは、スタート!!」
三人はその声を聞くと同時に駆け出して転移門に飛び乗った。
こうして、ユーリたちの今後が決まる新人戦が始まった。