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窓際クランの大会に向けて

 ユーリはアルティナの置いていった袋を見つめた。


「俺ももらっても困るんだけどな」


 そう呟きつつ、袋を開けた。

 袋の中には数え切れないほどの金貨が入っていた。

 この量を一瞬で仕分けするなんて、アルティナの取り巻きはかなり優秀なのかもしれない。


「しょうがない。アルの要望通り、新人戦で全力を出すために使いますか」


 重い袋をヨッコラセと持ち上げて、ユーリは探索者ギルドを後にした。


 ***


 探索者ギルドを出たユーリが向かったのは『灰色の狼』のクランハウスだった。

 入り口から入ると、「お、大ポカじゃねえか」とか「今日はどんな手で笑いをとってくるんだ?」とかいわれた。

 ユーリはその声に苦笑いをしながら返事をしつつ、前に声をかけてきたベテランの探索者に声をかけた。


「こんにちは。リュウさんいますか?」


 そう声をかけると、ベテラン探索者はユーリの方を振り向いてニヤリと笑った。


「なんだ?大ポカじゃねえか。リュウさんだったら奥にいるぜ?呼んでくるか?」

「その呼び方はやめてくださいよ。できれば買いたいものがあるので、お願いします」


 ニヤニヤ顔だった探索者はスッと顔を引き締めた。

 このクランはグレークランとして有名だ。そんなところに買いに来たとなれば、まともなものでないことがほとんどだ。相当ヤバイものだったら、大人として、注意するつもりでいた。

 なんだかんだといって、このクランのメンバーは気のいいやつが多いのだ。


「買いたいものが?ものによればリュウさんを通さずでも売ってやるが、なんだ?」

「情報です。新人戦に向けて、五階層の情報が出来るだけほしいので」


 ユーリがそういうと、ベテランの探査者は頬を緩めた。

 買いに来たのがまともだったのと、目標に向けて頑張る青年に好感を持ったのだろう。


「あぁ。それはリュウさんの許可が必要だな」


 そう言って、ベテランの探索者は軽い足取りで奥に消えていった。

 しばらくしてリュウが奥から出てきた。


「ユーリ。五階層の情報が買いたいんだって?」

「はい」


 ユーリはアルからもらった分の袋を机の上に置いた。中身はほとんどが金貨で、袋から溢れた数枚の金貨が机の上に転がった。

 マッドフィッシュ暴走の収束の報酬とマッドフィッシュの魔石の報酬に加え、今日は数匹のジャイアントシーホースを倒した。それに加えて、ユーリがギルドに預けていたユーリのこれまでの探索での稼ぎの大半が入っている。

 そのため、袋の中身は結構な額になっていた。

 その量に後ろで立っていたベテランの探索者は目を見開いた。


「これで買えるだけの五階層の情報を。モンスターハウスの位置、大型個体の位置、抜け道を中心に買いたいです」

「こんなにどうしたんだ?」


 リュウが訝しげに目を細めながらユーリの方を見るとユーリは恥ずかしそうに頬をかいた。

 ユーリ自身も勢いでちょっとやりすぎたかなとは思っていた。


「ちゃんと正攻法ですよ?今までの稼ぎとかも入ってます」


 リュウはユーリの様子を見て、大丈夫だと思ったのか、ユーリが机の上に置いた袋を受け取り、後ろにいたベテランの探索者に渡した。

 ベテランの探索者は袋の重さに驚きながらも、奥へと消えていった。


「まぁいいが、ここまでして勝ちたいとはね」


 リュウは運ばれていく袋を見ながらそういい、ユーリの方を向き直ってニヤニヤと笑った。

 周りでやり取りをもていた探索者もリュウと同じようなニヤニヤ顔をしていた。


「惚れた女のためか?」


 ユーリはキョトンとした顔をした後、周りを見回した。リュウを含め、周りのみんなが若者をからかうおっさんの顔をしていた。

 ユーリは苦笑いしながらかぶりを振った。


「はは。申し訳ありませんが違いますね」


 そして、リュウの方を真剣な瞳で見つめた。


「ライバルに負けたくない。そんな男の維持です」


 リュウは目を向いた。

 そして、おもむろに立ち上がると、ユーリの背中をバンと叩いた。

 周りにいた数人も、ユーリの髪をぐしゃぐしゃにしたり、リュウさんと同じように背中を叩いたりしてきた。


「ははは。おもしれぇ」


 ユーリは目を白黒させながら嵐が去るのを待っていると、リュウがどかりと椅子に座った。


「いいだろう。集められるだけ集めてやる。ただし」


 リュウが話し出すと、探索者たちはユーリにちょっかいを出すのをやめた。なかなかの統率力だ。

 ユーリが乱れた髪や衣服を整えながら顔をあげるとリュウは強い瞳をユーリに向けていた。


「俺たちが力をかすんだ。無様な負けはゆるさねぇぞ?」


 ユーリは衣服を手早く整え、姿勢を正してリュウに負けないくらいの強い瞳で見返した。


「もちろんですよ」

「よし!」


 リュウはニヤリと笑った。

 新人戦はすぐそこまで迫っていた。

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