33.地方の誇り
残る戦況は東の宮城、大阪組。アラクネを見て真っ先に突っ込んで行ったのはやはり梓だった。やっと見つけた、やっと現れた、大物。今回のスタンピードで最も強敵なのはあいつだ、あいつは私が一人で超えるべき壁なのだ。そう理解し、一気に切り込む。
「ジュラッ!?」
「っち、硬い…」
突然の奇襲に驚くアラクネ、しかし、その硬い甲殻には梓の攻撃では小さい傷がついた程度。梓が使っているダンジョンの宝箱から出た短剣、それは頑丈さはあったが、固いものを突破するほどの切れ味とリーチが足りなかった。攻撃は当たらないが与えることもできなかったのだ。
その後も、なんとか切り落とそうと足の節を狙ったり、有効打を狙おうと胴体を狙おうとしたが、小柄な梓ではアラクネの足を登れないしそのままでは胴体に届かない。千日手、つまり手詰まり。この時点で梓が勝てる可能性は限りなくゼロに近くなってしまったのだ。
その後も、なんとかダメージを与えようと幾度となく攻撃を繰り返すが、疲れと焦りから周囲の確認を疎かにした梓の方が躓き、一転して危機に陥ってしまった。
避けられないっ!そう思い衝撃に備えるが、その瞬間は来ない。恐る恐る目を開いてみると、梓の目の前には、槍で器用に足を抑える剛がいた。
「よお、危なかったな、ちみっこ」
「…チミっ子じゃない…梓…」
「そうか、チミっ子、一旦下がるぞ!」
アラクネから距離を取る梓と剛、新たな敵が現れたことでうかつには動かないアラクネ。そして、硬直状態を破るかのように剛の声が響く。
「魔法部隊用意!まずは弱点属性を割り出せええ!」
「「「サー!」」」
「前衛は狙うなら節を狙え!尋常じゃない硬さだ!牽制でいい!魔法部隊を狙わせるな!」
「「「サー!イエッサー!」」」
「火魔法「水魔法「風魔法「土魔法「雷魔法準備完了です!」」」」」
「今だ!撃てええ!」
「『ファイヤー「『ウォーター「『ウィンド「『アース「『サンダーボール!』』』』』」」」」」
「確認したか!火、雷ダメージ大だ!弱点を攻めろ!」
「「「Yes!Our father!」」」
「な、なにこれ…」
完璧なタイミング、完璧な手順、完璧な指示。もはや大阪勢も宮城勢も年上も年下も男も女も関係ない、剛がみんなのお義父さん、冒険者みんなが子供達だった。その中で取り残される梓1人。唖然とする梓に剛が話しかける。
「なぁチミっ子、お前をなにがそんなに駆り立ててるのかは分からないが、焦りすぎると…死ぬぞ?」
「っ…焦ってなんか…」
自分では気付いていなかったが、梓は確かに焦っていた。梓の行動理念は、家族を、友達を、故郷で息絶えた者達を解放したいという一心のみだ。今相対しているアラクネはオークを越え、オーガを越え、相手にならなくなったところでようやく現れた強敵だ。加えて、自分よりも遥かに大きなモンスターであるのがアラクネなのだ。
梓はアラクネに対してあのモンスターを、サラマンダーを無意識に意識してしまっていた。いつか一人で倒さなければいけないあのバケモノを意識してしまったのだ。だがその梓に声をかける者が一人いた。
「なあチミっ子よ、ソロでやってる俺が言える事じゃないけどよ、協力できる、止めてくれる、信頼できる仲間を探した方いいぜ?」
「…仲間なんてできっこない……それに、私の目的に…ついてなんて…」
来ないだろうと言おうとして言うことができなかった、いや、言えなかった。今目の前に、確かに広がっていたのだ。スタンピードという死地に来て、同じ目的のために闘う者達の姿が。
「そう、見えるだろ?これがチームプレイってやつや。この蜘蛛野郎も1人じゃ無理でも、人を集めればできるもんだ。なにを目指しているのかは聞かねぇが、仲間見つけろよ?梓」
梓には、今の今まで、自分の目的についてきてくれる人が居るなどという考えは浮かんでいなかったが、もしかしたらと思い始めた。
当然だろう、梓も、剛も、他の冒険者達も気持ちは一緒なのだ。そう、守りたいという気持ちで。しかも梓はまだ成人すらしていないのだ、だから時間はまだまだある。焦らず、確実に一歩一歩進んでいこうと心に決めた。
そして、今はその一歩を踏み出す時だ。ソロプレイのみだった梓が、チームプレイに一歩踏み出す時。そう心に決め、梓は走りだす。
「…おっちゃん、指示をちょうだい」
「おっちゃんて…ああ、それでいい!てめぇらぁ!ダメージは魔法で与える!前衛は魔法使いを守ることを優先にしろ!蜘蛛女は、さっきまで1人で渡り合っていた梓が担当する!ここから先は犠牲者ゼロ達成しやがれええ!」
「「「Sir!」」」
「行け!チミっ子!」
「…私は…梓…!」
今まで前衛組が行なっていたことがタンクだとすれば、今梓が行なっているのは、言うならば避けタンクというものだ。ここまでソロで闘い、小柄で速度にステータスが振られてるからこそできる芸当。アラクネがいくら攻撃しようと当たらない。躱す、避ける、掻い潜る。先ほどまで、攻撃しながらこれをこなしていた梓に、避けることができない理由などなかった。
「空いてるやつは魔法の準備をしろ!残党も残ってねぇ!もうそいつでスタンピードは終了だ!気合い入れてけやああ!」
「「「Sir!Yes!Sir!」」」
「ジュラアアアッ!」
魔法を浴びせられ続けたアラクネは、ついにダメージが溜まり、足が崩れた。
「今だ!梓!掻っ切れ!」
「…んっ!」
ザッ!
足が崩れ、射程範囲内にあった首を切り落とし、動かなくなるアラクネ。そして、アラクネは光の粒子へと変わる。
「スタンピードは俺たちの勝利だあああ!」
「「「……うおおおおおおおお!」」」
周りには魔物一匹残っておらず、あるのは被害を受けてしまった瓦礫と大量のドロップアイテムのみだ。
建物に被害が出た。だが、それだけだ。
確かに冒険者に死者は出た。重傷者も出ている。
しかし、一般人には、守るべき者達には傷一つなし。これを勝利と言わずしてなにを勝利と呼べるだろうか?
スタンピードを最後まで見届けようとやってきていた神奈川勢、東京勢の歓声を浴びながら、上空に飛んでいたヘリのカメラに向かってみんなで手を振った。
ええ、そうですとも。
裕也と茜は50体倒したらちゃんとさあがりましたとも。
中堅冒険者の設定だからいのちだいじにですとも。




