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悪役令嬢な私の妹はヒロインな上に歌姫である  作者: 蓮宮 アラタ
序章 こうして全てははじまった。
1/11

1 思い出したけど詰んだ。

かつて投稿していた作品ですが、展開が納得いかず、プロットも作り直して再投稿しています。

序盤は前のとだいたい似ています。

 ハイランドア王国──北に神聖なる神々が住むとされるレンドア山脈と、南にかつてこの大地を作った女神の慈しみの涙が湖となったという伝説があるリエル湖に挟まれた、緑と資源豊かな美しい国である。


 貿易も盛んで、他国の知識を惜しむことなく吸収し、ここ近年特にめざましい発展を遂げている。

 もともと神に愛された大地とされるだけあり、鉱山やその他の資源にも恵まれている。

 それ故他国から狙われやすくはあるものの、神に愛された国と称されるだけあってこの国に攻め入ろうとすると何故か天災に見舞われた。


 時には地震、時には火事。

 進軍してくる者達の場所限定で。


 そんな神に愛された国で特に月が明るく大地を照らすある夜、この国のとある公爵家で新たな命が生まれた。


 美貌の両親の血を受け継ぎ、まだ幼いながらも完成された顔立ちの美しい赤子がふたり。


 栄えあるハイランドア王国、名門イグニシア公爵家にてその生を受けた双子は姉がロジエル、妹がロシェルカと名付けられた。



 月がとくに明るく大地を照らす、神秘的な夜のことだった。





 *





 ロジエル・イグニシアは悪役令嬢である。


 そのことを私、「ロジエル」が思い出したのは5歳になってからのことだ。

 朝、お付の侍女に起こされ、側に置かれた水差しで軽く顔を洗い髪をとかそうと鏡に顔を映した時だった。



 ふとその思考が浮かんだのである。



 よくある熱に浮かされて~とか生死の狭間をさまよううちに~とかではなく。



「──あ、私悪役令嬢だわ」



 この世に生まれて5年、その年に全く似合わない思考で納得した。

 いや、納得はしてないけれど。「すとん」とそれを受け入れた。


 受け入れる? 違うな。


 なんとなく自分の顔を見た途端、頭の中に一気に映像が流れてきたというか。

 いわゆる、前世の記憶というヤツ。


 その前世でハマっていた恋愛乙女ゲーム。

「歌姫の恋模様~ラブ・ラビリンス~」とかいうイタい題名。


 前世の私はそのゲームにハマっていた。

 そのゲーム、歌姫の……長いな。前世の私は「ラブラビ」と略していたのでそう呼ぼう。

 そのラブラビで、私、ロジエル・イグニシアは悪役令嬢だった。

 婚約者と親しくするヒロインをいじめ倒す。

 よくある配役。いわゆる当て馬的な?


 この国、ハイランドア王国に古くからある名門イグニシア公爵家の令嬢にして強大な魔力を持ち、「歌」によって様々な奇跡を起こす神に仕える巫女──“歌姫うたひめ”。


 ヒロインもそうだが、私はその“歌姫”の力を持つ。

 歌姫は文字通り歌を唄う姫。

 というか神に仕える巫女だが、歌を唄うことにより天候を操ったり、神からのお告げを受けたり、神に歌を捧げたり。

 わかりやすく例えるなら聖女のようなもの。

 歌を唄い、魔力で奇跡を起こし、時には神の依坐となる神聖な存在。


 貴族の女性の中でもとくに魔力が強く、強力なチカラを持つ存在から選ばれる。

 とくに目や髪の色が金色、銀色をした歌姫は歴代でも強力なチカラを持つとされる。

 金や銀は神がまとう色とされ、神聖な色とされるからだ。過去にもその色をまとった歌姫は強大なチカラを持っていた。まあ、それはいいとして。


 とりあえず私はその歌姫となる。のちに。

 ただよく覚えていないけれど、なんらかのトラウマでロジエルはそのチカラをうまく使えなくなるはず。


 なんだったかな、思い出せない。まあ、そのうち思い出すだろう。



 しかし、悪役令嬢か。面倒臭いな。

 それよりか折角「異世界転生」とやらをしたんだし、しかも私は魔力持ちで神の巫女“歌姫”になるくらい力を持っているのだから、是非使ってみたい。


 前世はそんな厨二めいたもの無かったのだから。科学は発展していたけれど。

 魔力がある世界などワクワクするではないか。アレをやってみたい。「転移」とかできるのかな? 魔法陣とか使って……。うわぁ、考えただけでカッコイイ。



 でも悪役令嬢ということはいわゆるバッドエンドとかで処刑やら追放やらがあるのでは。

 魔力とかでチートアレコレしてみたい私としてはそれは願い下げだ。

 魔力があるんだしどこでも食っていけそうだけど、公爵家って金持ちそうだしゴロゴロしたいしニートとかできそうではないか(しないよ?)。


 そうだ、ヒロインに関わらなければいいんじゃないか! 私ってばあったまいー!

 婚約だって魔力があるし神の巫女たる歌姫一筋でいけば結婚することは無いはず。

 歌姫は未婚で純潔が前提条件だから。


 そうだ、我ながらいい考え!

 私は恋愛より魔力でやりたいことがたくさんある。

 歌姫のチカラが使えなくなるトラウマは、今のところフラグが立っていないようだから、これから対策を考えればいい。

 なんとかなるでしょ!!


 ヒロインと関わらなければいいんだ。神に仕える巫女として慎ましく生きよう。


 そこまで思考し、私は鏡の前で自分の紫色の髪に櫛を通す。癖のないストレートの髪。櫛を通すまでもなくサラッサラである。サラサラではなく、サラッサラ。

 シャンプーのCMなみにサラッサラである。羨ましいなこんちくしょう。あ、私の髪だったわ。


 櫛であらかた髪をとかしてしまうと、再度鏡に向き直る。鏡の中からこちらを見返す幼いその容貌は、まだ5歳ながら完成された美があった。


 夜闇を溶かしたような艶やかな紫色の髪。その髪に覆われた綺麗な曲線を描く卵形の輪郭。

 銀色の透き通った光を放つ少し釣り上がった大きな目に、その目を縁取る瞬きすればバサバサと音をたてそうな、長い睫毛。

 絶妙なバランスで配置された鼻。

 頬は薔薇色で、同じ色を宿す形の良い唇。


 釣り目気味ではあるが、文句なしな紫髪銀眼の美少女である。


 おお、悪役令嬢といえども顔面スペック高いな。

 5歳でこの美貌だ、大人になったらどんな美女になるだろうか。男なんて選り取りみどり。求婚が絶えないであろう。全く興味はないが。


 自分の顔ながらあまりの美少女ぶりに感心してしまう。悪役令嬢でこれだけのスペックだ、ヒロインも相当可愛いはず。


 まあ私は関わらないので関係ないけれど。うん。



 ──そういや、ラブラビのヒロインって誰だっけ?




「おねえさま、おはようございます」



 そんな思考を遮るようにまだ舌足らずな発音をした耳に心地よい声が響く。



「あ、おはよう──……」



(!!!!!!)



 条件反射で声の主に挨拶を返そうとした途端、とても重要なことを思い出した。

 これぞまさしく青天の霹靂である。

 あまりの衝撃に手にしていた櫛を落とすのも構わず、体が硬直してしまう。


 挨拶してきた人物は、そんなこちらの様子を別段気にした様子もなく、私が落とした櫛を拾って差し出した。

 目が垂れ目で金色、髪が緩くウェーブ気味という以外は全く私と同じ容貌をした少女が、私に笑いかける。



「ロジエルおねえさま、櫛を落としましたわよ?」








 ──ロジエル・イグニシアは悪役令嬢である。

 ロジエルには双子の妹がいる。金色の眼をした、双子の妹。


 乙女ゲーム「歌姫の恋模様~ラブ・ラビリンス~」で双子の姉、ロジエルが悪役令嬢なら。


 その双子の妹はヒロインである。

 ロシェルカ・イグニシア。

 それがこのゲームのヒロインの名前だ。


 ヒロインが双子の妹。


 悪役令嬢で処刑や追放が嫌ならヒロインに関わらなければいい?

 そんなことできるわけないではないか。

 ヒロインが実の双子の妹だなんて!!


 ロシェルカに差し出された櫛も受け取れぬまま、私は呆然として笑顔をこちらに向ける双子の妹を見返した。

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