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パワーゲーム  作者: かずお
1/1

力を巡る戦い

1章 始まり


1


レオンは、牢の中を覗いた。牢は、薄暗く闇に包まれている。

次第に、目が慣れてきた。牢の中に、鎖で繋がれた男が見えた。

男の獣気と呼べる威圧感は、目に見えるようでもあった。レオンの目も、闇に慣れ始め、強力な存在感を放つ男の姿がはっきり見えた。

熊のような厚く大きい躰は、筋肉の鎧を纏い、躰に見合わず目は細い。だが、恐ろしく鋭い。髪は、囚人らしく剃毛しているが、髭は何年も剃っていない為なのか、首全体を覆い隠していた。

レオンは、牢の中の男に話しかけた。

「貴様は、なぜ街の中で暴れていた。貴様に殴られた兵士の中には、いまだに躰を起こせない者もいるほどだ」

レオンの前に尋問に当たった兵士は、男の名前を聞いている。

男の名前は、剛山というらしい。異人である。

異人とは、この大陸全土で増え始めた人間の総称を指している。様々な言語や、面妖、服装をしており、一貫性もなかった。

レオンは、急激に増えた異人が不気味で仕方なかった。

剛山は、レオンの問いに答える。力強く、野太い声だった。

「あの糞どもの親玉か。暴れていた理由は、聞かねば分からないのか?」

おおよその検討はついていた。

今から、3日前のことである。城下町で、暴れ回っている男がいるという報告を受けた。被害を受けたのは、軍の者達のみだった。剛山は、10人程度では、抑えきれず、50人以上の兵を投入して、事態は鎮圧した。

レオンは、本人の口から答えを聞こうとする。

「分からんから、聞いているのだ」

「簡単な事だ。貴様の配下にいる兵士達が、町人を脅し、金を巻き上げていたからだ」

軍には、守るべき規律がある。法も、整備されていた。だが、平和というものが続き、次第に緩み始めていた。軍全体に、蔓延しており、レオンは、その現場を黙認したこともあった。

「珍しいことでもあるまい。何事も、理想と現実がある」

「英雄と呼ばれる者の言葉とは、思えないな。実に、くだらん」

「罰する事は、簡単だ。だが、不正事態が軍全体で起こっている事だ。1つを正した所で、何も変わらん事だ。兵の中には、名門と呼ばれる軍閥の子息や、大商人の倅もいる。金や権力などで、問題そのものもなかったことにもなる。意味もないことだ」

レオンは、自分に言い聞かせるように言った。

軍全体が、腐敗している。今更どう手を施しても、仕方のないところまで来ていた。軍の最高の地位にある者にとして、恥ずべきことでもあった。

「平民出の将軍だと力でねじ伏せる事が出来ても、権力にはひれ伏すというわけだな。情けない話だ。庶民の間にある通り名は、皮肉からつくられたものなのか?」

王国最強の盾と言われているのを、レオンは聞いた事があった。

戦時の時には、敵を蹴散らし、なぎ倒せばそれでよかった。しかし、将軍になってから、平和が続いた。平和の中では、武力などよりも、他の才覚や力の方が重要だった。際立って目立つのは、金や権力である。

レオンは、一兵卒としては有能という自負もあったが、将軍としては無能だと自覚していた。

「貴様には、わかるものか。権力を持つ者は、持たざる者には決して勝てないのだ。例えそれが一国の将軍であってもだ」

「だから、仕方ないというのか。民は、ただでさえ高い税に苦しみ、喘いでいるのだ。その手元に残った金を巻き上げたのだぞ。恥を知れ」

「貴様の言い分はわかった。もうよい。そんな事ではいつまでたっても、牢の中から出る事はできないぞ。いいのか」

「構うものか」

レオンは、話を逸らした。

「貴様は、あれほどの強さを誇りながら、どこに埋もれていたのだ。国の為に注げば、異人でも、国民権を得られるぞ」

「今までは、世の中というものに興味はなくてな。最近、面白そうな話を聞き、篭っていた山から下山したところだ」

「山?」

「希望峰という山だ。20年近く住んでいた」

聞いた事があった。

山に篭り続ける怪僧の話は、かなり有名で、居酒屋などで吟遊詩人が歌にしている位だった。

レオンは、地下牢を後にして、キャメロット城の廊下を歩きながら、先ほど話をした男のことを考えた。

骨がある男だと思った。言葉遣いは、悪いが、豪放磊落とも言える性格に、一種の心地よさを感じた。しかし、剛山という男は、なぜあれほどまでに我らの公用語を扱えるのか疑問だった。

異人と呼ばれる者達は、大陸中どこを探しても存在しないような服を着て、聞いたことのないような言葉を駆使する。時折、驚くべき技術や、知識を披露するような者もいると、報告を聞いたこともある。

ただ、大半の異人は、我々の言葉を理解すらできないので、食い扶持に困り、犯罪者あるいは乞食になり、警吏に捕らえられるか、奴隷商に捕まり、鉱山奴隷や、女は娼婦になるのが関の山だった。

レオンは、考えるのを中断した。窓から、調練中の部隊を眺めた。遠目から見ても、調練の内容は緩いもので、調練中にも関わらず、私語を交える者や、鎧を着て駆ける調練で、歩く者、へたりこむ者さえ見えた。

将軍として今のままでいいのか、と毎日のように自問自答していた。だが、何も結論が、答えが出てこなかった。そんな自分が歯痒かった。自分自身の役割は、突如辞任した前将軍の急場凌ぎの将軍でしかなく、後ろ盾も、支援者もいないレオンは、すぐにでも引きずり下ろせる小物でしかなかった。

1日を終え、レオンは、家に帰った。

レオンの家は、城下町の中にあった。通例だと、ある役職以上は、内城への居住をするというのが暗黙の決まりの様なものがあったが、レオンは、それを無視した。馴染めないというのもあるが、軍の風習のような者に逆らいたかった気持ちの方が強い。

家は、妻であるフランソワと2人暮らしで、通いで女中が、家の掃除や夕食を作る。結婚して7年は経つが、未だに子供ができなかった。

晩婚で、妻とは10歳は年が離れている。それでも、フランソワは、家柄が良く、どこか品格があり、落ち着いていた。

フランソワ達が料理を作る間に、レオンは1人中庭で剣の稽古をしていた。剣以外にも、日により、槍の稽古、体術の稽古をする。

悩み事も、煩わしい事も、稽古の没頭していたら、次第にどうでも良くなっていた。ひたすら没頭し続け、夕食ができたら、女中は帰り、妻と2人で料理を食べる。

夕食の時には、2人に会話はないが、不仲というわけではなかった。眠る前に、フランソワは、レオンの寝室を訪れ、時を忘れるほど交合を行う。行為は、長時間に及ぶ。

行為の最中にレオンはふと考えることがある。

自分は、この女のどこが好きで結婚しているのか。

政略結婚だった。一方的に、フランソワから好意を寄せられ、フランソワの父君が、摂政であるヴァレンシュタインに莫大な賄賂を渡し、引き合わされ、いつの間にかに結婚していた。自分の意思など何もなかった。

確かに、フランソワは、容姿が良かった。抱きしめたら折れてしまいそうな華奢な身体は気になるが、交合の時の反応は気に入っている。

交合が佳境に入ると、フランソワは、我を忘れて大声を上げる。その声を聞くと、なぜか勝ち誇る気持ちになってしまう。その気持ちの原因は、自分でもわかっていた。家柄が違いすぎるフランソワにどこか僻みのようなものがあり、犯している時は、どこか優位に立てる自分に酔っているだけだった。

いよいよ持って情けないと思いながらも、フランソワをきつく責め立てた。


キャメロット城の地下牢に幽閉されている剛山を尋ねる者がいた。レオンの尋問から、2日後のことである。

訪問者は、大陸中でも指折りの魔術師で、占星術師でもあるアルフレッドである。

アルフレッドの長い髪は後ろで束ねられ、白いものも混じっていた。目つきが鋭い剛山とは対照的に温和な瞳をしており、長年の間、旅人として各地を巡っていた苦労の為か頬が削げ落ちている。

「生きてますか」

アルフレッドは、冗談っぽく剛山に話しかける。

剛山は、薄く笑みを見せ答える。

「この程度でくたばるものか。アルフレッド殿のお陰で、この牢の中も随分居心地のいいものになっている」

皮肉の様でもあるが、事実である。

アルフレッドは、牢役人を買収し、食料や、飲み水に気を遣わせている。本来ならば、囚人の扱いは、もっと手荒なもので、口にするものは質素なもので、時には具のほとんどのないスープだけの日もある。

「レオン殿の尋問があったそうですが、いかがでしたか」

「将軍という地位がまだ板についてないという印象が残った。そして、このままではいけないという気持ちも見え隠れした。廉恥の心を捨てきれない不器用な男だ」

「そうですか。それさえ捨ててしまえば楽に生きられるのですがね」

「その気持ちを捨ててしまえば、人として終わりだろう」

剛山が、アルフレッドの言葉を受け継いだ。

「我々の仲間に引き込めそうですか?」

「まあ、やってみるさ。他にやることなどなさそうだしな。若者達だけに辛い思いをさせるわけにはいくまい」ここで剛山が若者と称したのは、剛山と同じ異人であるイーサンと、りん、そしてキャメロット城の近くコルシカという町の元領主バーナードの娘ローザである。

この3人は、剛山達とは別の側面から戦いに身をおこうとしていた。この地から、東にある金剛山を根城にする盗賊団の砦に潜入をしていた。

イーサンとりんには、戦闘技術も、経験もある存在だが、ローザだけは、別だった。以前まではただの箱入り娘で、盗賊団の潜入を誰もが止めたが、聞く耳を持たず、腰まであった長い髪を切り、ジョンという偽名で、男のふりをしてイーサン達と一緒に盗賊団に潜入を果たしていた。

「情熱的な方でいらっしゃる。ディアナ様の血は争えませんな」

ディアナは、バーナードの妻であり、ローザの母親でもある。男勝りな性格で、する事なす事全てが豪快だった。それでも、美しさと、人望があった為常に人が集まっていた。

「目で見ることができない、消えない傷あるのだろう」

話はそこで打ち切った。

アルフレッドは、自身の衣服を探っていた。懐に隠しておいたものを、剛山の牢の中に投げ入れた。城内の地図と、鍵である。

「地図は、暇な時頭に叩き込んでおいてください。覚えたら、破棄してください。方法は任せます。鍵は、その鎖のものです。牢の鍵は、作戦決行の時に持たせます」

「わかった」

もう一度アルフレッドは、懐を漁り、小さな麻袋を投げ入れた。

「その中には、解毒剤が入ってます。万が一のためです」

牢の中とは言え、暗殺の恐れもある。剛山は、毒など見破りそうだが、毒の使い手が持つ無味無臭の薬を使ってきたら、防ぎようがない。

「感謝する。あとこれに酒さえあれば完璧だがな」

アルフレッドはようやく笑みを見せ、牢から姿を消した。





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