11.狐耳×和服
ついにたどり着きました。竜と龍は区別して漢字を使っています。誤字ではないのでご理解を。
ファイヤードラゴンは亜竜、レッドドラゴンは龍と考えています。
——眷属:コフィンのレベルが上昇しました——
——一定のレベルに到達しました。眷属:コフィンが成体化します——
「きた!レベル250!カモン!狐耳!人化!」
今いるのは90階層、フロアボスにつながる扉の前だ。ここでついに、コフィンのレベルが250に到達した。そして、コフィンの身体が光りに包まれる。徐々に形を変え、人に近づいてゆく。
「ふぅ、ようやっと人化できたさかい、主様、おんぼらぁっとお話しまいか?」
その時、怜にまるで雷が落ちたかのような、とてつもない衝撃が走っていた。即ち、狐耳に方言、しかも和服の少女が目の前に現れたのである。カンナによると、服は人化のスキル使用時に、魔力で生成することができるようになるものらしいが、狐に和のイメージを抱いていた怜は、コフィンが自由に作れる服の中で、選ばれた服が和服であったことに猛烈に感動していた。
…ちなみにカンナはスカートタイプの服装は、近接戦闘をするために、脚に余裕がある服装にしたそうだ。
「よし、コフィン!残り10階層で、成長したことで強力になった幻術の力見せてもらうぞ!」
「はいな!わての幻術ですんけにおとろしいもん見せてやるさかい、期待してるといいがや!」
カンナもだったが、神獣が持つ固有スキルは、生体になった時に効果が完全なものになる。カンナの疾風迅雷も、成体となった今ではすさまじい威力だ。
そして、いざ攻略に乗り出そう!というところで怜は足を止めた。両手をグーにして頑張るぞ!と表現するコフィンが可愛すぎた。天然でやる一挙一動が目に留まってしまう…。
俺には雫が…と葛藤しながらなんとか歩き出し、扉を開けた。
「ギュアアアアア!」
そこに居たのは一対の竜と、数多くの亜竜であった。リーダー格と思われる、二体で一体を思わせる揃った動きを披露する竜が、咆哮を上げこちらに向かって突っ込んでくる。そこにコフィンがすかさず、成体になったことで強力になった幻術を発動させる!
「ほいな!『幻術:朧朧』と『幻術:疑心暗鬼』!こっでいらしておいであそばせ~」
突如二体の竜が動きを止め、争い始める。まるで、お前は敵だ!と言わんばかりに。周りにいた亜竜の軍勢も次々と同士討ちをはじめ、ちらほらと光の粒子が見え始める。
これはきっと、コフィンと出会った階層で妖狐が使っていた効果の真逆だ。多分、九尾の妖狐が使った妖術では全員が仲間に見えていたため、モンスター同士での争いが起こらずに、平和な階層になっていたのだろう。しかし、今コフィンが亜竜にかけた妖術は、術をかけられたモンスター同士は、全員が敵に見えるという効果があるのだろう。
「ご主人、今かけたのは、わてらをいしなように思う『朧朧』と、周りが全ておとろしい思う『疑心暗鬼』さかい、残りは自滅してからでいーけ?」
あっさりと言われたその術の効果に戦慄する。怜は「もちろんそれでいいぞ」と答えたが、魔力量などの限界などによる制限もあると思うが、この術はもしかしたら大多数だと最強なのかもしれないと思い、悪用しないようにしなければならないと気を引き締めた。
このチャンスを不意にする怜ではない為、亜竜たちが光の粒子に変わり、どんどん数が減っているのを眺めながら、とどめの魔法の準備をする。
幻獣のエリアは85階層までであり、そこから先は亜竜の住処であった。そのため、どうすれば楽に、そして確実に亜竜を倒せるかを検証し、最適な方法での討伐を繰り返してきた。物理的に考えて、亜竜の大きさや翼では飛ぶことなど願わず、せいぜい滑空飛行が限界である。
つまり、亜竜が空を飛んでいるからくりは魔法だ。ただ飛んでいるだけなら風魔法で空気を乱す事で落とそうと考えていたが、魔法ならば意味がない。そう考え、検証を繰り返して最終的に取ることに決めた方法は…
「行くぞカンナ、『風圧』!」
「分かったの!『雷魔法:落雷』!」
そう。物理だ。結局物理が最強だったのだ。
魔法で小細工する前に物量で叩き潰せ!
別々に出発する兄弟は仲直りをさせろ!
動く点Pは強制的に止めてしまえ!
何が言いたいかというと、結局はハメ技よりも直接攻撃の方が良い時もあるのであった。圧倒的難易度を誇るこのダンジョンも、神童と神の遣いたる神獣の火力を止めることは出来ず、ついに91階層へと向かい入れた。
開いた扉の先に会ったのは、モンスターの気配が存在しない火山の階層だった。残り10階層、怜は、いよいよ本物の龍が出てくるか、それともボスラッシュのようなことが起きるのではないかと考えていた。
しかし、現れたのは全体がセーフゾーンのような空間。束の間の休息なのか、それとも残りはこのような階層なのか。しかし、せっかくの火山階層だ。怜たちは採掘をして、鉱石を集めることにした。
☆★☆
「よし!あらかた採掘したし、休息も取ったからそろそろ向かうか!」
「いくの!」
「はいな!」
ラスト9階層。どんな敵が来るかと心して扉の先に向かった。
眼前に広がる、火山の中にポツンとに造られたかのようなバトルフィールド。雑魚敵を飛ばしてそのままボス。バトルフィールドの中央、幾何学模様の魔法陣から現れたのは、今までとは迫力から全ての桁が違う、今までの竜をそう呼ぶのも烏滸がましいほどの最上位種族、即ち本物の龍であるレッドドラゴンであった。
GYAAAAAAAAAAAA!
圧倒的存在感。神獣を除く全生物の頂点に立つ絶対強者、レッドドラゴンつまり火属性。いや、それ以前に敵はドラゴンだ。即ち…
「ッ!?散開ッ!避けろ!ブレスだ!」
ブレスをはき、空を飛ぶ。想定していなかったわけではない、予想の範疇だ。つまり、すでに取るべき動きと流れは決まっている。
「カンナ!雷魔法の準備!コフィン!妖術で援護しろ!俺は…あいつを地面に落とす。」
「わかった!」
「主様もおしずかに!」
さて、俺が取れる手は2つだ。1つ目は高火力の魔法で決めに行く、2つ目は近接、そして今回は近接を狙う。
ここは最上級ダンジョン。敵も最上級ならば、宝箱の中身も最上級だ。怜がここに来るまでの宝箱で手に入れたものの中には、もちろん大量の武器がある。その中にあるのは、本当に危険だと考えて封印することにした武器と、使い勝手が良かったり怜のスタイルには合わない武器、そして数々の状況に対応した特化武器。
怜は、特化武器の中の一振りの剣を取り出す。レッドドラゴンまで一気に近づき一閃。
翼を断ち切る!
硬い鱗も魔力で作られた壁をも、抵抗を感じず、ものともせずに切り裂いた剣、その真名を魔剣バルムンク。
魔剣バルムンク:竜殺しの大剣。遥か昔に龍を殲滅するために生み出された一振りの大剣。その刃はいかなる抵抗も受け付けない。龍への絶対的な特攻を持っている。
スキル:不壊 ドラゴンキラー 重量軽減
レア度:神話級
ドラゴンキラー:龍の弱点がわかるようになり龍への特攻を得る。龍へのダメージ3倍、龍以外の種族へのダメージ半減。
そのままカナンの雷魔法が直撃。そのままレッドドラゴンは光の粒子となった。竜殺しの大剣、その破壊力は想像以上だった。そのままドロップアイテムと宝箱の中身を回収して次の階層に向かう。宝箱が現れたことから、ここから先は全てフロアボスなのだということを理解した。
93階層は貴重な薬草や果物が大量にある草原エリア、94層はグリーンドラゴン、95層は貝や魚の海の幸溢れる水辺エリア、96層はブルードラゴン…とついに100層への階段の前にたどり着いた。
「これで本当の最後だ。ここまで苦戦した階層などほとんどなかっただろう。しかし、それはステータスに振り回されない技術とこのダンジョンで手に入れた武器、そしてお前たち神獣の力があってのことだ。」
怜は、ついに訪れた最終決戦の前に二人に話を、鼓舞をする。
「カンナ!ここがラストだ!得意の雷魔法とその爪で引っ掻いてやれ!そしていざとなったら疾風迅雷を使え!」
「わかったの!」
「コフィン!幻魔法で魔力を消費せずに妖術で援護を頼む!それともしもの時の回復を!」
「はいな!」
そして100層への階段を進みきる。そこはまるで宮殿のような荘厳な雰囲気の空間であった。複雑な龍の模様が刻まれた純白の柱が並び、二体の龍が向かい合う模様が描かれた扉の前まで一定間隔で柱が続いていた。
天井はドームのようになっており、扉の先では少なく見積もっても高さ100メートルはあるだろう。
そして、扉のその先にボスがいるのだろうことがひしひしと伝わってくる。今までの敵が全て雑魚のように思える存在感、ダンジョンに入って最初に出会った敵がドラゴンだったらこう感じていただろうと思えるほどの威圧感を感じる。最上級ダンジョンの頂点に君臨する絶対強者がこの先にいることがわかった。
怜は、ここでTPを使うべきか迷った。怜の現在のステータスはオールS。つまりハイヒューマンとして振れるステータスの限界だ。確かに、超越の効果により限界無くステータスを振ることができる。
しかし、しかしだ、もしそれで簡単に勝利を収めたとしても果たして勝利と言えるだろうか。
これから封印が解けて現れる最上級ダンジョンは、ここだけではなく他にも存在するだろう。例えば、このダンジョンをハイヒューマンの上限を超えたステータスで攻略したとしよう。それはつまり、もし他の最上級ダンジョンを攻略した者が現れたとしたら自分より技術的に、戦術的に優っている事の証明に違いない!
そんな事が許されるだろうか?答えは否、断じて否だ!許されるわけがない。なにより、その選択をした自分自身を許せないだろう!
怜はあらゆる脅威を退けられる力を求めて今ここにいる。即ち、この程度の脅威から逃げるようであれば敗者になる日が必ずやってくる。その事の証明に違いない。
怜は、このステータスで勝利をつかむ。そう決めて扉を開けた。
そこに居たのは最後の試練の審判か、はたまた希望の先の絶望を司る圧倒的脅威か。圧倒的な大きさ、圧倒的な禍々しさ、きっとこれ一体で世界など簡単に破滅するだろう存在、8つ首を持つ龍、ヤマタノオロチがいた。
読んでくださりありがとうございます。
次の更新は明日の20時です。
PCで投稿して、スマホで読みやすさを確認しているので、次の日読むと読みやすさは上がっていると思います。




