第9話 狼の獣人スキル
炎はまだ家の中には燃え移っていない。外壁が燃えているだけだ。だが、この勢いだと、数分と持たない。
「燃えてる……」
「いったいどうなってるニャ、燃えてるのニャ、焦げ臭いのニャ」
「他の部屋は?」
僕とフィオラは、手当たり次第部屋を当たった。だが、どこもかしこも火の手が上がっている。すでに、家の中はサウナのような熱気だ。
「まさか、村人たちの仕業か!? このままじゃ、丸焼きにされてしまう!」
「村人たちは、ケゾールに抵抗する度胸があるようには思えなかったのニャ」
「まさか、ケゾールに俺たちのことがバレたとか……」
「可能性はないわけでもないニャ。でも、そんな気配はなかったのニャ」
このまま話をしていても、無駄に時間が過ぎてゆく。
「何か方法は……」
──煙が充満してくる。たしか、これを吸うと危険なはずだ。何か、手立ては……そういえば、ステータスにはまだ続きがあったはずだ。何かあればよいのだが……。
「【ステイト】!」
視界に文字が現れた。下の方にある▼の点滅に触れてページをめくる。自分のステータス。獣のステータス。そして……まだ確認していない画面が視界に現れた。
[
M.gauge 17%(羊)
S.gauge 0%
UI OFF ▼
Mail 1件 ▼
Help ▼
]
このよくわからない能力の正体がつかめるなら、ヘルプは見ておくべきだろう。僕はHelpの▼に触れた。ツリーをくまなく調べる。そして、役に立ちそうな情報を発見した。
[
【Help】
~
┣◆RA
┣◆SK(1)
┣◆SK(2)
┃┗MFPを消費して攻撃をします。発動はスキルの使用を念じるだけです。慣れれば手足の一部のように発動が可能です。
]
──念じるだけ……それだけでいいのか……。
そういえば、このMailってなんだ? 1件届いているようだが、とても気になる。なにか重要なメッセージなのだろうか。僕は、Mailを開いてみた。
[
【Mail】
【From】九尾の狐
【件名】ねぇねぇ今どんな気持ち?
【本文】どうですか、あなたがいる世界はモフモフし放題で、さぞかし気持ちいいことでしょう。飽きるまでモフモフしていてくださいね。
PS m9(^Д^)プギャーモヒカン!
]
──見なきゃよかった……イラッときた。もしも、次に会うことがあったら……禿げにしてやりたい……。とにかく、スキルの使い方はわかった。今使える獣人スキルはたしか、雄叫びだったはずだ。大声のスキルなのか? ペスがこれに気付くか……捕まっていればアウトだが……考えたってしょうがない、もうそんなに時間はない。早くしないと火の手が回る!
辺りは黒い煙が充満し始めていた。スキルを発動する。
『アオォオオオオ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~』
────ゴゴゴゴ(家が響く)
「耳が痛いのニャ」
僕は全力でスキルを使った。すると、部屋の小窓が突然吹き飛び、次に壁が崩れるように吹き飛んだ。その後、風のようなものが一直線に吹き出し、壁に穴を開けた。超音波砲か何かなのだろうか、今の状況にとってはありがたいスキルだ。
「フィオラ、穴が空いたぞ! 今がチャンスだ!」
「凄いのニャ! 助かったのニャ!」
炎が道を塞ぐ前に、僕とフィオラは空いた穴から走って屋敷を脱出した。その瞬間、屋敷は轟音を上げて燃え始めた。もう少し遅かったら、あの炎に巻き込まれていただろう。間一髪とはこのことだ。
額に掻いた汗を拭い、ゆっくりと周囲を確認する。すると、少し離れた茂みに軽装の羊っ娘と数人の人影が見えた。屋敷に火を放った奴等? この村の兵士か何かなのだろうか。できれば、戦闘は回避したい。それと、ペスは無事なのだろうか。
向こうもこちらに気が付いたようだ。白いスカーフのマスクをして角材を持った羊人たちが、僕たちを取り囲むようにゆっくりと近づいてくる。いざという時は、さっきの雄叫びを使って強行突破するしかない。とにかく、僕らは今、ケゾールソサエティー側の態度を取らなければならない。僕は、低い声で怒鳴った。
「お前ら! こんなことして、タダで済むと思っているのか! 子供たちがどうなってもいいのか!」
──うわっ……似合わないセリフ吐いた……しかも、やられ役なセリフ……やばいフラグだったりしないよな……。
山賊のような装備をした一人のかわいい羊っ娘が、僕のセリフを無視して目の前に近付き、鼻先にサーベルを突き立ててきた。そして、勇ましい声を出す。
「そんなの知ったことか! わたしたちは盗賊団ハエールだ! そして、わたしは頭をやっている『風雲のメリル』だ! この村は我々に対して上納金を収めなかった。なので、見せしめにこの家を焼き討ちしたまでのことだ」
──な……村の奴等じゃないのか!
「だが、お前はこの村の住人じゃないようだな。おそらく、ケゾールとかいう輩だろう。一人お前の仲間を捕まえた。返して欲しくば、金をよこせ! 1000万モフカだ。なければ、お前らの首領に会わせろ! さもないと……こいつを殺す」
ハエールの戦闘員らしき2人は、ボコボコにされたペスを僕の眼前に晒す。
「……申し訳ないです……」
「「ペス!」」
──ケゾールの次はハエールか! 次から次へと……変な奴等ばかり……なんだかだんだんムカついてきた。こうなったら、雄叫びでこの場を一掃して……。
「待つのニャ~」
突然、フィオラが話に割り込む。そして、黒装束のフードを取り、素顔を晒した。何か策はあるのだろうか。
「お前、ケゾールの者ではないな! 一体何者だ!」
メリルはものすごい剣幕でまくし立てる。ケゾールの者じゃないと、なにか不都合があるのだろうか。
「わたしたちはモフテンブルク国王から密命を受けてるのニャ」
──ソレを言っちゃあまずいだろっ! 正体を明かしてもいいのか!?
フィオラは小声で僕に話しかける。「今時角材もってる盗賊団なんていないのニャ。普通はサーベルとかナイフとかなのニャ。頭の持っているサーベルも貧乏くさいニャ。それに、羊人ならこの村の関係者だってことは容易にわかるのニャ。だいたい盗賊なんてのは狼とか、猫とか、やってる種族が限られてるのニャ」
「そうなのか!?」
──じゃあ、こいつらはいったい何のために盗賊団を……。
「ちょっと待て、お前たちはケゾールソサエティーのメンバーじゃないのか!」
メリルは、困惑した表情で声を荒らげる。フィオラが正体を明かした瞬間、態度が一変したようだ。
「お頭! こいつ、付け毛です! モヒカンじゃありません!」
「痛たッ」
盗賊団の一人が、ペスの付け毛のモヒカンを剥がす。すごく、痛そうで見ていられない。フードを外し、ペスを乱暴に扱っている輩に声をかける。
「仲間を手荒に扱うのをやめろ! そんな姿をしているが、そいつは騎士だ」
もう正体がどうとか、どうでもいい。とりあえず、この状況をなんとかしなくては。僕はスキルを使おうと、息を吸い込み声を上げようとした──はずだったのだが、フィオラに肩を叩かれ、スキルの発動を止められた。
「わたしに任せるのニャ」
フィオラは、自信満々に僕の目の前に立ち、メリルと相対した。