悪役だろうがヒロイン気取ろが、王子もまとめてパーティナイ!
勢い。
卒業式後、王城で開かれた祝賀パーティ、その佳境。私は一人で常識知らずにも、口も隠さず声をあげて笑っている。そんな私は一人で壇上に立っている。止める者は居ない。止める気もない。私は会場中に響けと笑い続け、会場中の耳目が私に集まるまで笑いつづけた。というか、現在進行形でやらかしている私は既に注目されているので、みんながただ黙って私を見つめるだけ、になるまで笑いつづけなければいけない。特に努力は要らないけど。こちらを見つめる皆の顔がおもしろすぎたので、止めようが無かったとも言える。
さてやっと落ち着いてというか、脇腹が痛くなってきたので笑いを引っ込めた私は、周囲を見回した。笑顔のまま固まって私を見守る者、驚愕に顔を引き攣らせる者、怒りに顔を赤く染める者。恐怖に眼を見開く者。なぜ貴様が、そんな真似をと怒号する者。そんな怒鳴り声はパーティには似つかわしくないね。
私は手を上げ指をパチリと鳴らす。効果音だ。特に意味はない。だが今まさに私に駆け寄ろうとしていた、五月蝿い怒鳴り声をあげた男はバタリと倒れて動かなくなる。ひっと言う小さな声が上がるが、声をあげた者も男の倒れる音に反応しようとした者も、私の笑顔に硬直し、結局場は静かになった。私はそれを見て頷き、壇上で一礼の上、私なりの朗々とした声で、壇上から一篇の詩を詠み上げた。
「我らを見下しこきおろす
生まれを誇るクソ野郎
金と男に目が夢中
目に余るゲスを見せつける豚
王も貴族も、王子も騎士も
王国に係る全ての屑よ
たったいまからみんなまとめて
死ぬまでずっとパーリナイッ!」
お世辞にも上手な詩ではない。下手過ぎて自分でも泣ける。さもありなん、これは王子様が、このパーティ開始の際、ある平民女子に捧げたどうしようもない恋の詩を即興でもじったものだから。それは確かこんな詩だった。
「私を褒め称える
私より褒めたたえられるべき君
富も名誉もその目に入らず
ただ私だけを見つめる君
私が王子でも関係ない
君が何者でも問題ない
今ここで皆に誓う
永遠に君と踊り明かす事を」
ほらお前も思っただろう、気色悪いってな?
王子が拙い詩を披露した場面はなかなかよかった。壇上に呼ばれ、王子が歌うその下手くそい詩をうっとりと聞いていた女も、壇上で片膝を付き頬を染めながら陶酔しきった表情で詠み上げる王子も、それをさも当然と聞いていた取り巻き連中も、驚きつつも息子の恋路を見守る体裁を崩さなかった、いや崩せなかった王も王妃も、全員が壇上に居て、あの時壇上を爆破できれば、という所だがマーキングが出来ただけでもよかったのだ。そして二度とそのような場面が見られないことを私は少し惜しんだ。
だって狭い屋内の壇上に爆弾仕掛ける機会ってそうそうないから。壮観だったろうに。
そいつらの大半は、もはや物言わぬ死体になって転がっている事実を私は心から喜び、この国の支配階級に祝意を述べあげたいと思う。そんな気持ちで歌いきったのだが、私のバージョンは大勢の参加者には受け入れられなかったようで。
再びの怒号と、今度は悲鳴も巻き起こった。うむ、良い音楽にしか聞こえない。
末期だな。と私は思った。この連中を人間と見做さないと誓った私だが、無事深層意識まで徹底して思い切る事ができたらしい。こいつらへの憐憫が残っているとやりにくかったが、心配は無さそうだ。人として終わってることは自覚してる。
「男爵令嬢ドュリドュリ・ゾンドポンノ!貴様一体何が目的だ!」
「元は平民ながら今や男爵に名を連ねるそなたが、なぜこのような!」
「うるっせええええええええええええ!」
知り合いの貴族が私に呼びかけてくるのだが、「男爵」やら「元平民」やら私の心を抉るピンポイントな攻撃をしてくるので、つい大きな声をあげつつ、袖に隠したナイフを取り出して投げつけてしまった。二人のおっさんの眉間からナイフが突き抜け、倒れる頃には事切れている。二人の後ろにいた誰かにも刺さって悲鳴と血の噴水が起こったみたいだが、どうでもよかった。
奥様方が、知り合いだと思っていたおとなしい男爵令嬢の突然の豹変と、それに夫をいきなり殺された事実に数呼吸後気づいて哀れな悲鳴をあげる。あーナイフ二本無駄にした。思えば貴族社会も長すぎたか、不必要に知り合いが増え、一々苛つく言葉を投げてくる奴がいる。さっさと虐殺しようそうしよう。
私は笑顔でもう一回宣言する。そう、今夜はパーリナイッ!だよ!
宣言した時にちょうど、会場の扉を開けて入場してくる不運な奴が居た、と思ったら公爵令嬢のザリヤザリヤ・トーブトーゾ嬢だった。そういえばなんか居ねえな、と思ったら今ご入場かよ。なんだ婚約者のエスコートでも待ってたか?彼女とそのお付きは会場に立ち入るなりギョッとして立ち止まる。
むせ返る血の匂い。見えにくいけど壇上で倒れたり崩れ落ちている王族や高位貴族のご子息ども。壇の下でも、倒れたテーブルや同じく血だまりのなか倒れる、男女問わず十を越える、綺麗に仕立てられたドレスやタキシードに身を包んだ死体。剣を抜いたまま、壁際の物言わぬ花と化した近衛騎士。端の方で震えている本日の主役の王子様。公爵家トーブトーゾとの断絶も覚悟した王子様から、つい先ほど公衆の面前でプロポーズされた平民の女子。壇上で高らかにパーリナイッ!宣言している私。わかりやすい状況ではなかろうか。少なくとも私以外はわかりやすいだろう。
先ほどの立ち回りが山場、後は最後のイベントまでの暇つぶしと思っていたが、今からがクライマックスなのか?私は少し期待に無い胸を膨らませてって煩いよ、胸を膨らませて公爵令嬢ザリヤザリヤを見つめた。
「これは、い、一体どういうことでしょう」
ザリヤザリヤ嬢は、辺りの匂いと惨状に顔色を悪くしつつも健気にも耐え、私を睨んで問い詰める。公爵一族に名を連ねる者としての矜持がそうさせるか。勿体ない。横に立って彼女を支えるように、周囲に目を配るお連れ役は既に剣を抜いているっていうのに。そのまま振り返って全力ダッシュで逃げてれば、生き残れたかもしれないのにね。逃すつもりないけどさあ。
自分に今、確実な命の危険が迫っている事を理解しているのか、いや、端で震える王子も平民女子もそうだが、自分だけは大丈夫、とか思っているのか?私、真っ先に一番偉い王様、殺ってんだぞ?お前らの方が偉いわきゃねえじゃん?
私はなんだか面白くて、彼女と少し会話することにした。
「どうもこうも、見ての通り、これから私のパーリナイッ!てところ?」
「仰ってる意味がわからないのですが」
「分かるように言ってないから当然ね」
「そう、出来れば分かるようにご説明いただきたいのだけれども」
挑発する私。挑発に耐え私の隙を誘い出そうと決めたらしい公爵令嬢。おや、命の覚悟出来てるねこの娘。ちょっと気に入った。
「では分かるようにご説明を。私、皆さんがご存知の通り元平民じゃん?」
「ゾンドポンノ家のご令嬢と言えば、その生まれを揶揄する下劣が絶えないとはいえ、ずば抜けた知能でいずれ王家を支える立派な事務官になるだろう、と有名ですね」
「わざわざご説明ありがと」
プライド高いと分析し、そのプライドをくすぐる作戦かしら。乗ってあげようかな。私は自分の知能をそこまで誇ってもいないし、立派な事務官とやらになるつもりもないけど。なにせ私の知能と言えば、ずいぶんと昔に通ってたそろばん教室のおかげで四桁の掛け算が暗算で出来るくらい。これで知能ずば抜けた才媛扱いするこの国ちょろいんだけど。私の本質は武力ですが?
横に立つお連れ役は端っこで抱き合いながら震えている王子様とその愛人じゃねえや恋人を見つけて一瞬目が光るものの、それどころじゃないと慌てて周囲と私の警戒に戻る。ザリヤザリヤは入場直後に気づいてたけどな。守るべきご令嬢よりスペック低いお連れ役ってどうなんだろね。
その感想はつい口から出てしまっていたらしく、いきなり怒りの表情を浮かべるお連れ役の僕ちゃん。ザリヤザリヤは手でその僕ちゃんを制止する。
「その、頭脳明晰才気煥発なドュリドュリ嬢が、これを?」
「私がここで笑ってて、犯人じゃなかったら怖いよねソレ」
「いえ、知力は存じておりますが、武力については一切聞いたことがございませんので」
「能ある鷹は爪を隠すし?ゲームで私の事情しってるよねアンタ」
その言葉を聞いて、この広い会場に生き残った人間のうち、たった二人だけビクリとした。公爵令嬢ザリヤザリヤ嬢、そして端っこで震えている愛人平民女子の二人だ。
「私、この手のゲームやったことないんだよね。だからこの世界を世界のまま理解しようと頑張ったんだよ。無駄だったわ〜。誰が考えたかしらないけど、ここで王子様と結ばれる誰かのためだけに作られた世界って、他の人からみてどう見えるか知ってる?クソだわ。滅ぼしたくなるほどに」
「それは」
どういうことでしょう、と無表情を保ち続けようとした公爵令嬢だったが、最後まで喋る事は出来なかった。なぜなら私が撃ち殺したから。パーリナイッ!
目に見えない銃弾を頭に受けて後頭部を破裂させた公爵令嬢ザリヤザリヤは、撃たれた衝撃でお連れの僕ちゃんに倒れかかる。僕ちゃんは金切り声で悲鳴。さすがパーリナイッ!甲高い声が煩いな!
無表情が悪手だ。ビクリとしたからにはお前は、私の事情を知ってる筈。そのくせ、私の怒りがわからない。そんなお前は敵だ。やはり、躊躇無く全力で殺すべき敵だ。平民女子は最後まで残しておくが、どう動くか分からないお前はやっぱ邪魔だわ。クライマックスに出来ずごめんねザリヤザリヤ。自分の言葉で熱くなり過ぎたが、勢いで撃ち殺した私悪くない。
いや最低でも国家反逆の大罪人だけどさ。
私が話をぶった切って、いきなり公爵令嬢の頭が吹き飛んだものだから会場の騒音が高まる。パーティらしくなってきたと思わない?私は辺りに負けないくらい声高に笑って、騒ぐ奴等も逃げる女も無差別に、会場の出席者を殺し始めた。具体的には小石くらいの鉄の玉、ぶっちゃけパチンコ玉ですね、数えきれないほどのその鉄の玉が、それぞれ超音速で弾丸のように会場内を吹き飛ばす。暴風雨みたい。
あはははははははは!あはははははは!パーリナイッ!パーリナイッ!
ガラスや食器や石造りの大テーブルが割れる音。さすがパーティ騒がしい。あと骨が砕けたり柔らかい何かが破裂する音。とってもパーティらしい、心踊る音だと私は思った。
砕けた弦楽器が、ぼろにょおおおん、て音を上げ、また私は笑う。面白い!パーリナイッ!
ひとしきりパーティを楽しんだら、動いてる人間がまばらに残るだけになった、みんなご退席かしら?三百人くらい出席してたはずなんだよね。今動いてるの十人いるかな?殺ったなあ。呻き声や啜り泣く音も聞こえてくる。パーティ終わりの物悲しくも静かに流れるBGMっぽくない?蛍が光っちゃう的な?
「なんで、なんでこんな事ができるんだお前は!」
端っこの方で、左肩を押さえながら王子様が叫ぶ。お腹を軽く鉄の玉で抉られただけで済んだ平民女子が、王子様を支えていた。
「なんでと聞かれても、私がそうしたかったから、としか」
何言ってるんだお前、みたいな顔をする王子様。
「なぜだ!王を、父を母を、こんな大罪を犯して、そうしたかったから?ふざけるのも」
「うるせえな」
屑で虫以下知能のくせに人間っぽい事を言う王子に苛ついたので、右肩も撃ち抜いておく。悲鳴をあげて倒れ転がる王子様。一緒に撃ち抜こうとしていた平民女子は、幸運にもちょうど叫ぶ王子を支える姿勢を変えようとしていて、鉄の玉がその脇をかすめただけ。たまたまっぽく見えるように頑張ってるなあ平民女子。
「王国のため他国滅ぼすのはよくて、王侯貴族だけ皆殺しは大罪と?」
「な!」
「お前らの社会構造の歪みっぷり、こっちゃあもうとことん頭にきてるわけ。こんな事しでかすくらいには狂ってる自覚もあるんだよ。これ以上喋るな」
せっかくお前らが大好きなラストパーティにあわせてやったんだ。むしろ感謝しながら死ね。私はそう言いながら、壇上から辺りを再び見回す。かすれ声で助けを呼んでいた子爵婦人も、もうとっくに頭撃ち抜かれている娘を探そうと這い回っていた伯爵も、倒れた近衛騎士から剣を奪ってこちらに向かおうとテーブルの影で身を潜めていた侯爵も、全員息の根は止まったようだ。よしよし。
「乙女ゲーのシナリオってよくしらないけどさ、お前らの恋愛ごっこに絡めて戦争とか魔族の侵略とかあるじゃん?」
私は周囲の大多数が既に黄泉に旅立った事を確認しつつ、つまり動いてようが動いてなかろうが関係なく、目につく体の頭部にパチンコくらいの鉄の玉をぶち込みつつだが、両肩を撃ち抜かれて悶絶する王子様に向き直る。
正確には、その隣でガタガタ奮えている平民女子に語りかけているつもり。今までは回避できてたかもしれないが、全力の私の攻撃は避けられまい。そして今から私はお前たちに全力だ。
「なんだっけ、十年前の魔国平定の後、平和になった王国に落ち延びた、魔国王子と人間のハーフが私なんだっけ?知力と魔力に目をつけられて男爵んところに預けられ、学園に入学してヒロインと仲良くなって、自分の出生に悩みながらもヒロインが狙わない攻略対象と恋愛する、サブシナリオだっけ?無事カップル成立させると、攻略対象の好感度もアップだったっけ?半分魔族である自分が、こんな幸せでいいのかってヒロインに泣いてお礼を言うんだっけラストで?」
私は自分でも分かるが、多分ものすごく笑顔だ。狂ってる。私はその笑顔のまま、ヒロイン役の平民女子に尋ねる。この内容は、学園入学した直後、同じく転生者だと名乗るこの女から聞いた話である。だって私このゲームやったことないもん。あと恋愛どころじゃないし。
「そ、そうよ!同じ平民同士、仲良くやってきたじゃない!」
「人の故郷滅ぼしといて、よくもまあそんな事いえるね」
私はその笑顔のまま、懐から手斧を取り出した。え?どこから?と不思議がる平民女子。これは死ぬ前に父さんに託された形見だわ。誰にも言うつもりないけど。
その質問には答えず、私は黙って王子の頭に手斧を振り落とした。壇上から、一気に間を詰める私のスピードは彼女の目ではとらえきれない。
ぐしゃっ。パーリナイッ!
奇声を上げる王子様。そりゃ頭に斧が当たれば声も上げるってもんだよパーリナイッ!目の前の私に呆然とする平民女子。倒れて陸に打ち上げられた魚のように跳ね、しまいに大人しく死んだ王子様。斧を引っこ抜く私。父さんの仇だ。平民女子も王子も逃げて見てないかも知れないけど、王と王妃もこの斧で殺った。もちろんパーリナイッ!て叫んだよ?
この会場でのパーティは終わりに近づいている。
「お前らが言うとこの魔国平定が十年前ってことはさ、私八歳までそこに居たわけじゃん。つまりさ、八歳の、優しい父と母に育てられ、たまに厳しいけど甘々なお爺ちゃんにお城で遊んで貰ってた私がさ、田舎っぽいけど気の良い魔族の皆とスローライフ楽しもうとしてた私がさ、家族、友達、知り合い、全てを殺され住まいを焼かれ、殺した側に落ち延びてきてるって事だよね?分かって無かった?スタッフも考えて無かった?クソふざけるのもいい加減にしてほしいんだよね」
私は王子に縋りつくのを止めた平民女子に語りかける。血まみれの斧持って笑顔で語りかけるんだけど、平民女子はもう私に背を向け、勢いよく走りだそうとするところで。
「母は自殺も考えて、それでも私の為に、人間の国に戻り、人間として私を育てようと頑張ってたんだよね。魔力が高いからって母を殺して私を手元に置いたあのクソ男爵が来るまでは」
私の声は、彼女の耳に響いているだろうか。心配になり、猛烈な勢いで駆け出した平民女子の肩をつかみ、無理やりこちらを向かせる。平民女子はああ、何てこと、と呟き座り込んでしまった。逃すわけないじゃん。
「勝手に男爵令嬢にして、勝手に元平民だと罵り、母にも会えず、あのクソが母を殺したって知ったのはこの学院に入る直前だった」
順調に魔力の訓練、主に武力方面を伸ばし、隠密なども出来るようになって。大好きな父や祖父、友達を殺した人間どもを憎みつづけたが母も人間だ。そんな屑ばかりじゃないと思っていたし、この身に燃える復讐心をどうすればいいのかわからなくて。母に会いたいと屋敷を抜けて住んでいた家にやっと辿り着いたら、私と一緒に母は誘拐されたことになっていて。私は見つからなかったが、母はその後すぐに見つかっていて。犯され殺されゴミと一緒に捨てられて。お墓もなく。
そこまで思い出した私は、衝動的に平民女子の頭を斧でかち割った。母の事を思い出すだけで、全てが怒りで塗りつぶされてしまう。平民女子は脳天から鼻まで刺さった斧に、え、ここ?なんで?と言う顔をして、そのまま白目を向き、私の目の前で倒れて死んだ。パーリナイッ!だ馬鹿野郎。
母の無惨な死を知った時から、私は人間を諦めた。こいつらは全員、人間の皮を被ったゴミだ。子供も老人も、全てゴミだと思うことにしたのだ。毎晩鏡の前で暗示までかけた。私もゴミだ。半分ゴミだ。誘拐先でぬくぬくと、罵詈雑言さえ除けば幸せに生きてしまったのだから。母を見殺しにした挙句。ゴミにはゴミにふさわしい生き方がある。
私は顔をあげた。もうこのパーティ会場に、生きているのは私だけになってしまった。公爵令嬢のお連れの坊ちゃんはどうしたっけ?まあどうでもいいか。
私は会場の出口に向かう。ゆっくりと、生きているゴミが残ってないか確かめつつ。坊ちゃんの洋服を着た頭の無い死体があったので、無事に脳漿まき散らして死んだらしかった。ちょっと安心。
逃した奴はいない筈だが、通信の魔法とかあるから、状況は報告されていると思う。それか逃した奴がもしかしているかもしれない。私だって万能じゃない。出来ることは限られている。
私から全てを奪うだけは飽き足らず、この脳みその小さい猿みたいな王子と、その取り巻き連中の気を引くために学園に押し込まれ、王子を奪い合うため、あまつさえ私を味方に率いれようと頑張る二人の醜い争いを見せつけられ、余った取り巻きの一人を押し付けられた、この学園というシステム、この地獄で私は三年間も我慢した。
学園に入る際、あの平民女子が言ったのだ。私の故郷を滅ぼした理由は、まさにこの学園生活なのだと。こんな空虚な恋愛遊技のために、私は全てを奪われたのだと。
なら、私に出来ることは、一番予想外かつ衝撃的なエンディングを提供することだけだ。私が考えた素敵なパーリナイッ!だよ!粋で小洒落たエンディングなんて生ぬるい。血と涙と狂気に満ちた終末こそ、この国、この学園、この世界には相応しい。
パーティも終わってないからね。正確には終わりを告げる人間全員死んじゃったっていう。それに始まった復讐がこんな簡単に終わっちゃダメでしょう。王家?貴族?兵士?いやいや私は半分魔族だ。魔族なら、人族全て滅ぼすくらいの意気込みでやらなくちゃいけない。血の匂いを嗅げば嗅ぐほど、もっと多くの血を求める。これじゃ足りないと復讐の炎が吠える。全てだ。全て滅ぼす。
人族と魔族の融和を唱えて頑張ってたお爺ちゃん、ごめんなさい。お爺ちゃんの理念を実践し、母と素晴らしい愛を育み、私を愛してくれたお父さん、ごめんなさい。私には無理。母から受け継いだ人間の血だろうか。お母さんごめんなさい。本当はお母さんが死んだ時、この世界は滅ぶべきだったのよ。そう、私はこいつらを全て滅ぼしたくてしかたないの。もう無理なの。
少しの間だけ目を瞑り、最後まで残った私の中の私の残滓が、父と母、祖父が待つ世界に旅立つのを見送る。さようなら。後は任せて。
さて、続々押し寄せる会場の外にたむろってるゴミ兵士ども。お前らゴミに囲まれようが、絶体絶命だろうが、私はまだまだ楽しみたりないぞ!パーティはこれからだ!
私は勢いよく会場の扉を開けると、目の前で構える数十人の兵士を見て。その後ろに押し寄せる数百人の兵士、騎士の足音を聞いて。城中に灯る明かり、遠くの街から聞こえる喧騒を見渡して、大きく笑った。既に目の前の数十人は全身の穴という穴から血を流して倒れつつある。辺りが強い血の匂いで染まる。
さあ、全員まとめてかかってこい!この楽しいパーリナイッ!はまだ終わらない!
この後当日中に主人公は死ぬ。