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12.100階層

最初は龍が話しかけてくる展開も考えましたが、負の感情云々のダンジョンの成り立ち的に、ないなと没にしました。

「っ『鑑定』!」


種族:ヤマタノオロチ

 Lv:1?3?

 HP:??/??

 MP:??/??

 筋 力:??

 防 御:??

 魔 防:??

 知 力:??

 精神力:??

 生命力:??

 速 度:??

 器 用:??

 会 心:??

   運:??

固有スキル:※※ノ※音 ※※※※覇

  スキル:※※※※※


「「「「「「「「グルァアアアアアア!」」」」」」」」


 鑑定どころか、詳細鑑定でも何一つ見えない。直後、雄たけびを上げながら5つの口が開き、魔力の奔流が起きる。数瞬後、首ごとに違う属性のブレスが吹き荒れる。

「各自対応!」


 圧倒的迫力、圧倒的威力。怜も急ぎ吸魔の盾を構える。吸収しているはずなのに感じる圧力。後ろに風魔法を放出し、耐える。永遠とも感じる時間を耐え、訪れた束の間の静寂。

「ッ散開!ブレスには絶対に当たるな!」


 怜の言葉を聞き、思い出したかのように動き出す神獣。散開し、速攻をかけ魔剣バルムンクを一閃。首を一つ飛ばす。「まずは一つ!」と思った瞬間、首の一つが「グルァアアア」と声を上げる。直後、切り飛ばした首が蘇生され、何事もなかったかのように攻撃を再開された。


 やはり、最上級ダンジョンの最下層のボス。この程度では何の障害にもならない。ならば、と一気に二つの首を飛ばすが、同時に蘇生された。蘇生限界があるようにも見えないし、戦闘開始早々に5本のブレスを撃ってくるような、圧倒的理不尽を相手に魔力が切れるのを待つことも現実的ではない。


 この繰り返される行動の元を絶とうと、蘇生を行う首を狙うが「「グルァアアア」」と二体の声が響き、防御魔法が張られてしまった。しかも丁寧なことに物理防御と魔法防御の二段構えだ。解除するには術者を倒すしかないだろう。もはや手詰まりかと思った時に、自分には頼りになる相棒がいることを思い出した。

「カナン!コフィン!今魔法を使った首を頼めるか!?全力を出し尽くしてもいい!」

「わかったの!私は魔法防壁を張った方を先に狙うよ!『疾風迅雷』!」

「ほならわては物理防御魔法のほうを逃がさんよう狙うさかい、主様はそん隙に蘇生を倒したいま!『妖術』!」


 カナンの疾風迅雷によって首が飛び、コフィンの妖術によって物理防御魔法の障壁を張る首が徐々に傷ついていく。しかし、コフィンは攻撃型ではない。頑丈な首を飛ばすことができずに、妖術でカンナが切り飛ばした首があるように見せ、回復の役割を持つ首を欺く方向に切り替えた。それを確認したカンナはもう片方の首も狙いに行く。


 しかし、ヤマタノオロチも馬鹿ではない。例え認識できなくとも自身にかけられた魔法防御の障壁が消えたことに気づき、回復効果を高めた。それにより、一撃では首を飛ばせないカンナの攻撃はすぐに回復されてしまう。怜は、ならば回復させるような時間を与えなければいいとスキルを発動する。

「『限界突破』」


 限界突破により知覚、視覚、感覚全てが倍化する。スローモーションになった世界で怜はひたすら剣を振る。一撃一撃が魔剣バルムンクによる必殺の一撃だ。しかし、まだ物理防御の障壁は破れない。徐々に削られる障壁。それに焦りを感じたのか、回復を中断して怜に噛みつかんと迫ってくる。しかし、それは現れた隙。それを見逃すカンナではない。


 カンナがついに防御魔法をかけている首にかみつき、疾風迅雷の効果を高め、一気に絶命させる。それと同時に防御魔法の障壁は消える。回復の役割を持つ首はしまったと言わんばかりに急ぎ蘇生魔法を発動させようとするが、神獣が、二人の仲間が身を挺して作りだした隙を逃すような失敗をするようなミスを怜はしない。一気に加速し蘇生魔法を使う首を一閃!

「よし!切った首の再生はしない!」


 限界突破が続くうちにと残りの首を始末するために一気に攻勢に出る。1本、2本と切り落とし、3本目に行こうとしたその瞬間、ヤマタノオロチの首が一つに束められていく。切り落とされた首も根本から統合される。

「おいおいまじかよ…」

「GYAAAAAAAA!」

 思わず嘆きたくなるような現象。物語ならば逆の立場だろうか、悪に負けかけたその瞬間にヒーローは覚醒する。しかし、何故なのだろうか。自身は限界突破まで使い、仲間も残された力はわずか。しかし、倒すべき敵、悪側にいるはずのヤマタノオロチが進化した。


「『鑑定』っ、反則だろうが…!」

種族:邪王龍

 Lv:1?3?

 HP:??/??

 MP:??/??


 名前しか確認できず、筋力以下は鑑定すら通さないだけではなく弾かれた。とその時、邪龍王が咆哮と共に飛び上がり、その身体から黒い霧が部屋全体に放出され、一気に広がる。

「主様!カンナ!ばら(大変)!『破邪の光』!」


 コフィンの魔法と邪龍王が放った霧がぶつかり合い、対消滅する。霧が晴れたとき、果たして怜は無事だった。カンナも疾風迅雷で力を使いつくして気絶していたが、無事だった。それはなぜか。なぜならコフィンが聖魔法で怜とカンナに黒い霧、瘴気を防ぐ結界を張ったからだ。しかし、二人を守るためにコフィンは瘴気の直撃を受けていた。


「…コフィンッ!」


 バタン、とコフィンが倒れる音がする。怜は急ぎ駆け寄り、抱える。コフィンが小さな声で何かを呟いている。

「…しさ…ま……しん…ぱ…い…せ…んで……?」

 明らかな重症、明らかな致命傷。回復魔法を使うが傷は治っても状態が回復しない。急ぎ鑑定をすると状態に呪いという2文字が表示されていた。解呪のポーションを取り出し、コフィンにかける。

「ッ!?どうしてっ!?」

 呪いが解呪されない。どうしてか、理由はコフィンが答えてくれた。

「…これ…は……禁……呪…レ…ベル……さかい…主……様が…倒…せば……治…る……さか…い…じゃま(問題)……ない…で…?」


 禁呪。つまり、解呪ポーションでも解呪はできず、解呪するには術者即ち邪龍王を倒すしかない。絶望的状況。手札は全て切った。つまり手詰まり。


 しかし!怜が鍵だと信じて禁呪を被ってまで怜を守った少女が、こんな状況でも怜の勝利を信じて疑わない少女がいる!この状況で諦めるという選択肢があるだろうか?否!断じて否!怜は勝たなければ、勝って皆で妹のもとへ帰らなければいけない!


 絶望的状況の中で、怜が唯一勝てる可能性が残っている時間は、限界突破が続く残り10分だろう。

 怜は考える。否、つくり出さなければならない。自分たちを排除せんとするこの圧倒的理不尽に対して勝つ方法を。負けるなんて微塵も考えない、己が死力を賭してヤマタノオロチの首を落とした少女が、怜が邪龍王を討伐すると信じて呪いを一身に受けた少女がいる限り、絶望にはまだ早い、絶望などしない!


 有効な手は一体何だろうか。ステータスを上げる?却下、そんなのは勝ちであって勝ちではない。封印指定した武器を取り出す?却下、そんなものを使えば倒しても無事では済まない。敵の特徴はなんだ?一番の特徴は龍だということだ。ヤマタノオロチの時から変わらない、最大の特徴で最大の弱点だ。


 ならば手は一つ、魔剣バルムンクを使う。だがそれでは邪龍王の周りに渦巻く瘴気の壁を突破できない。それなら魔法を組み合わせよう。しかし、ここまでの経験が、99もの階層を突破してきた怜の直感が語り掛けてくる。それではまだ足りないと。


 その時、頭に一つの考えがよぎった。無意識に排除していた一つの可能性が。


 怜は走りだす。攻撃をすべて回避するために。


 怜は走りながら風魔法を使う。移動速度を高めるために。


 風魔法を使いながら新しい魔法式を組み立てる。我が物顔で空を飛ぶ龍をおとすために。


——スキル:限界突破のレベルが上昇しました——


「『プレッシャー』」


——スキル:重力魔法を習得しました——


 地属性上位魔法:重力魔法を編み出し、重力をかけ、龍をおとす。そして魔剣バルムンクを構える。ここから本番だ。


 重力魔法で押さえつけている邪王龍に一閃。

 敵は龍、やはりドラゴンキラーの能力は健在らしい。邪龍王の翼をいとも簡単に切り飛ばす。しかし、ヤマタノオロチの時の特性を引き継いでいるようで、直後瘴気が集まり、翼が再生する。


 怜はさらに頭を働かせる。ルーン語を組み合わせ次なる魔法を作成してゆく。端から再生されてしまうのなら、切ったところを再生させなければいい。いや、再生したそばから燃やせばいい。

「『付与:黒炎』」


 魔剣バルムンクに黒い炎が沿うように燃え上がる。火闇複合魔法:黒炎。闇魔法の特性で、切り裂いたところに呪いのかかった炎を纏わせたのだ。付与した状態で一閃!翼を切り落としたが、瘴気で再生しない!考えた通り、傷に炎が残り、再生が止まっている。

 龍の機動力である翼をもう片方も切り落とし、飛ぶことができなくなった邪龍王にとどめを刺す準備に入る。


 怜は、何度か魔法を牽制に撃っていた時、邪王龍の周りに渦巻いている瘴気を突破するには最低でも2属性を複合しなければいけなく、単属性では瘴気を突破することもできず、邪龍王には一切ダメージを与えることができないことに気づいていた。邪龍王はヤマタノオロチの特性を多く引き継いでいる。多分、各属性の体制スキルをすべて引き継ぎ、持っているのだろう。それも、統合されたエクストラスキル並の。


 だから、耐性などものにしない新しい魔法を作り出そうとしていた。魔法の構築に入るが、必殺の一撃になり得る技にはどうしても至ることができない。何かが足りない。必殺の一撃へ至るためのピースがどうしても足りない。


——スキル:並列思考のレベルが上昇しました——

——スキル:高速思考を習得しました——


 知恵熱が出そうなくらいに頭を回転させていた怜は、新たに手に入ったスキルをも使い、更に頭を高速回転させる。このチャンスを無駄にするわけにはいかないのだ。きっと次は黒炎すら効かなくなるだろう。そして何より、刻一刻と迫るコフィンにかけられた禁呪レベルの呪いがある。

 ヤマタノオロチをカンナと突破し、進化した邪龍王の瘴気から身を挺して守ってくれたコフィンを死なせるわけに…は…?怜は思い出す。コフィンが己を守ってくれた光景を、その時に起きた現象を。


 もう限界突破も長くはもたないだろう、後どれほど持つのかもわからない。だから、この一撃にかける!

 まずは光属性魔法を練り上げ、維持する。


——スキル:並列思考のレベルが上昇しました——

——一定条件を満たしました。スキル:天元突破へと進化します——


 何が条件なのかもわからないし今はどうでもいい。思考の数が足りない。もっとよこせ(・・・)!


——スキル:並列思考のレベルが上昇しました——


 増えた思考回路で闇属性魔法を発動させる。左右に浮かぶのは相反する色。それを合わせた魔法式を構成させていく。両手に持った魔法を合成させてみると白と黒のスパークが起き、抵抗で気を抜けば腕が吹き飛びそうになる。


 本来なら交わることのない正反対の属性。言うならば水と油、太陽と月。しかし、怜は高速思考の中でルーン文字を組み立てていく。合成の結果から考えられる組み合わせ、トライ&エラー。そしてついに複合魔法として矛盾した魔法を完成させた。いや、させてしまった。ゾーンと呼ばれる深い集中状態の力によってなされたその御業。


 光があるから闇が存在するのだったら、闇があるのは光があるから。光があるから闇があり、闇があるから光が存在する。逆に考えよう。光によって闇を消滅させことができるのだとしたら、闇も同様に光を消滅させることができる。

 光には消滅の効果が備わっている。闇にも消滅の効果が存在する。ならば複合させることは不可能か?否、可能だ!


 そして怜は唱える。

「『付与:消滅魔法』!」

 魔剣バルムンクに付与されたのは一つの矛盾。怜の目には何も映らない。何も見えないが確かに付与されたなにかが存在している。いや、むしろ逆だ。剣をよく見れば気づいたであろう。付与がなされた剣の周りには、闇も、霧も、空気でさえ存在していないことに。そんな消滅の剣を片手に怜は走り出した。

 振り下ろされる爪を消滅させ、たたきつけようとする尻尾を消滅させた。そして最後に…

「お前を倒して3人で雫のもとに帰るんだああああああ!」


ザンッ!


 邪王龍は縦に一閃され遂に光の粒子へと姿を変える。そしてちょうど、限界突破が進化し生まれたスキル、天元突破の効果が切れた。一気に襲い掛かってくる疲労感、指一本動かすことができない。それでも、最後の力を振り絞ってコフィンに鑑定を行う。呪いの文字はどこにも見当たらない。確かに邪龍王は討伐された。

 呪いが解呪されたことを確認して安心すると、抵抗もできずに瞼が落ち、そしてそのまま意識を失った。


読んでくださりありがとうございます。

次の更新は明日の20時です。

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