43.転移魔法陣
「ラビリスー?今時間あるかー?」
「んー?今は昨日のジョーの余韻に浸っているところだから時間はあるわよ?」
昨日のジョー、確か結構昔のキックボクシングの漫画だったはずだ。確か最後はジョーがスタンディングオベーションを迫られて…ってそんな事はどうでも良い、怜はラビリスに聞きたいことがあったのだ。
「なあラビリス、時空のダンジョンは攻略してダンジョンコアを吸収したら崩れたんだが、なんで神奈川のダンジョンは崩れてないんだ?」
そう、攻略から48時間経った今も崩れる様子を一切見せず、変質し続けている。2時間後には神奈川県の初級ダンジョンは上限式ダンジョンに変化するだけで終わるのだろう。だから、その理由を知っている可能性のあるラビリスに聞きにきたのだ。
「あー、それは簡単よ。時空のダンジョンには魔力の供給源がなかったのよ」
「供給源?」
「そう、怜くんが時空のダンジョンを攻略したのはまだ魔力が封印された状態の時だったからね!ダンジョンコアは触れられると残りの魔力を使って攻略報酬を作り出すのよ!」
「…なるほど、今回の場合は大気中に魔素があるからダンジョンが変質するだけに留まり、前回は報酬を作り出したことで無くなった魔力を回復する術が無かったため崩壊したってことか」
「そういうこと!」
「なるほど、初級だから報酬がしょぼいんじゃなくて魔力が少ないから報酬がしょぼいんだな」
「そ、そういうことよ!」
怜が聞きたかった事はラビリスの説明によって理解することができた。これならば上限式ダンジョンに変質しても安全だし、予想通りスタンピードが起きないようなダンジョンに変わるのだろう。
「ありがとな、あとスポーツマンガばっかりじゃなくてラブコメも読めよ」
「確かに最近は恋愛ジャンルも増えてきているけれど、マンガならファンタジーかスポーツじゃない?」
「なら小説を読め」
☆★☆
「よし!完成だ!」
「兄さん、何が完成したのですか?」
「ふふふ、聞いて驚け!転移魔法陣完全版が完成した!」
「おお!ついに完成したのですか!凄いです!この前まで行き詰まっていたのにあっというまに…あ!そういえばこの前ダンジョンで強制転移しましたね!」
「そうだ!俺はあの時ちゃっかり転移の魔法式を確認していたのだ!」
そう、今まで使っていた不完全な使い捨て式転移魔法は、陣が対となる陣に移動するときにくっついている物がついでのように一緒に移動しているだけだった。
しかし、完全版では陣の上のものを対となる陣の上へと移動させられる、陣も消滅しない完全版になった。欠点としては、持ち運びができない事だが、その利点を捨てたことによって転移場所が固定されているため魔力消費量も無理な量ではない。つまり——
「——これで東京と神奈川をいつでも往復できるぞ!」
「それに、これなら遠くに工場を作っても納品とか会議のために移動とかも転移魔法陣でなんとかなりますね!」
最初は使い捨てのものがあるのだから、完全版転移魔法陣はロマンとしか思っていなかったが、作りながら少し考えるだけでも活用方法が大量に出てきたし、雫の助けになるのならば怜としては完成させて正解だっただろう。
「んー、会社でも使うなら魔法陣ごとギルドに売っちまうか?」
「それなら万が一にでも解析や複製ができないように複雑化と隠蔽をかける事はできますか?」
「じゃあ魔弾と同じく発動時のみに魔法陣が見えるようにと、それっぽい文と光り輝くオプションを追加すれば良いか?」
「あ!起動方法を魔力認証型にできませんか?ギルドカードみたいに!」
「したら料金を払うか、無料では緊急時くらいしか使うことができなくなって良いかもしれないな!あー…そういうことなら、これは売るか?貸し出すか?」
「貸し出しということにして使用できるのはブロンズからの特典で、ブロンズのステータスカードから使えるカード機能で料金を支払ってもらうのはどうでしょう?」
「それはいいな!じゃああくまで貸し出しという事にして、利用料の取り分は菅原隊長と話し合うか…」
各地のダンジョン会館に使用料を取る形で使ってもらい、その利益を分けるという意見が浮かんだが、パッと閃いたのか雫がちがう案を出した。
「すみません、全くちがう方法なのですが、むしろ各地に転移施設みたいなものを作ってしまうのはどうでしょう?幸い、土地は兄さんが買ってありますし…」
「…確かに今は線路が切れてるし、直したところから山に住み着いたモンスターが破壊するからな…一長一短か?」
もしダンジョン会館に任せれば、管理や取り締まりの必要がなくなる。だが、自分たちで運営するのならば建物の建設と管理する者、そしてギルドカードを持たない一般人が使える機能を作成する必要がある。ギルドカードに代わる新しいシステムを構築する…べき…?
「雫、ポイントカード作らないか?」
「ポイントカード…っ!良いですね!それは名案です!」
「そうだろ!ギルドに貸し出す形じゃなく販売店と一緒に建てちまおう!」
「店舗の予定まであと残り4ヶ月、原さんにお願いしてデザインなどを頼んでみます!その間に兄さんは契約魔法を込めた契約書の量産をお願いします!」
「りょうかい!最初は東京神奈川宮城大阪の4つと考えて、いや面倒だ。1000枚作っておくぞ」
「あ、そういえばイチさんの設定なのですが、付与、契約、転写スキルを取った会社専属の人という設定で行ってもいいですか?」
「あー、並列思考で動いてるけど細かく動かすこともできるから全然良いぞ」
「わかりました!ありがとうございます!」
しかし、最初から4店舗を回すのは経営自体が初めての雫には中々難しいと考えていたが、転移魔法陣のお陰ですべての店舗がつながったため、実質1店舗と考えても良いかもしれない状況になった。これならば、何とかなる可能性が高まってきた。
怜は、雫が中学校に入る前か入った直後あたりから経営について勉強し始めて、資格を様々取得している事は分かっていたが、ダンジョンが現れるのがあと1年遅かったら経営について本格的に学べていたはずだからかなりもったいないと思った。
そもそも雫が考える会社は冒険者だけではなく自衛隊やもう直ぐ現れるであろう企業専属冒険者、そしていつかは海外にも、とかなりの規模で対応することを最終的には考えている。
今はまだ魔導具は、電化製品が魔力で動くといった認識程度の物しか作ることができていないが、一般人にも売れる、それこそ風魔法を活かした自転車などの商品を開発することを目指している。
さらに、買い取ったドロップ食材などはダンジョン産の食材で料理をする店に売る、などダンジョン関係ならばなんでもといった形で関わっていきたいと考えている。
時間停止するバッグや転移魔法陣で負担はほとんど軽減できるが、初挑戦としてはかなりの規模の事業となるだろう。
既にあるジャンルに参入ではなく、需要が確定している新ジャンルであることが幸いだが…怜は、少しでも成功率をあげるために、例えば九州四国で経営者だった人を秘書として迎えることができないかと考えた。
まずは秘書関連の求人を出してみることにして、もしも誰からも応募が来ない時は数少ない信用できる知り合いに当たってみること資格を持っている人を探そうと決めた。




