窓際クランの書庫2
あの後、夕食を食べた。
夕食中もレイラはおかしな視線でフィーとユーリを見ていたが、結局何も言ってこなかったから、よしとしよう。
夕食後、ユーリはレイラと一緒に本を読んでいた。
書庫に来た時は三人一緒だったのだが、フィーが途中で見つけた短剣術の本を持って鍛錬に行ってしまった。
そのため、レイラの本探しを手伝ってもらったのだ。
食後の時間はレイラはいつも書庫で本を読んでいるらしいので、ちょうど良かったというのもある。
レイラがいたので書庫内の捜索はスムーズに進んだ。
一通りモンスターについての本を読んだ後、ユーリは大きく伸びをした。
そんなユーリにレイラはお茶を差し出した。
「・・・はい」
「あ。ありがとう」
ユーリはレイラからお茶を受け取った。
椅子に腰をかけてお茶を飲むと、体の芯が温まるような気分になった。
どうやらいれたてのようで、お茶からはうっすらと湯気が立っていた。
「・・・どう、だった?」
「んー。まぁ、予想通りって感じかな?」
ユーリは浅層、それも1層から5層の情報を調べていた。
浅層の資料はそれほど多くはなかったが、情報量はかなり多かった。
「・・・問題はなさそう?」
「んー。4層までは大丈夫そう」
ユーリは浅層のモンスターについて書かれた本をパラパラとめくりながらそう行った。
レイラはユーリの発言に疑問を抱いて質問した。
「・・・5層に問題があるの?」
「5層というか、4層のボスが問題かな?」
各階層には階層ボスと呼ばれるモンスターがいるらしい。
そのモンスターを倒さないと下の階層に行くことはできない。
というのもそのボスが下層へとつながる転移陣があるのだ。
「・・・4層のボス。ジャイアントビッククラブ?」
「そいつだな」
階層のボスは次の階層の、モンスターが巨大化したモンスターが出現する。
1階層から3階層はジャイアントシーワームがいる。
浅い層の大型個体は強さは大したことないのだが、大きくて硬いらしい。
ただでさえ堅いビッククラブだ。ものすごく攻撃が通りにくいらしい。
つまり、軽戦士であるフィーがダメージソースの大半を担っているうちのパーティとは相性が悪い。
「こいつをどうやって倒すかが問題だな」
「・・・弱点は?」
ユーリは手元にあるモンスター図鑑のジャイアントビッククラブのページをみた。
レイラの発言を聞いて、ユーリはいうかどうか迷った後、弱点を伝えた。
「火に弱いらしい」
「・・・火」
レイラは何かを考えるように自分の杖を見つめた。
杖についた宝玉には歪んだ赤い瞳のレイラ自身が写っていた。
ユーリは雰囲気を変えるようにバタンと本を閉じた。
「まぁ、4階層までちょっと時間があるし、その間に対策を考えるさ」
「・・・」
レイラは何も言わずにすくっと立ち上がった。
そして、書庫の出口に向かった。
「どうかしたか?」
「・・・なんでもない。今日は疲れたから寝る」
ユーリはすこい悩んだ後、レイラに就寝の挨拶をした。
「そうか。おやすみ」
「・・・おやすみなさい」
レイラはそう言って部屋から出て行った。
ユーリはその背中を見送った。
「『爆炎のレイラ』か」
ユーリのつぶやきは書庫の本に吸い込まれ、誰にも届かなかった。
ユーリの視線の先には、さっき偶然見つけた春先の“事故”についての記事があった。
***
レイラは就寝前に体を洗うため、浴場に向かっていた。
浴場の扉を開けようとしているところでレイラはフィーとばったり出会った。
「レイラ。お疲れ様。進展あった?」
フィーは相当激しく訓練をしたのか、泥まみれだった。
レイラはコクリとうなづいて肯定の意を表した後、フィーに質問した。
「・・・お疲れ様。フィーは今まで訓練してたの?」
「そうよ。知らないことが多くて、かなり勉強になったわ。この本」
フィーは手に持った本を示しながら言った。
レイラはフィーに先を譲るため、部屋のほうを向いた。
「・・・じゃあ、先にお風呂はいって」
「え?レイラも入るんじゃないの?」
レイラはこれからはいる準備をしていたので、フィーはレイラの後で入るつもりでいた。
先に入ろうとしていたレイラに優先権があるのはどう見ても明らかだ。
「・・・私は、後でいい」
「え?でも」
「・・・そのままじゃ、風邪ひいちゃう。先に入って」
フィーはそう言って立ち去ろうとするレイラに駆け寄ってその手をつかんだ。
「ねぇ。レイラ」
「・・・?」
「一緒に入らない?」
レイラは驚いた。
今までフィーにそんなことを言われたことはなかったからだ。
実際、このクランの浴室はかなり広い。
昔、クランメンバーがたくさんいた時の名残だ。
「・・・私と一緒に入るの嫌じゃない?」
「嫌だったら誘わないわよ」
フィーは少し恥ずかしそうに顔を下げた。
そして、少し上目遣いにレイラを見つめた。
「それとも、レイラは私と一緒に入るのは、いや?」
「・・・嫌、じゃない」
「じゃあ、入りましょ」
レイラはフィーに引きずられるようにして浴室に入っていった。