15.謎の英雄!ジークムント(笑)
プロローグの時間と少しかぶっています。
その日は、いつも通りの代わり映えのない朝から始まった。
ただの土曜日。
ある者は仕事へ行き、ある者は二日酔いに苦しみ、またある者は趣味に投じていた。
12時丁度を告げる鐘の音が響く。ある者はひと段落した仕事を置いて昼食を食べようと立ち上がり、ある者はそろそろ起きねばと起き上がり、またある者はそろそろ昼だからと休憩に入り…その瞬間、世界が揺れた。
日本人は「ああ、またか。」と思い、アメリカ人は避難指示を飛ばした。フランス人は体験したことのない地震に驚き、ドイツ人は天変地異だと騒ぎ立てた。
しかし、揺れは一向に収まらず、テレビを付けても震源地が発表されていない。世界中の地震計が示すは震度5強。学者たちも、この地震は何かがおかしいと気づき始める。異常事態、地殻変動、世界の終わり。人々は口頭で、ネットで様々なことを言うが、異常事態であるし、ある意味世界の終わりであろう。
世界は今まさに変動しているのだから。
聞こえてくる倒壊の音、避難する人の叫び声、そして何かが砕け散ったかのような音が響き、揺れが収まり始めたその瞬間、景色が、世界が変わった。
☆★☆
怜と同じ高校に通っている少年、品川裕也は、地震が止むと同時に現れた巨大な塔に驚いていた。そして、声が聞こえてきた。
《聞こえますか?人間達よ》
声が直接脳内に響いてくる。誰かが「聞こえてるぞ!」と叫んだ。冷静になるもの、ヒステリックになるものなど、様々いる状況で聞こえたことを肯定する声と、続きを催促する声が響く。それに合わせたかのように言葉の続きが話される。
《私は神、ラビリスです。永らくなされてきた封印が今解けました。》
神、この声の主は神だと言う。もちろん裕也は神なんてものを一切信じていなかった。ならばこの声は何だ?脳内に直接響いてくる声は、そして、突如出現したこの建造物は一体何なんだ?さらに封印、つまりこの塔のことだろうか?当たっているような少し外れているような事を考えていたが、誰かが次々と叫んだ。「おい!ここに洞窟ができてるぞ!」とか「空になんか浮いてないか!?」などと。
あたりを見渡すと確かにある。空には島が浮かび、地割れだと思っていた場所は洞窟だったらしい。空を見上げると、あれはドラゴンだろうか?浮かぶ島から、その島に入りきらないようなサイズの生き物が次々と飛び出してくる。
なるほど、確かにこれは封印しなければいけないものだ。幸いなことに、ドラゴンはこちらに見向きもせずに飛び去って行く。向かった方向は富士山がある場所か。もしかして、住み着くのだろうか?
しかし、状況的に考えてみると、封印は、この塔や洞窟だけではなかったのだろう。きっと最低でも日本全体、最悪世界中でこの現象が起きていると裕也は考える。急いで家族のもとへ、そしてまだ幼い妹のもとへ向かおうとした時、再び声が響いてきた。
《各地に建造物や洞窟などが現れたと思います。その見慣れないものは、ダンジョンと呼ばれるものです。はるか昔、太古の文明が栄えていた時、人々が滅びの危機に瀕した時に、我ら神が封印しました。》
ダンジョン。その声が響いた瞬間に騒ぎ出すもの、突入しようとするもの、困惑するものに分かれた。もちろん裕也も、ダンジョンという言葉の意味を知っていた。
アニメ、漫画、映画…様々なもので出てくる、夢と希望が詰まった施設。ダンジョンに潜り、仲間と、恋人と出会い、強くなり、酒場でその日の稼ぎで飲み明かす。そんな自由な姿に憧れを抱いた時もあった。
しかし、すべては空想上だ。詳しくは空想上だった。
今、その空想が現実になろうとしている。裕也は、その事実に少しわくわくしたが、次の言葉で固まった。
《モンスターが討伐されていないダンジョンからはモンスターが溢れてきます。強力無比な敵もいます》
溢れだす?倒さなければ溢れてくるというのか?何を?あのドラゴンを?あんなもの、人が敵うようなものではない!
爆弾や銃、最悪核を使えばきっと倒せるだろう。しかし、永遠にそんなことを続けられるはずがない。その前に住める場所が消え、星が滅んでしまう。もし、空想上であったダンジョンが現れるというのならば、レベルアップやステータスアップなど、何か対抗手段はないのか?そう考えていた時に、また声が響く。
《しかし、対抗手段がないわけではありません。人々よ、ステータスオープンと唱えてください》
やはり存在したか、ステータス、つまり能力値。まさにゲームのようだ。
今までファンタジー作品として読んだ本が、数年後には現実を題材にしたものに変わるだろうか。逆に、ただの恋愛小説などが、空想上でしか起こりえない出来事になるのではないか?
…尤も、その時まで人類が存在していたらだが。
各地からステータスオープンという声が聞こえてくる。裕也も試しに言ってみることにした。
「ステータスオープン」
名前:品川裕也 職業:(未選択)
種族:人間
LV:1
HP:100/100
MP:0/0
筋 力:G
防 御:G
魔 防:G
知 力:G
精神力:F
生命力:F
速 度:F
器 用:E
会 心:E
運:D
CP:100
SP:100
スキル:言語理解:Lv. 2 弓術:Lv.1 料理:Lv.1
CPはステータスを上げるために、SPはスキルを入手、もしくは育成するために使うのだろうか?どちらにせよ、予想通りだとしたら、裕也がやったことのあるゲームと同じような表示だったため、とてもわかりやすかった。
それと、弓術は弓道をやっていたから持っていたのだろう。つまり、SPを使わずとも、スキルを入手することは可能だということを示していた。
しかし、現時点では遠距離しか攻撃方法をもっていないことに気づき、急ぎ近距離用のスキルを入手しようと思った。だが、その前にまたあの声が響いてきた。
《今の言葉で現れた表示の中にある、CPを使う事でステータスを、SPを使うことでスキルを取得できます。最後に私の力を全て使い、過去の英雄を短時間呼び出します。どうかせか…を……っ………い。》
最後までは残念ながら聞き取ることができなかった。途切れ途切れの言葉を最後に、声が一切聞こえなくなり、空中に何かが映し出される。それは、龍を狩る者の姿だった。映し出されている光景は多分大阪、数多の龍と1人の青年が映し出されていた。裕也は、その姿に見入って憬れた。映像に映っていたのは、先ほど、裕也が人がかなう相手ではないと判断したドラゴンを一撃で沈め、周囲の人々までをも救う英雄の姿だった。
あれがラビリスという神様が召喚した過去の英雄だろうか?圧倒的な力と惹きつけられるようなカリスマ性。しかし、その姿は紛れもない人だ。つまり、人はあそこまで強くなれる、龍を墜とすことができるということでは無いのか。今この瞬間、彼は過去ではなく実在の英雄であり、人々の憧れとなっているだろう。美しい太刀筋、圧倒的な魔法。そして裕也は今この瞬間、ダンジョンを探索する職業に就くことを決意した。
☆★☆
「では兄さん、お気をつけて」
「ああ、英雄ごっこしてくるよ」
さて、圧倒的カリスマ性を持つ英雄になりきっていたこの男、怜はまず、雫とハグをしてから、既に設置していた大阪の魔法陣に転移した。
怜が転移した先、陣を仕掛けておいた場所に現れると、空を埋め尽くす数多の亜竜がいた。逃げ惑う人々、響き渡る悲鳴。格好の獲物を前に、まさに今、母娘に襲いかからんとする龍もどき、亜竜。怜は、光属性をエンチャントしたから光っているだけだが、持っている中で一番豪華に見える剣を取り出し、母娘の前へとおどり出る。
ザンッ!
娘を守ろうと、必死に娘をその胸に抱え込んでいた母親は、突然龍を切り捨てた男に驚き、呆然となる。しかし、男から「大丈夫か?」と言われて、自分たちが助かったことに気づき、はっとなる。
「あ、ありがとうございます!…あ、あの!お名前は!」
「名前か?俺はジークムント、昔はジークと呼ばれていたが…すぐに消える、過去の英雄さ」
などと言うこの男、神崎怜の内心はもちろん、羞恥心で凄まじいことになっていた。今すぐ転移で戻りたい、すぐさまこんなキャラを辞めたい、辞めたいが…ロールプレイだと割り切る。その時、抱えられていた娘もこちらに気づき、話しかけてきた。
「じ、ジークお兄ちゃんありがとう!かっこよかった!」
「あぁ、お嬢ちゃん。無事でよかった」
「わたしも、ジークお兄ちゃんみたいにみんなを守れるようになりたい!」
「ああそうだ、次も誰かが守ってくれるとは限らない。自分で行動しなければいけない。」
「…どうすればいいの?」
「そうだな…まず、この短剣を授けよう。お守りだ。そして、何かを守りたかったら、かっこよくなりたかったら強く在れ、強くなれとは言わない。覚えておくといい!諦めずに生きていれば…俺みたいになれるッ!」
仲間を殺された混乱から立ち直り、こちらに襲いかかろうとしていた亜竜を、喋りながら雷魔法で一掃。いつのまにか、逃げていた人々の足は止まり、各地で上がっていた悲鳴は感嘆に変わり、歓声へと昇華した。そしてジーク(怜)は、そのまま次の設置場所、東京へ転移する。
ロールプレイ中のミッション1、人々の憧れる英雄化。達成。
次に行ったのは、日本で最も人口が多い場所、東京。ダンジョンの発生数もなぜか多いようだ。武道館のほうを見ると、ゴブリンなどの低レベルのモンスターが集まっている。しかし、よく見てみるといた。怜が求めていた人材が。
ホールの入り口で家族を、友達を、恋人を守るために立ちはだかる人達。自己のためではなく他人のために行動できる数少ない高潔な者たち。その者たちの上空へと、(多大な魔力を消費しながら)風魔法で(無理やり)飛んでいく。そして風魔法を応用し声を拡散させる。
「聞け!戦士たちよ!私が来る前に、守りたい者、守るべき者の為に真っ先に立ち向かった勇敢なる戦士たちよ!君たちの高潔な魂に敬意を表して、これを送る!」
何事だ?と上を見上げる者がちらほらといる。少し調子に乗ってきていた怜は、更に光属性魔法で自分を光らせ、周囲にアイテムボックスから取り出した大量の剣を浮かべ、話を続ける。昼だからあまり意味はなかったが…。
「敵は多数!対するこちらは少数だ!絶望的状況に見えるだろう!」 その言葉に皆に諦めが宿る。しかし、ジークムントの言葉は続く。「それは真か?答えは否だ!敵はただ突っ込んでくるだけの的だ!敵を殲滅せよ!卑怯でいい!罠にはめてもいい!生き残ったものが正義だ!貴殿らに敬意を表して半分は引き受けよう。『ウィンドカッター』!さあ、狩りの時間だ!」
「「「「うおおおおおおお!」」」」
空中に浮かべておいた、錬金術で作成した割と切れ味のいい剣を、一気に戦う人たちの近くに突き立てる。そのままウィンドカッターでゴブリンを半分だけ殲滅し、ついでに怪我をしているように見える者たちに回復魔法を撃ち込む。士気がうなぎ登りに上がり、ゴブリンと戦っている人たちが剣を取ったことを確認してから、次の場所に転移をした。
第2ミッション、覚悟を持った戦士の確保達成。
次に転移したのはテレビ局。レベルアップと入手ポイント、魔導具について、ダンジョンのドロップについてなど、必須情報を書いておいたものを送り届ける。怜の行動はモニターに常に表示されていた為、この行動も各地のモニターに放送されているため、テレビ局はこの情報を発表せざるを得ない。そして、最後の転移と共に、ラビリスがスキルを切り、空間モニターを消失させる。多分、これで神界のラビリスは神核を使い果たし、消滅してしまっただろう。
「お兄ちゃんかっこよかっ……ごほんっ。兄さんお疲れ様でした。今リークした情報がちゃんと流れていますよ。目標達成ですね!」
「っしゃああやりきったああ!ジークムントって誰じゃゴルァ!」
さすがに外国まで行くわけにはいかず、日本にしか転移陣は設置できなかったため、ジークムントは日本限定の存在だ。海外の人は、日本と違って銃を所持している者が多いと思うから、討伐されずに封印されて、封印解除と共に現れた、残っていた魔物の駆逐をぜひ頑張ってほしい。
後は、スタンピードが起きる前に、なにかしらの法案が可決されて、日本に冒険者みたいな制度を作ってもらいたいと怜は思っている。
怜は、ジークムントがジークムント様としてネットで神格化されていることを、後から知るのであった。
読んでくださりありがとうございます。
つい素に戻っちゃう系クール大好きです。大好きだから出しています。
どうでもいいと思いますが、今一番好きなキャラはダンまちのリュー・リオンです。
次の更新は明日の20時です。




