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悪役令嬢な私の妹はヒロインな上に歌姫である  作者: 蓮宮 アラタ
序章 こうして全てははじまった。
4/11

4 フラグ回収は迅速に。

 私、ロジエル・イグニシア。5歳!!

 ある日突然、前世の記憶が蘇って悪役令嬢だって気づいたの。しかも妹はヒロイン!

 なんとか処刑と追放を回避して、安寧の日々を手に入れるために奮闘しようと決意したんだけど、いきなりドラゴン襲撃で大ピンチ!


 でも負けない!『歌姫』の力で悪者は退治して平和を守ってみせるわ!

 魔法少女ロジエル、出動よ!! キャピッ☆★



「ーーなんてやってる場合じゃないわ!」



 いけない。色んなことが一変に押し寄せすぎて乙女ゲームじゃなく、意味不明な魔法少女モノにジャンル変更するとこだった! 生憎私はそんなキャラではない。というかなんだ「キャピッ☆★」って。舐めてんのか。喧嘩売ってんのか。……いや落ち着け私。今はこんな茶番をしている暇はない。

 ようやく脳内の混乱から復帰した私は、すぐ隣にいたロシェルカの腕を掴むと神殿とは逆方向へ走り出す。



「ロシェルカ、逃げるわよ!」



 このままゲーム通り忠実にシナリオが進めば、私がでしゃばって妹が大怪我をすることになる。

 だが幸い、私は記憶を取り戻し、自分の力量を正しく認識している。

 歌姫ならいざしず、わずか5歳でしかも歌姫『見習い』でしかない私が、天地がひっくり返ったってドラゴンに勝てるはずがないのだ。

 ならば、成すべきことはひとつ。トラウマは作る前に逃げるのみ。ドラゴン退治は大人におまかせ!

 他力本願最高。字面だけ見れば最低な所業かもしれないけれど、5歳児にこの状況でなにかできるわけないじゃないか! よくて邪魔にならないようさっさと退散することだよ!


 今日はもう修行できるような状態ではないので、家に帰ることにしよう。

 神殿の護衛騎士に馬車を呼びに行ってもらい、神殿の外れで待つこと暫し。



「今日のしゅぎょうはもうムリそうですわね……。せっかくのいいお天気で、神様にお歌をささげようと思って降りましたのに……」



 しゅんとするロシェルカに私は苦笑して相槌をうった。



「しかたないわ。暴れたドラゴンなんて恐ろしいもの。私たちではたちうちできないわ」

「そうですわね……。でも神殿はだいじょうぶでしょうか? ドラゴンはあばれているのでしょう? 神殿、こわれませんよね?」

「結界があるからだいじょうぶだと思うけど……」



 王宮や神殿には悪意あるものの侵入を防ぐため、王宮の宮廷魔術師や名のある歌姫達が術式を組みあげた強固な結界ですっぽりと覆われている。

 今も意識すれば空には強大な魔力を纏った膜が王宮神殿を包み込むようにして存在しているのが分かる。


 その膜が何層にも渡って連なっているのだ、余程のことがない限りは破られることはないだろう。


 そうこう話をしている間にイグニシア公爵家の家紋が入った馬車が到着する。

 いつも修行をする時間は大体3,4時間ほどなのでいつも近くに送迎の馬車を控えさせているのだ。今回はそれが幸いした。一刻も早く家に帰ってトラウマを回避するのだ。


 ひと安心して早速馬車に乗り込もうとした、その時。



 神殿の方角から地を揺るがすような咆哮が轟いた。



 --ピキッ、パリィン!!


 それと共にガラスが割れるような音。

 途端に王宮と神殿を覆っていたはずの強大な魔力の

 膜が霧散した。

 続く何かに激突したような破壊音。


 --グルァアアアアア!!!


 紛うことなきドラゴンの咆哮が辺りに響く。




「う、そ……結界が破られたの!?」

「分かりません……でも、近くありませんでした……?」



 破壊音はここからそう遠くない場所で聞こえた。恐らく、神殿の聖堂あたりであろう。

 避難は完了していたはずなので怪我人はいないと信じたい。それにしても、あの結界が破られるなんて。


 王国でも実力のある者達が総力を上げて紡いだ結界がこうもあっさり突破されるとは、あのドラゴンはどれだけの力を持っているのか。

 半ば呆然としていると、周辺が何やら騒がしくなってきた。

 結界が破られたことに動揺したのか、どこからか悲鳴が聞こえる。皆が我先に逃げ出そうとして、人が動き出す。

 まずい。この混乱の最中、さらに騒ぎが大きくなれば収集がつかなくなる。余計に事態が悪化してしまう。


 道が人で塞がれば、馬車を動かすことは困難になる。慌てて馬車に乗り込もうとすると--



「鎮まりなさい!! ドラゴンが結界を破りました。由々しき事態です。混乱するのも分かりますが、まずは落ち着きなさい。避難する方は早く避難を。祭司たちは誘導しなさい。手が空いている歌姫は私の元へ! ドラゴンを鎮めます!」



 凛とした声音で告げたのは、当代最強の歌姫にして神殿の長たる神官長、オリヴィア様だった。

 いつも理知的で慈愛に充ちた態度を崩さない神官長の怒声に、辺りは一気に沈静化する。


 流石のオリヴィア様も思ってもみない事態だったのか、何事にも動じないはずの金色の眼は動揺に揺らめいている。

 しかし流石は神殿の長。次の瞬間には立て直し、的確に指示を出す手腕は見事である。


 指示に司祭が即座に動いて予め決められている避難経路を誘導し、手の空いている歌姫がオリヴィア様の元に集う。

 そのまま二手に分かれて指示を受けているところを見ると、どうやらドラゴンに対処するものと結界の再構築を行うものに分かれているらしい。

 オリヴィア様はドラゴンの方へ向かうようだ。


 オリヴィア様に任せておけば大丈夫だろう。絶大な力を持つ方だ。ドラゴンなどあっという間に倒してみせるはずだ。

 まだ見習いである私たちの出る幕はない。



 それ以前に私はロシェルカを危険に晒してはならない。私が動かないにせよ、ひとつも条件を残してはならない。

 色々アクシデントはあったが、これまで概ねゲームのシナリオ通りに動いている。

 ゲーム補正でドラゴンが出現したというのなら、妹が怪我をする可能性だってゼロとはいえないのだ。



「ロシェルカ、はやく!」

「はい、おねえさま!」



 私はロシェルカの腕を掴んだままの手を引っ張り、馬車へと引き込む。



「いいわ、出して!」



 しっかりとロシェルカの手を握り、出発を促すと、馬車はゆっくりと動き出した。

 窓から外を見やれば、神殿から煙が上がっていた。火事になっているらしい。

 神殿は王宮の隣にあるので、宮廷魔術師も控えている。すぐに出動要請が入ることだろう。

 きっと大丈夫だ。


 嘆息して、座席に体を預ける。

 それにしても、さっきのドラゴンの咆哮。

 怒り狂って鳴いたというよりも、苦しんでいるようだったのは気の所為だろうか。

 何か、助けを求めていたような……。



 --グルァア……グルァアアアアア!!


 と、思う間にまだドラゴンが吠えた。今度は長い。



『--……た……ッて!』

「え?」



 微かに、耳に声が届いた。頭の中に響くような不思議な声。

 何、この声は。どこから聞こえるの……。

 疑問に思って首を捻る。

 再度またドラゴンが吠える。



 --グルァアアアアア!!

『--助けて!!』


「!!」



 今度はハッキリと聞こえた。

 その途端、気づいた。

 咆哮に重なるようにして聞こえるその声。

 この不思議な声は、あのドラゴンから発せられているものだ。



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