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シュートの悪魔シリーズ

シュートの悪魔4

作者: 神楽京介

 「基本動作を徹底してください」 

 夜も深まる22時の郵便局のミーティングが始まり、唱和の後、課長からシュート担当に対しての注意事項に話が及んでいた。シュート担当の基本動作とはシュートになだれ込んできた荷物に番号印を押し、正しい番号のパレットに入れるということだ。シュート担当が覚えることは少ない。荷物の番号をみてそれと同じ番号がはられたパレットに入れるだけだ。だから、他の担務からは低く見られている。輸送ゆうパック部に採用になった短期アルバイトのほとんどがシュートに入れられる。教えることが少なくてすむからだ。だが、そんな単純な話ではない。覚えることが少ないからと言って間違いが少ないとは限らないのだ。

 夏の短期アルバイトと同時期に長期アルバイトとして入った彼は、短期アルバイトが去った後もこの地域区分局にとどまっていた。繁忙期には最低3人はいないと成り立たなかったシュートに今は1人でとどまり、荷物があふれないようにキープし続けなければならない。それでも繁忙期に比べれば荷物は減っていた。

 「番号印を押印していない方がいます。基本動作を徹底してください」

そうアナウンスがされる。モニターで番号印を押してない人をチェックしてアナウンスで名指することもあった。

 シュートのみならず、輸送ゆうパック部のほとんどの人に番号印が支給されている。シュート担当は荷物の一つ一つに番号印を押さなければならない。

 コンクリートの壁に新たな誤区分者の番号が張り出されていた。ミーティング前に各々の人がその張り出しを確認する。

 彼の隣で張り出しを凝視していた男が「またか」と肩を落とした。

 自分の番号があれば、問責の対象になるからだ。1つなら大丈夫だが3つ以上なら課長から指導を受けることになるだろう。短期アルバイトでさえ、例外ではないのだ。間違ったパレットに荷物を入れたものを特定するために番号印を押させる。彼はこのやり方を嫌悪していた。

 誤送が良くないことは理解している。だが、番号印を押さない人を責めることもできないのだ。誰にだって間違いはある。荷物に追いやられて頭は真っ白な状況での間違いを誰が責められようか。

 シュートは楽だと笑うやつがいる。彼はそんなやつとは二度と口を聞くものかと心に誓うのだった。

「休憩中いつもどこにいるんですか」

 いつの間にかいなくなっていたあの男が彼に尋ねたことがある。彼は適当にごまかした。彼にとって中二階にある窓のない休憩室は息苦しかった。たまに三階の郵便部の休憩室にこっそり紛れ込むこともあった。ここには窓があった。深夜の真っ暗な街にコンビニの明かりがひときわ目立っていた。

 台風の夜、屋上駐車場に行ってみたくなった彼は、強風につき屋上喫煙所立入禁止の張り紙を無視して、エレベーターに乗った。彼の予想に反して外の風は止んでいて、立入禁止のはずの喫煙所にも何人かのおばちゃんがたむろしていた。

おばちゃんの横を無言で通り過ぎた彼は北側を目指して歩いていった。もしかしたら見えるかもと彼は期待していた。

 台風が過ぎた後だからかそれとも元々から見えないのか。京都タワーの姿はここまでは届かなかった。

 「屋上だとここからでも、京都タワーがみえるよ」

 そう彼はあの男にうそぶいたことがある。彼は肩を落として屋上を後にした。休息時間が終わろうとしていた。

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