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窓際クランとお誘い

 最後のマッドフィッシュをアルティナが斬り伏せた。

 ユーリとアルティナは少しの間その場で武器を構えて、次のマッドフィッシュがくるのに備えていた。

 おそらく1分くらいの間緊張を保っていたが、どうやらもう次のマッドフィッシュは来ないようだ。ユーリが先に緊張を解いた。


「ふー。終わったー!」


 ユーリはバタンとその場に寝転がった。盾から手を離していないところをみるに、完全に気を抜いているわけではないようだ。

 それでも、戦闘中の張り詰めた意識はどこかへ放り捨ててしまったようだ。

 アルティナはそんなユーリの様子を見て、微笑みを浮かべ、剣を鞘に戻した。そして、ユーリの隣へ腰を下ろした。

 地面に腰を下ろすなど、普段の凛とした佇まいの彼女ならぜっていにしない行動だ。それだけ疲れており、ユーリに気を許しているのだろう。


「おつかれさま。ユーリ」

「おー。アルこそお疲れー」


 アルティナの労いの言葉にユーリは気だるげに返した。

 アルティナはそんなユーリを見てくすりと笑った後、周りを確認した。


 あたりにはおびただしい数のマッドフィッシュが横たわっていた。

 魔石をとっていないので1日ほどは残るだろうが、これから魔石を採集する元気はない。

 魔石の採集は申し訳ないけど、おそらく三人娘が呼んでくる応援の探索者に任せることになるだろう。流石に1日はかからないはずだ。


 アルティナは自分の体を確認した。

 体は疲れているが、ダメージはほとんどない。アルティナはこれほどやりやすい戦闘は記憶になかった。

 それもこれも、ユーリがアルティナを守ってくれていたからだ。


 アルティナは意を決してユーリの方を見つめながら話しかけた。


「ユーリ・・・」

「んー?なんだ?アル?」


 ユーリがアルティナの方を見ると、アルティナは真剣な瞳でユーリを見ていた。

 ユーリは思わず息を飲んだ。


「『金色の麒麟』に移籍しないかい?」


 アルティナの提案はユーリの予想外の内容だった。

 いや、予想してしかるべきだったかもしれない。彼女は今日一人で戦っていた。それだけ彼女の力が突出していたからだ。ユーリから見ても、彼女の強さは段違いだった。

 しかし、ユーリは強さとは全く別のベクトルで彼女の隣に立った。


「今日は今までにないくらい戦いやすかった。仲間と戦うってこういうことなんだと初めて知った」

「そうか。それは良かった」


 アルティナは立ち上がってユーリに向かって右手を差し出した。


「だから。これから、僕の背中を守ってくれ」


 ユーリは「よっ」と言う掛け声とともにアルティナの手を借りずに立ち上がった。

 そして、アルティナと同じ目線の高さで行った。


「悪いな。アル。俺は『紅の獅子』を抜けない」


 アルティナは少し動揺したように目を泳がせた。

 そして、少し震える声で言葉を紡いだ。


「どうしてだい?クランマスターの説得なら僕がしよう。お金だって・・・」


 ユーリはアルティナの言葉を遮るようにしていった。


「あそこは、俺の家なんだ」

「家?住む場所なら」


 アルティナには意味が伝わっていないようだったので、ユーリは首を左右に振り、優しい言葉で続けた。


「そうじゃないんだ。パーティメンバーって言う家族のいる、俺の帰るべき場所なんだ。だから、いくらお金を積まれても、どれだけ好条件を出されても、俺は移動できない」

「そっか、ユーリなら僕の背中を守ってくれると思ったんだけどな」


 アルティナは残念そうにそう呟きながら俯いた。

 ユーリはそんなアルティナの肩を組むようにして隣に立った。


「アルの背中は守れないけど、アルの隣には立ってやるさ」

「え?」


 驚いた顔でユーリの方を見た。ユーリはそんな彼女にいたずらっぽく微笑み返した。


「ずっとお前を守ってやることはできないけど、時にはぶつかって、時には背中を預けて、時には肩を並べる、そんなライバルにはなれる。いや、なるって約束するよ」

「ライバル」


 キョトンとした顔のアルティナに満面の笑みを向けてユーリはそう行った。その後、苦々しそうに笑って少し距離をとった。


「まぁ、今のままじゃ全然届かなくてそんなこと言ったら笑われちゃうけど」


 ユーリはアルティナの正面に立つとビシッと彼女を指差した。


「絶対追いついてやるから覚悟しとけよ」


 アルティナは驚いたように目を見開いた後、お腹を抱えて笑いだした。


「ははは。楽しみにしてるよ」

「何も笑うことないだろ?」


 憤慨するユーリに対して、アルティナは目の端に浮かんだ涙を払いながら言った。


「ごめんごめん。でも、そう簡単に追いつかせてあげないからね」


 アルティナの瞳にはいつもの凛とした雰囲気に加え、強い決意の光が宿っていた。

 ユーリはアルティナに向かっていつものように悪戯っぽくニヤリと笑顔を向けた。


「当然だ。手なんか抜いたら許さないからな?」


 しばらくの間、ダンジョンに二人の楽しそうな笑い声が響いていた。


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