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「ん…………」
目を開けると、そこはホームの医療室だった。
迷いの森は脱出できたと思うのだが、どこからだろうオレの記憶が途切れているのだ。
オレがキョロキョロしているとカナタが部屋にいることに気づいた。
「よう。突然ぶっ倒れたから驚いた」
カナタが言った。
それからカナタにホームに到着するまでの経緯を聞き、同時にオレの問診も終わろうとしていた。
話は終わりだと思った時、迷いの森での行動をカナタに問われた。
ああ、カナタに怪しまれたと思った。
隠していることがあるだろう、すべて吐けと羽交い締めされオレが白状するまで解放されることはなかった。
馬鹿を装い指針を示すのは限界がある、カナタに隠し事はできない。
カナタに話せる範囲でカミングアウトすることにした。
オレがオレ自身の異常性を受け入れられなかった。
自分を毛嫌いしている。
誰かに言うことで軽蔑される、狂っている、気持ち悪いと捨てられるのが怖かった。
できることなら人間らしく時間と共に忘れたい、覚えていたくない普通でありたい。
シロにも言っていない。
記憶力がいいこと位はバレているだろうが、シロは深く追求してくることはなかった。
「ええっとー………お気づきかもしれませんが、記憶力がちょっと言い的な?」
ビビりながらほんの少しネタバラシをした。
「あの迷いの森の脱出方法を知っていたのか?」
カナタが言う。
「いえ………そういうわけじゃなくって………なんとなくこっちかなーって? なんとなく? ……えっと、たぶん……ぐるぐる回ってるだけかなぁって………」
オドオドしながらもなんとか言葉を紡ぐ。
「そりゃぁすげェな。 おれらが道に迷っているのを後ろから嘲笑っていたのか?」
カナタの機嫌が下降するのが分かった。
「笑うなんてめっそうもございません!!!! オレも自信がなかったんですよぉ~……」
自信がないのは本当だ。なんせ初めての森だ。
それから自身が記憶力がいいと言うことをごもごもとカナタに伝えた。
「……もしかして……古代語も読めるのか?」
答えにくいことをカナタに聞かれ、答えに詰まる。
「…………」
沈黙が辛い。
「…はい」
いつものように読めるわけないじゃないっすかー
オレですよ? とか言いたいが、嘘をつける状態ではない。
その後もカナタの回答に答え続けた。
医学の臨床実験の特定項目も暗唱してみせた。
この症例は、この症例はとどんどんオレに質問していきついにオレは根を挙げた。
「だんちょ~。あの、じつは……あまり脳使うと、オーバーヒートでクラッシュしちゃうんです。……だから、この辺でご勘弁を~」
インプットは容易いのに記憶から一つの事柄を取り出そうとするアウトプット作業は腦に負荷がかかってしまうようなのだ。
だから脳にアクセスしようと頭をフル回転させると、予想外な負荷がかかり脳がクラッシュしてアホになってしまう……なんていうヤバい問題があったので、いつもは制御している。
迷いの森では腦を使いすぎてやってしまったのだろう、だからオレの記憶が途切れているのだ。
カナタも倒れる瞬間を目撃している、仕方ないと質問攻めを止めてくれた。
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頭がいいというのは隠し通せるものだ。
言わなければ、話さなければバレない。
常に頭を使うのはリスクが伴うため常にアホを演じている。
偽ることが当たり前になり今では本来の自分の意思思考は何処存在しているのか不明だ。
カナタとシロは賢い、一般人から見れば思考スピードが速いのでつるむのは楽しかった。
カナタとシロは一般人にしてはかなり高いはずだが、オレのIQは測れない。
偽者の感情も本物の無関心もどちらの自分も本物だ。
人間とは誰しも皆二面性を持っている。表裏一体なのだ。
常にテンションが高いハイテンション人間は、本当にそれが自身の性格からなのかと疑問に思う。
明るい方が相手に向けて好印象なのだから、こころではめんどくせぇなぁとか思いながら皆自分を作っているのではないだろうか?
表の自分を見せているだけなのではないだろうか?
シロもカナタも笑う方じゃない、テンションは高い方じゃないだろう。
だが笑わないわけじゃない。楽しいと思った時は満面の笑み……とは違うがシロなりの、カナタなりの笑顔の表情を見せてくれる。
その笑顔は本物か? と聞くやつなんていない。
答えてもそれが真実かどうかは本人しか分からないのだから、その質問に意味はない。
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<数年後>
カナタ、シロ、クロで村の観光をしていた時、謎の部隊と戦闘になった。
謎の部隊は複数で、顔は覆面で見えない。敵は毒武器で攻撃してくる。
カナタは毒武器が身体に刺さり、毒に侵食されて身体が麻痺された。
強い、敵いそうにない。
戦闘中、奴らがクロの本当の名を口にする。
オレを知っているのか?
クロは指名手配書は出ていないはずだ。
「 を渡せば見逃してやる」
謎の部隊の男が言う。
オレ目当てなのか、オレの本名を口にした。
こういう日が来る可能性を視野に入れていた。
幼き頃自分の意思ではないにせよ知能検査をして異常な数値をだした事。子供がばか高い入館料の大図書館に入った事。
そうそうあることじゃない。
情報漏えいにより、天才児だったということがバレ、ここまで追ってきたのだろう。
状況が悪い。3対複数人では勝てない。
すぐに逃げればよかったのかもしれないが、正体もわからず戦ってしまい、今は逃げる体力がない。
たらればを言っても仕方がない、躊躇していたらダメだ。今どうすべきかだ。
「団長、オレ、抜けます」
オレの口から出た言葉は、嘘だと思うくらいにあっさりしており潔かった。
カナタを見たら、オレが何を言ったか分からないみたいな顔をした。
「 こちらへ来い」
彼らの一人にオレの本当の名前を呼ばれ、彼らについていこうとする。
「……行かせねェ」
カナタが言い、拘束されているのを忘れているように、もがきオレのほうへ這いずろうと動いた。
「じつは、ずっとガマンしてたんですよ。もうこき使われるのはコリゴリです。子供みたいな冒険にも飽きたんです。だんちょうにとっては、オレはタダの使えるコマでしかなかったんでしょ? 違いますか? そりゃあ、オレはほかのやつらに比べて有能だったから便利だったと思いますよ。使える手ごまが減って、だんちょうの目的まで遠くなるのは悪いと思いますけど、オレの代わりはいくらでもいます。だんちょうの周りには人が集まる。別の仲間を探してください。」
「シロ、だんちょうを頼むなっ!」
カナタとシロにそれぞれ言う。
「クロ!!!いくな!!!」
シロが手を伸ばして叫ぶ。