表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モフモフが大好きな僕は、異世界で最高のモフモフを探す旅をする。  作者: 夢奏 舞P
はじめてのモフモフ編
5/24

第5話 柔人、牢屋でモフモフ

 そこは、すこし薄暗かった。ヒンヤリとした硬い石の床が体を冷やす。体には、タオルのようなものが巻きつけられ、首には皮でできた輪っか。一体なにが……。


 暗さに慣れてくると、周囲がはっきりと見えてきた。錠前のついた鉄格子が視界に入る。


 ──鉄格子って……まさかここは……。


 そう、牢屋である。気を失っていた間に運ばれたのだろう。でも、いったいなぜ……。


「よう、新入り」


 奥の方から、ドスきいた低い声が聞こえてきた。


「新入りって……僕?」


「お前以外に誰がいるよ」


 光の届かない、真っ暗な牢屋の奥で、怪しい目が冷たく光っているのが見えた。声の主だ。僕は恐る恐る近づく。ぼんやりと現れたその姿は、モフモフな狼男の着ぐるみのような姿で、左目に黒い眼帯をした男だった。


「狼男! まさか、ケゾールソサエティーの一味か!?」


「おい、小僧。馬鹿なことをいうんじゃねえぞ。あんな毛無し連中と一緒にするんじゃねえ。俺は山賊をやってたジョニーってもんだ。お前こそ、綺麗に毛を剃りやがって、連中の一味じゃねえのか!?」


「いや……ちがう。これはもともと無いんだ」


「もともと無い……だと! アッハッハッハ! つんつるてんかよおい! どんな種族だ!?」


 ジョニーは突然、バカにしたように笑いだした。


「ぼ……僕は人間だ!」


「ニンゲン? 初めて聞く名前の種族だな」


 ──初めて……まさか、ここには人間はいないのか!?


 そういえば、人間らしき人物をまだ見かけていない。ケゾールソサエティーの奴等は、ただ毛が剃ってあっただけでおそらく獣だ。他は顔だけ人間で体がモフモフ。つまり、ここにはモフモフしかいない、そういうことなのだろう。


「いったいここはどこ? なぜ僕たちはここにいる?」


「お前バカか? そんなの、悪いことしたからに決まってるだろ。俺達は犯罪者だ」


「は……犯罪者!?」


 ちょっとまて、犯罪って……僕がいつ犯罪を……。


「おめえさんはこの、モフテンブルク城の姫、アンナ・F・コンチェルトの誘拐に加担したケゾールソサエティーの狂信者ってことになってるぞ」


「な、なんだってええぇぇ! …………誤解だ! 無実だ! 冤罪だ!」


「でもなぁ、一度捕まっちまったらアウトだ。それに、こんなだいそれたことをしたんだ。死刑は免れないだろうな」


「いや、だからしてないって!」


 ──なんだよそれ……狐っ娘姫を助けようとした結果がこれか、これなのか!? こんなことならあの猫っ娘のモフモフで我慢しておくべきだった……。


「そうか、僕は死刑……これから殺されるんですね……」


「まあ……このままだとそうなるわな……」


「じゃあ…………」


 死刑だなんておかしすぎる……気が狂いそうだ……。もう、目の前の狼男がモフモフにしか見えない……。


「冥土の土産にモフモフさせてください」


 僕は、その瞬間、どうせ死ぬのなら、目の前にあるモフモフをモフり尽くしてやろう! と、そう決めてしまった。


「何? モフモフって何だ!?」


「モフモフです!」


 僕は、眼の前にいる眼帯の狼男に抱きついた。そして……。ツンツンしているようでふっかふかな毛に思う存分モフりついた。


「もっふもふ~! もっふもふ~! わあ、ふっかふかだぁ!」


「んなっ! 何をするううぅぅ!」


 やはり、獣臭い。シャンプーして洗って丁寧に乾かしてブラッシングすれば、もっとモフモフになるのに。でも、これが僕の最後のモフモフになるかもしれないんだ。モフらなきゃ!


「もっふもふ~! もっふもふ~! どうせ死んじゃうんだから、もっとモフるんだ!」


「バカ! やめろ! やめないか! 落ち着くんだ!」


 落ち着く? 僕は、これでも冷静さ。


「もっふもふ~! もっふもふ~!」


「も……モフっちゃ……もうらめらああぁぁ!」


 もっと、もっとだぁ!


「もふもふ! もふもふ!」


「くぁwせdrftgyふじこlp」


 ジョニーは、モフモフショックで倒れた。


「ふぅ……やっぱり、もふもふ最高!」


 気がつくと、頭から狼耳が生えていた。狼男をモフったからだろうか……ということは、この能力はやはりモフった相手の動物になる能力。確証が持てない……まだ調べる必要がありそうだ。はたして、この狼男の能力はどんな能力なのだろう。


 狼耳をヒョコヒョコさせて遊んでいると、ガチャっ(錠前が開く音)と音がした。鎧を着た犬っ子の2人の兵士が鉄格子の扉を開けて中へ入ってくる。


「おい、そこの毛のない男。こっちへ来い」


「ぼ……僕のこと?」


「それ以外に誰がいる! この狂信者め!」


 釈放……なわけないか。いったい僕はどうなるんだろう……。


 僕は、兵士に腕を抑えられ、地下室へと連れて行かれた。


「ま……まってくれ。僕は、やってない、やってないんだ!」


「悪いことしたやつは、みんなそう言うからな」


「いや、そ~じゃなくて、僕は狐っ娘姫を助けようとして……」


「嘘をつくな!」


「じゃあ、姫を誘拐しようとしたって証拠でもあるんですか?」


「その耳が何よりの証拠だ」


 ──耳って……ハッ! しまった!


 ケゾールソサエティーの奴等は、狼男だった。そして、僕がさっきモフったのは、狼男。そのせいで狼男の耳が生えてしまった。それに、奴等は毛無し……僕も毛はない……同類に見られているのか!? でも……。


「やつらモヒカンだったじゃないですか! ほら、僕はモヒカンじゃないし、頭の毛は黒いし」


「髪型が違えば仲間じゃないなんて、そんなことを言う気じゃないだろうな」


 兵士は、完全にこちらの言い分を無視するつもりだ。おそらく、説得力があっても逆効果だろう。──力なき者に説得力はない──毛がない時点で話を聞く気はなさそうだ。


 頑丈そうな鉄の扉を開け、地下室の部屋にいれられた。そこには、目を疑うような世にも恐ろしい様々な拷問器具が置かれていた。あんなもので、あーんなことや、こーんなことをされるのか……考えたくもない。だが、ここに連れてこられたということは、そういうことだ。


 ロープに吊るされたジャックがそこにいた。奴は、ここで拷問を受けていたのだろうか。


「あ……兄貴……無事でしたか……!」


 ジャックは、僕を見るなりニヤケ顔で兄貴と言い放った。


「兄貴? な、なんのことだ!?」


「やはり、お前を拷問したほうが良さそうだな。さあ、吐いてもらうぞ! 姫の居場所を!」


「ちょっとまて、何かの間違いだ! 俺はあいつの兄貴じゃないし、仲間でもない!」


「そんな! 兄貴! ひどいっすよ!」


「なんだお前、こいつの兄貴のくせに、自分が助かりたいからと他人のフリをするのか! このクズが!」


 僕は腕を縛られ、ジャックの隣に吊るされた。ジャックはニヤニヤしながら舌を出し、哀れんだ顔で僕を見ている。これはジャックの策略なのか!


「さあ、お前の体に聞いてやる。さっさと姫の居場所を吐いてもらうぞ!」


 兵士は、トゲトゲの付いたムチを地面にバシッと打ち付けた。それで僕の体をいたぶるつもりなのか! そんなので叩かれたら……痛いに決まってる! そんなのは嫌だ! 痛いのは嫌だ!


 その時だ! 立派な鎧を着た犬っ子の兵士が2人、拷問部屋に入ってきた。


「国王より通達。髪の黒い裸の男を速やかに開放せよとのこと。彼はケゾールのものではなく、旅の冒険者とのこと。姫を助けようとして倒れた勇敢な冒険者だ! 直ちに玉座へお連れしろ!」


「た……助かるのか……」


 拷問兵の2人組は急いで吊るされた僕をおろした。


 何が起こっているのだろうか……よくわからないが、とにかく拷問は受けずに済みそうだ。僕は、その2人の兵士に連れられて玉座へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ