始めの終わり
椎野澪17歳高3。
父親はサラリーマンで母親は飲食店のウエイトレスのパート、妹の沙穂は今年高1になった。
どこにでもある一般的な家庭で、私だってちょっと髪の毛を茶色く染めただけの、まぁ普通の高校生。
今だって学校から帰る途中で、人通りの疎らな住宅街を歩いていて、
後5分もすればお母さんが夕食を作って待ってる家に着くっていうところ。
このまま普通の一日が終わるんだと思ってた……
「……て…た……て、か…さま…」
突然、だった。
気付いたらそこには家も街灯もないどころか地面も空もない一面の白が広がっていた。
何もないその空間に在るのは私と私の目の前に居る《歪んだ》女の子…
「…けて、まを…」
哀しげな顔で何かを訴える女の子の声は、映りの悪いテレビみたいに雑音まじりで聞こえづらい。
女の子の姿自体も《歪んで》いて、ピントの合ってない写真みたいな、壊れかけのテレビみたいな、本物じゃない、実態じゃない、女の子の《映像》。
声も、聞こえるって言うんじゃなくて頭の中に響いてくるみたいで気持ち悪い。
意味もないのに耳を塞いで蹲る。
「さま…たすけ…、」
ちょっとずつ、《合って》くる。
私に伝えたいんだろうことがわかってくる。
――たすける、の?誰を…?
頭の中にガンガン響く。ちょっとずつ鮮明になる言葉の何倍もの速さで声の大きさだけがあり得ない大きさで頭に響く。
――気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!!
「かみさまを、たすけて」
一瞬見上げた先の女の子のガラス玉みたいな淡い青い瞳から涙がこぼれるのだけを見て、
私は意識を手放した。
それが私の、普通からの別れ。