第24話 凱旋
外は朝だった。どうやら僕たちは、夜通し戦っていたようだ。今までいろいろありすぎて眠気が吹っ飛んでいたが、ことが終わって安心したとたん、すごい眠気が襲ってきた。なので、少しだけ仮眠を取ってから出発することにした。
帰る途中、クラウド村へ立ち寄る。もちろん、今は黒装束ではなく、学生服姿だ。橋を渡るためとはいえ、村人をだましたことは心苦しいが、そのおかげで村の子供たちを救うことができた。それで相殺したことにしても構わないだろう。
村の橋を渡るとメリルとメイミーが出迎えてくれた。村の人たちも集まっている。
メイミーがメリルの後ろに隠れて声を出す。
「ああ、ケゾールのモフモフの人がいる」
メイミーは、僕を指さし、怖がっていた。僕は一度、メイミーに黒装束姿でにモフモフをしようとしたので、少しトラウマになっているのかもしれない。
「彼が……柔人が助けてくれたんだよ」
「本当? モフモフしない?」
「それは……わからないが……」
「やっぱり、怖い」
メイミーは、なかなか前へ出ようとしない。
「柔人殿、手を貸してくれてありがとう。おかげで全員無事家に戻ることができた。村を代表して礼を言いたい。ありがとう」
メリルは、そう言って右手を差し出した。
僕はその手を取り、握手をかわす。そして、「僕は、たいしたことしてないけど、役に立ったのならよかったよ」と、言葉を返した。
「これも任務だったらよかったのニャ」
「フィオラ、そんな事を言っちゃだめだ」
フィオラが横やりを入れる。だが、そんなフィオラを気遣うように、メリルが言葉を返す。
「いいや、これはわたしの依頼した任務と同じようなものだ。なので、ぜひ受け取ってもらいたいものがある」
メリルがそう話すと、村人がなにやら布団のようなものを持ってきた。
「最近はどういうわけか、寒い時が多い。なのでこうやってムダ毛……いや、ケゾールのムダ毛じゃないぞ。それを集めて作っているんだ。この中には村の人たちの毛が詰まっている。みんなのお願いだ。受け取って欲しい」
「そうか……じゃあ、遠慮なくいただいておくよ」
布団を受け取ると、村人たちは、「ありがとう」を連呼してくれた。ついでとはいえ、村の子供たちを救えたのは、本当によかった。
渡された布団を、両手で抱える。すると、やわらかい感触が肌に伝わる。
──これは……まさしく羊毛! ふっわふわのお布団だぁ……モフモフ……。村人たちの思いが詰まったモフモフだぁ……。
「それはモフモフじゃないのニャ」
「……ハッ」
うっかりあっちの世界に行きそうになった僕を、フィオラが引きとめてくれた。
「そんなにモフモフが良いのですか?」
アンナ姫が、自分のしっぽを抱えて恥ずかしそうにこちらを見る。それを見た僕は「いえ、アンナ姫のモフモフのほうが最高です」と、口走った。
「それ、答えになってないよ……」
ラビィはあきれ顔で言葉を返す。
ともあれ、一つの事件は解決。あとは、アンナ姫を城に連れ戻して任務完了だ。
しばらくすると、「柔人さーん!」と叫ぶ声が村の広場から聞こえてきた。それは、ペスの声だった。ペスは荷馬車を用意し、僕たちを迎えにきてくれたようだ。
「もうすぐ、討伐隊が到着します。わたしたちは一度、城に戻りましょう」
「そうだね。お迎え、ありがとう」
まだ、眠気が残っている僕にとってはありがたい移動手段だ。
「じゃあ、メリル。僕たちは、いくよ」
「柔人殿、お元気で。何かあったら、いつでも協力する。気軽に声をかけてくれ」
「ああ、ありがとう」
そして、ラビィは「わたしは一度、南の村に戻るよ。やっと外の空気を吸えるようになったし……助けてくれてありがとね、柔人君。モフモフはほどほどにね。じゃあね~」と、そう言って手を振り、その場を立ち去った。
ペスは、アンナ姫の手を引き、荷馬車へ上る。そして、アンナ姫に一言添えた。
「姫、わたしの力がないばっかりに……申し訳ございませんでした!」
「かまわないわ。今、わたしはこうして生きています。無理を言って外出したわたしの責任でもあります。どうか、責任を背負わないでください」
「姫……ありがとうございます。では、さっそく城へ送ります。じゃあ行きましょうか、柔人さん」
「そうだね、帰ろう」
「報奨がもらえるのニャ」
こうして僕たちは、荷馬車に乗り込み、モフテンブルクの城へと帰還した。
城の外壁の門を開け、荷馬車で王宮まで向かう。通路の両側には、兵や民たちが並んでいた。その列は、王宮まで続く。
「「「姫様! 姫様ァ~!」」」
城の兵たちが、歓喜の声を上げる。そして、僕たちに熱い視線が刺さる。まるで、魔王を倒し、姫様を助け、凱旋した勇者になった気分だ。さすがにこれだけ騒がれたら眠気もどこかへ吹っ飛ぶ。
王宮につくと、僕たちはペスに案内されて玉座へと向かった。アルパッカード・モフテンが、玉座から立ち上がり、称賛の声を上げる。
「よくぞ戻った、冒険者よ! その働き、見事であった」
「国王様! ただいま戻りました。わたしの不注意で、ご迷惑をおかけしました。申し訳ございません」
「よいよい。無事でなによりじゃ。それより、冒険者よ。まだ、名を聞いておらんかったな、なんと申すんじゃ?」
僕は答えた。
「池波柔人。人間です」
「そうか……柔人と申すか。覚えておくぞ。それより柔人、そなた、これからどうするつもりじゃ? 良かったらこの城にとどまり、勇者をやって欲しいのじゃが……」
国王の言葉にちょっとびっくりした。だが、勇者なんて僕に務まるのだろうか。そう悩む間もなく、アンナ姫が国王に何か話しかけ、話を変な方向へと持って行ってしまう。
「柔人さんが……その……わたしのしっぽを……あーんなふうや、こーんなふうに……それも2回も……」
「なんと……! それは、求愛の……せ……責任はとってもらえるのじゃな……その方……」
「え……え……それって……」
「もちろん、わたしの婿になってもらいます」
「ぼ……僕が姫の婿に……!?」
「そうすれば、わたしのしっぽは今後ともモフり放題。わたしも安心してモフられます。たぶん」
「な……なんだってぇ!!」
──た……たしかに、そのしっぽは魅力的だ……でも……でも……。
僕は考えた。本当にここで結婚してしまっていいのだろうかと。こんなにいい条件はない。姫の婿になったら、贅沢し放題なのは間違いない。だが、自由な生活はおそらく奪われるだろう。そして、僕はこの世界に来てまだ間もない。もっとこの世界を知りたい。
──やはりここは……。
「申し出、ありがとうございます。それと、しっぽのモフモフが求愛だったなんて……僕は恐れ多いことをしてしまいました。ごめんなさい! まだ、僕は一介の冒険者にすぎません。もっと経験をつまなければいけません。ですので、とどまるわけにはいかないのです!」
「そうか、あくまで冒険者の道を選ぶか……わかった。じゃが、いつでも戻ってきていいぞ。その時は歓迎する」
アンナ姫はしょんぼりしていた。僕は、彼女を振ってしまったのだ。無理もない。だが、すぐ表情を元に戻し、僕に声をかけてくる。
「求愛っていうのはうそですよ。気にしないでください。強くなってくださいね。そして、今度はわたしも冒険に連れて行ってください。わたし、まってますから」
「が……頑張ってみます……」
──うそだったのか!
僕は、少しほっとして照れながら、言葉を返した。それを見たフィオラが「残念なのニャ」と、ちゃかす。相変わらずの失敬な態度だ。
だが、本当のところ、僕がここにとどまりたくない理由は別にあった。
──もっといろんなモフモフがこの世界にはあるはず──
それを、見つけなければ、僕の冒険は終らない。『モフモフは一日にしてならず』って誰かが言っていた。その言葉の意味を理解するまで、僕はモフり続けるだろう。
こうして僕は、国王とアンナ姫に別れを告げ、フィオラと共にモフテンブルクを離れた。
フィオラは、報奨でもらった金貨の袋を眺めながら、うれしそうにつぶやく。
「今回はいっぱい儲かったニャ~。これも柔人のおかげなのニャ」
「がめついネコだな……」
「お金がないと生きていけないのニャ」
「招き猫かおまえは」
「ちゃんとお金を招いてるのニャ」
「はいはい」
適当に言葉を合わせてその場をやり過ごす。たしかに、金は必要だ。そして、それを招いてくれるのは、招き猫としてはありがたい。だが、厄介事も招いてくれるような気がしてならない。とんだ招き猫だ。
ふと、何か視界にメール通知があった。僕はそれを確認する。
[
【Mail】
【From】九尾の狐
【件名】レベル3おめでとう!
【本文】頑張ってますか? モフモフできてますか。嫌になったりしませんか。この世界に飽きたら何か連絡くださいね。暇で死にそうです。
PS ハーレムってすてきですね、うらやましいです。
]
僕は、そのメールをそっと閉じた。
──そう言えば、レベル3?
ステータスを確認する。
[
Name Yawato Ikenami (名前)
LV 3 (レベル)
GRA NOVICE (ギルドランク ノービス)
HP 120 (体力)
MFP 1200 (?)
AP 7 (アタックポイント)
DP 7 (ディフェンスポイント)
SP 7 (スピードポイント)
SK もふもふ (?)
RA 人間 (?)
▼(点滅中)
]
レベルが上がったことはうれしいのだが、上がっている実感がない。結局はモフモフ頼みということだ。それでも、フィオラがいれば認識阻害を使えるので、ひとまず安心だろう。
軍資金で装備を整え、準備万端! さあ、冒険に出発だ!
──新たなるモフモフを求めて!
はじめてのモフモフ END




