9.神獣フェンリル
少し短いです。
草原エリア、38階層で違和感を感じた。脳内に表示されているマップになぜか赤で表示されていない存在が確認できたのだ。基本的に敵対しているものは赤で表示されているため、とりあえずその場所に向かってみることにした。
☆★☆
「きゃん!」
聞こえてきたのは悲痛な響きの鳴き声。しかし、その鳴き声のもとへ向かうまでには大量のモンスターであふれている。オーガ、トロール、サイクロプス。徒党を組まないはずのモンスター達が一か所に群がっている。
ならばと一気に切り崩すために魔法を発動させる。
「一気に吹き飛べ!『ゲイルブロウ』!」
隠密神のローブの効果で、近くにいたモンスターが、何が起こったかも分からずに吹き飛ぶ。
「からの、『ウィンドカッター』!」
半数近くのモンスターの体が真っ二つになり、何が起こったかわからない顔で光の粒子へと変化した。
果たして、モンスターに囲まれていたのは真っ白な毛並みの犬なのか、狼なのか…何があったかわからない様子で呆気に取られていたが、周りにいたモンスターも同様に固まっていた。
そのようなチャンスを逃す怜ではない。霊刀:護反に風属性の魔力を流して一気に殲滅する。隙を見て子犬?に上級ポーションを投げつけ、そのおかげで見えない何者かが味方だと分かったのか、自分よりも大きなトロールや、当たったらただでは済まない威力を持った攻撃を掻い潜り、どんどん殲滅していく。
どれほどの時間が経ったか、怜の周りには、すでに子犬以外のモンスターはおらず、代わりに大量の魔石とドロップアイテムが転がっていた。
☆★☆
「お~、よしよし、可愛いなぁ!で、お前が急げば間に合う子か…?」
「くぅ~ん?」
怜の足元には、鑑定をすると種族名にフェンリルとだけ表示される子犬?子フェンリルが懐いている。モンスターを倒し切った後、隠密神のローブを脱いで姿を見せた途端、とびかかってきた。癖になりそうなほどさらさらな毛並み、そしてこのなつき具合に怜は、既にノックアウト寸前だった。だから、きっと言葉が通じるであろう、この愛らしい生物を勧誘することにした。
「なぁ、俺は猫耳派なんだよ…」
「きゃん!?」
「しかし飼うなら犬だ!」
「わんっ!」
怜は試しに少し話しかけてみたが、絶対に言葉が通じていると確信した。というか、リアクションがわかりやすすぎていた。
「…もしお前さえよければさ、ここから先は俺についてくるか?」
「くぅ~ん…わんっ!」
子フェンリルは少しだけ考える様子を見せたが、付いてくることを了承してくれた様子だった。
「おお!ついてきてくれるか!一人旅がようやく終わりだ…!ありがとう!」
「わんっ!」
ここで、怜が続けてきた1年間の独りぼっち攻略は終わりを告げ、1人と1匹攻略が始まりを告げようとしていた。そのために、まずはこの子フェンリルと契約することにした。
「少し待ってな…っと必要スキルはあれか、んーとテイムテイム…ん?なぁ、もしかしてお前って神獣?」
「くぅん?わん!」
怜は、子フェンリルが「ん?そうだよ!」と返事をしたと判断した。
「まじか!テイムは神獣以外らしいから…お、あった!眷属化!って高!10000ポイントってまじかよ!」
「くぅん…」
子フェンリルは「連れて行ってもらえないのか…」とでも言いたげな表情で悲しげに鳴く。怜は、そんな悲しそうな顔で見ないでくれ…と速攻でスキルを取った。そもそも、こんな愛らしい生物を置いていくという選択肢も存在せず、ポイントも有り余っているから、スキルを取らないなどという選択肢はなかったのだが。
眷属化のスキルの使用条件はスキルを使い、名前を与えてそれを相手が受け入れたら完了のようだった。だから、まずは名前を考えることにした。
「よし!名前を決めるぞ!フェンリル…フェルは普通…雷のイメージも強い…神殺しっても聞くし…神…刹那…よし!カンナでどうだ!」
怜は、神話にも精通していた。それに加え、全言語を習得していたためネーミングセンスはあったのかもしれない。もし犬につけるとしたら大仰な名前になるが、相手は神獣フェンリルである。ふさわしい名前と言っていいだろう。
「くぅん…わん!わん!」
「よし!『眷属化:カンナ』!」
子フェンリルは了承してくれたようで、幸い"うーん…気に入ったよ!それでいいと思うの!"といった気持ちが眷属化のパスから伝わってきていた。そして、契約と同時にカンナのステータスが表示された。
名前:カンナ
種族:フェンリル
状態:神崎怜の眷属
Lv:17
HP:17000/17000
MP:8500/8500
筋 力:B-
防 御:B-
魔 防:B+
知 力:A+
精神力:B-
生命力:B-
速 度:A+
器 用:A+
会 心:A-
運:S
固有スキル:疾風迅雷
スキル:噛みつき:Lv.4 雷魔法:Lv. MAX 鑑定妨害:Lv.5
「え、お前ステータス高くねぇか…?いや、上限が低いのか?もしかして幼体だからこのステータスで俺みたいに進化するとかか?」
「くぅん?」
怜は知らなかったがほぼ当たりの発言をしていた。フェンリルなどの神獣はレベル50、150、250で進化をし、成体に向かっていく種族だ。特に、250で進化をし、成体となった状態ではレベル1で種族進化した人間と同程度の力を持つ。
神の獣と書いて神獣である彼らは、幼体の時で既に中級ダンジョン程度なら攻略できる強さを持っている。しかし、幼体のため上限が低い状態であることに加えて、二段階ステータスが下がっているため、この最上級ダンジョンダンジョンである時空のダンジョンでは、残念ながら敵を倒すことができなかった。
ちなみに、半成体では一段階下がるが、その時点で他の追従を許さないほどの強さを手に入れる。それと、レベル250では、主にステータスの上限解放がメインのため、姿は大きく変化しない。
せっかくできた仲間だからと、怜は万が一の保険として指輪を渡した。
「とりあえずお前が死なないように指輪をつけてくれるか?」
「わんっ!」
「それは身代わりの指輪といって即死ダメージか、それに近いダメージを受けたら砕ける。壊れたら必ず 戻ってくるんだぞ?在庫はいっぱいあるから…そう、いっぱい…」
20階層まで宝箱などはなかったのだが、21階層からは1フロアにつき1~5個あり、その中身のほとんどが、ラビリスからレアと言われたエリクサーと身代わりの指輪だった。
ちなみに、肉はドロップするし、野菜や果物は今いる森の階層で見つかるが、一つだけ見つからないものがあった。肉も野菜もあるのに、それだけはいくら宝箱を開いても、いくらこの森の階層を探しても無いのだ。なにが見つからないか?そう…それは米だ。身代わりの指輪5個と米を交換してほしいとすら思い始めていた。
「まぁ、進むか!雫のところに早く帰らなきゃいけないからな!」
「わんっ!」
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