閑話 私の兄さん
これで閑話はおしまいです。
しばらく研究を続けていたある日、兄さんが「カウントダウンが始まった!」と言いました。兄さんによると、今までうんともすんとも言わなかった用途不明の謎の石が、その日突然カウントダウンを刻み始めたらしいです。
そして、そのカウントがゼロになるのは、今から約5年後と計算できたと言っていました。その日から、兄さんは本格的に、私と兄さん自身を守るためだけに、来るべき5年後に向けて行動を始めました。
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ある日、掃除の時間に兄さんの部屋に散らばっていた紙を集めたらびっくりすることがありました。なんと、すごい数の0が並んだ請求書があったのです。
もしかして、兄さんは騙されているんじゃないかと心配になって請求先を調べたら、日本、外国の様々な国の不動産会社が表示されました。さらに調べていくと、なんと、兄さんは土地を買っていたのです。それも、世界中に。多分、もしもの時の避難場所として購入したのでしょうか?お金は使い切れないくらいあるけれど、すごい金額だったので、嬉しいような心配なような複雑な気持ちになってしまいました。
それからも兄さんは、他にもいろいろな準備をしていたようで、ついにカウントダウンの終わる5年間が経ちました。
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そしてこの前、兄さんが学校から帰ってきたと思ったら足元に犬、肩に狐、手に刀を持って帰ってきました。何を言っているのかわからいと思いますが、本当にその格好だったのです。
…混乱しすぎて、一周回って冷静になって、ついつい狐と犬をもふもふしてしまいました。
少し様子が違った兄さんは、その日の夕食の時、突然私と6年ぶりに会ったなどと言うのです。もちろん疑ったりしていません。でも、私なら、6年も兄さんと会っていなかったらきっと寂しくて泣いてしまうと思います。ですが、今日の兄さんは、いつもの何倍も美味しそうにご飯を食べたり、時々ジッとこちらを見つめてきたりしていて、不自然な点が多すぎました。
そして、ツッコミをする前に、狐と犬が神獣で刀が神様だったと言われました。いきなり連れてきた動物の割に、とても賢くてまるで言葉を理解しているのではないかと思える様子でした。だから、兄さんはからかっているわけではないと分かったので、もちろん信じます。むしろ、兄さんの研究をみていれば神獣も神様も存在していてもおかしくありません、
だから、この子たちには何を食べるんだろう?だなんて言っていたら神様はツッコミどころが違うと言っていたそうです。
そして、兄さんが言うには、全員が人化というスキルを持っているそうです。だから、全員に人化してもらったら、みんながみんな可愛くて、とても抱きしめたくなってしまいました。動物の耳が付いているのは反則だと思うのです。
それと、後から3人?2匹と1本に聞いた話ですが、事あるごとに、言われたことを覚えらるれほどの回数も私の良いところを教えられたり、私の事の自慢ばかりをしていたそうです。他にも、ご飯の度に「雫のご飯食べてえ」とか、フロアボスを倒すたびに雫に会えるまであと〇〇階層と言ってたらしいです。…別に嬉しいわけではありませんが、そんな全然喜んでいるわけではありませんが、明日は気合を入れてご飯を作りましょう。
そうそう、それと神様はラビリス様と言う名前で、ダンジョンの封印解除とともに消えるはずだったらしいのです。しかし、よくよく話を聞いてみると、なんと、兄さんが魔法を使って助けたというすごい話を知っちゃいました。
兄さんらしいと言うかなんというか、昔私を助けてくれた頃から兄さんが変わってないことを実感して、すごく嬉しくなってしまいました。
そして、兄さんがラビリス様の願いを叶えるために、私と一緒に考えた姿でジークムントという名前の人物を作り上げました。
…英雄ジークムントとして活躍している姿をこっそりビデオに収めながら、兄さんのダンジョンでの話を聞くと、とても嬉しい気分になってしまいます。だって、ラビリス様から兄さんが「雫のために、逃げるしかできない力ではなく、守れるほどの力を手に入れる」と言っていただなんて言われてしまって嬉しくないはずがありません。その画面に映る圧倒的な力が、その手に握る刀から出される力強い斬撃が、その身体から発動される圧倒的な魔法が自分のためにあると考えた瞬間、なんだか胸の奥があたたかく、ポカポカした気持ちなりました。
しかし私は神崎雫、天才の妹。兄さんに守られているだけで終わるつもりはありません。終われるはずがないのです。私には、最近定まった、目指すべきものがあります。嬉しくて悔しいですが、発想、開発では兄さんに一切勝てません。しかし、兄さんの役に唯一なれるジャンルがあります。それは、経営です。兄さんはお金にとても無頓着、いえ、無頓着すぎます。もし、私が月に行きたいなどと言えば、兄さんは本当に月に行くロケットを、大金をかけて作るでしょう。
幸い、生活費としては必要ないほどのお金を別の口座に分けていますし、私のお母さんが残した遺産には手を付けていません。他にも、どんなに無駄遣いしても無くならないほどのお金があったから良かったものの、必要と思ったものはすぐに買ってしまいます。無駄遣いではないのですが、やはり、研究を発表しないことにしている今は、収入はなく、支出のみなので、かなり気になってしまいます。
多分、兄さんは、今作っているステータスを表示させるカードも、もし私が何もしなければ私の安全に繋がるからと、簡単に広めてしまうでしょう。しかし、それでは私が密かに抱いてきた目標を達成することができなくなってしまいます。だから私は、兄さんができない唯一のものである、経営を学ぼう、そして兄さんの魔導具を売ろう、宣伝しようをしようと思います。
私の密かな目的はただ一つです。昔から変わらず、兄さんの汚名返上と素晴らしさを広める事。
世界が混乱を極めている中、「こうなることを事前に発表しようとした。しかし、虚実として貶められてしまった。だが、真実だった時のために研究を続けていた」研究者として、可決されるであろうダンジョン法に合わせて名前を売り出します。こうすることで、すごい勢いで学会は責められるでしょう、なぜなら、兄さんの作った魔導具を纏って私自身が冒険者として活躍しようと考えているからです。
これを受けてきっと学会は謝罪をしてくるでしょう。私たちが間違っていた、済まなかったと。結局形だけでしょうが。そして、厚かましくても、あわよくばと近づいてくるか成果を上げろと迫ってくるか。
ですが、今の兄さんには武力も権力も効きません。もし狙われるとしたら私ですが、万が一のために転移魔法陣も持っています。それに、私が冒険者として活躍すればするほど、それだけ私たちは安全になります。
なにが言いたいかというと、学会の入る隙はないのです。最強になった兄さんと、最強に守られている私に死角はないのです。
そして今日、ダンジョン法が可決されました。しかし、大きな問題が起きてしまいました…なんと、登録できるのは高校1年からだったのです…後1年足りません…
でも、兄さんが俺が何とかすると言ってくれたので、会場に向かいたいと思います。
「雫!そろそろ行くぞ〜!」
兄さんが呼んでいます。行かなければ…
「今行きます!兄さん!」
なんだか昔を思い出して少し頰が緩んでしまいます。
「ん?どうした?あぁ、登録か?お兄ちゃんに任せておけって!」
「ふふ、そんなところです」
読んでくださりありがとうございます。
次の更新は明日の20時です。




