18.OHANASHI
少し短いです。
「すみませーん!誰かいませんか!」
怜は今、関係者入り口という扉を叩いている。
「に、兄さん大丈夫なんでしょうか…?」
「大丈夫だって、これがあるから」
怜が雫に見せたのは、完成したステータスカードと、一流の研究者と証明するカードだった。…もう研究者として活動はしていないが。そして、扉が開き現れたのはレベル50オーバーの男、菅原貴之だった。てっきり、他の県に行くために急いでいたのだと思っていたが、違ったようだった。
「菅原貴之さんですよね?私はこういう者なのですが、今回は一つ交渉をさせていただきたいと思い、お伺いさせていただきました」
いつもの大雑把な感じの雰囲気とは似ても似つかない、態度が違いすぎる怜に雫が笑いそうになるが、今は兄さんが真面目な雰囲気で、私のために交渉しようとしてくれているのだと思い、我慢する、「…ふふっ…」が、できなかった。
「交渉?…っ!?んんっ、ふーむ、研究者ね。突然押しかけてきたりドロップアイテムを奪おうとする奴らとは違うようだな…話は聞いてやろう、入ってこい」
菅原貴之(以下、菅原隊長)は、怜の姿を見てから渡された研究者ということを証明するカードを見て、驚きを隠せなかったようだ。しかし、菅原隊長は一組織帯のトップだ。すぐに気を取り直して怜を中に招き入れた。
「…失礼します」
ちなみに、突然押しかけたり、ドロップアイテムを奪おうとする奴らに心当たりがあった怜は、内心ピクピクと軽い怒りを感じながら部屋の中に入っていく。むしろ、研究者という職業に就きながら、パートナーとして重要な自衛隊相手にそのような行動をしていることに動揺を隠せず、怜のほうが挙動不審になってしまっていた。そして、意識を切り替えて、ステータスカードを机に置く。
「これに魔力を通してもらえますか?」
「このカードにか?…ッ!?これはっ…!おい、これはなんだ!」
案の定、驚いている。当たり前だろう、今まで自己申告するしか無かったステータスが全て表示されているのだ。菅原隊長は、怜に掴みかからん勢いでこれはなんだと聞いてくるが、怜は主導権を渡さずに話を進める。機能はこれだけではないのだから。
「ステータスカードと命名して、私が作りました。複製不能、他者に使用不能、冒険者用の身分証明証にどうですか?」
「っ!?…交渉…と言ったな。これは明らかにオーバーテクノロジーだ。これに対する目的はなんだ?ドロップアイテムの一部か?」
流石トップだ。冒険者として、この技術の価値に気づき、率直に聞いてきた。そう、この技術は提供するのではなく、交渉のカードなのだ。よく分かっているが、怜が欲しいのはそんなものはではない。
「私の要求はただ一つ!」
貴之が生唾を飲み、雫は俯いている。雫も、まさか怜がこんな手を取るとは考えていなかったのだろう。そして、怜からドロップアイテムの一部譲渡よりも重要な要求が、菅原隊長に突きつけられる。
「妹の雫の冒険者登録を認めて欲しい。」
「…は?」
「まだ中学3年である雫の冒険者登録を認めて欲しい」
「…いや、そんなのが条件か…?」
菅原隊長は呆気にとられている。当然だろう、このようなオーバーテクノロジーが1人の特例を認めるだけで手に入るのだから。しかし、怜は、わざとらしく手ぶりをつけながら言い放つ。
。
「やはりか…こんな、ただ名前とレベルを表示させて、見せない方が安全だと判断したステータスやらスキルやらを非表示にできる機能が付いているだけの、俺が簡単に作れる板切れなんて価値はないか…」
この言葉に貴之は「量産が可能」「このレベルの製作は容易である」という怜が込めた二つの意味を正確に読み取った。しかし、わざと言葉を濁して伝えてきた怜に対して、直接確認するという失態は犯さない。
「いや、俺が上に掛け合う。これでも隊長だ。今結論を出させる、少し待っていてくれ」
そう言って席を立ち、裏に回る。きっとトップに掛け合いに行ってくれたのだろう。自分の思った通りに進んでいることに、怜は思わずほくそ笑む。
「兄さん、良かったのですか?あんなに伝わりやすいように情報を言ってしまい…」
雫の心配は最もだろう。しかし、自分が過去にダンジョンについての論文を発表していることは調べれば簡単にわかることだ。それならば、この情報が武器になる今使ってしまおうと考えたのだ。
そのほかにも、怜はどうしても雫を一陣から冒険者として活躍してほしい理由があった。
「これからレベルが上がり、残念ながら犯罪を犯す人たちも増えるだろう。それほどまでにダンジョンは、レベルの効果はすさまじいからな。そして、現れるのは、高レベルになったことで拳銃も効かなくなった犯罪者だ。」
レベルが上がり、防御が上がるとただの銃の弾丸など貫通しなくなるだろう。むしろ、そんなに簡単に貫通されてしまったら、龍などの攻撃など一撃も防ぐことができないだろう。
実際、怜の防御力は、スナイパーライフルで撃たれても傷一つつかないほどの固さだ。
「雫にはこの魔法銃を装備して冒険者をして欲しい」
ガタッと置いた銃の形をした魔導具、怜が完成させた、弾丸に魔法を込めることで込めた魔法を撃てる銃、魔法銃。怜の射撃練習の風景を見ていたから分かるが、この魔法銃は強すぎる。
「もちろん、これで冒険しろというわけではない。もしも、雫が勝てない相手に対峙しているときに俺がいない時、これを使ってほしいんだ。これには、時空のダンジョンでも通じた魔法が込めてある。」
時空のダンジョンで通じた魔法というか、込められている魔法は消滅魔法だから時空のダンジョンのラスボスで通じた魔法なのだが、もし雫より強い暴漢にでも雫が襲われ、この引き金を引いたら相手は塵すら残さず消えるだろう。
「俺は、これを自衛隊に10個だけ売るつもりだ。そして1つを雫に使って欲しい。自衛隊にうるものの弾丸には、雷魔法の中でも麻痺に重視した魔法陣を転写してあり、引鉄を引くと魔力が流れてその魔法が発射される。この魔法銃には、ステータスカードと同じ所有者固定方法を使っているから奪われる心配もないし、麻痺の魔法なら、麻痺耐性が凄いようなやつ以外には通じるから、高レベルでも通るから冒険者の犯罪者の取り締まりに使ってもらおうってね」
怜は…自分の兄はどれだけ先を見通していたのかーー実際は犯罪者云々は雫に持たせるための後付けなのだがーーそれならば、わざわざステータスカードを簡単に作り出せることを伝えたのも正解だろう。加えて、魔法陣は一度発動させると消えてしまう。その特性と銃の威力を調整して攻略ではなく捕縛に使わせることができるのだろう。…もちろん攻略にも使うと思うが、菅原隊長ならその意図は理解してくれ、犯罪者用に使ってくれるだろう。
しばらくたち、貴之が戻ってきた。表情を見るに、良い結果だったようだ。
「神崎怜だったか?」
「怜でいいですよ」
「では怜、このステータスカードを量産できると伝えたところ、即答で許可は出た。だが、本当に量産はできるのか?」
怜は、その言葉を待ってましたと言わんばかりに多量の機械を出す。
「この通り、量産は可能です。今は全部で三台ありますが、作ろうと思えば作れますし、国中に広まったら外国に卸しても良いと考えています。」
「ふむ…では、次の土曜に量産用の機械を持って来てもらえるか?俺たちのトップの、正真正銘のお偉いさんが確認に来るらしいからな。あ、それとこれを受付に渡せば登録することが可能だ」
「わかりました。ありがとございます。では後日、失礼しました」
トントン拍子に話が進み、特別許可書というものを受け取った。それほどの有用性を見出したのか、それとも怜との繋がりが欲しかったからかはわからないが、順調に事を終えられたといえる。呆気にとられている雫を連れて、まっすぐ受付に向かう。もちろん怜と雫の両方を冒険者として登録するためである。
「俺と妹で登録お願いします」
「はい、では保護者の許可証と身分証明証を提出してください」
受付のお姉さんは、怜と雫の年齢をみて少し心配そうな顔をしているが、仕事だからか、何も言わずにしっかりとこなしている。
ちなみに、保護者はいないので、許可証は怜が自分で書いたものだ。怜が実質保護者のようなものなのでいいだろう。そして、身分証明証と先程もらった雫の許可証を提出する。
「はい。…これは…はい、わかりました、登録完了です。ダンジョンに入る際にはこのカードを見せてから入るようにお願いします」
特別許可書を見て驚いていたが、中身を読んで登録を進めてくれた。何事も事件が起きるはずもなく、登録も無事完了した。次に来るときは機械を持ってくるときだろう。
「…兄さん」
「どうした?」
「…ありがとうございます」
「雫の為にするのは当然だろ?」
雫は守られている嬉しさを感じるとともに、守られることしかできない自分を変えたいという思いを強めた。
読んでくださりありがとうございます。
ダンジョン対策課のチームは他にもあり、菅原隊長の担当は関東でした。そのため、宮城と大阪には別の隊長が激励の言葉をかけていたのです。
ちなみに、菅原隊長は組織内全部で2番目に偉いです。
次の更新は明日の20時です。




