第21話 宝物庫の宝
黒装束の信者たちに本殿の奥の通路の先にある牢屋に押し込められ、手を後ろで縛られる。壁は、石垣のようになっており、その隙間に蛍光石が少量ちりばめられていて、わずかに発光している。空気も少しよどんでいる。
フィオラとラビィは別の所へ連れていかれた。ラビィはうまく脅されたということにして難を逃れたが、フィオラは別だ。このままだと、おそらく全部毛を剃られてしまうだろう。
アンナ姫は、また宝物庫の方へと連れていかれた。今度はかなり厳重に警備されるはずだ。場所はわかったので、ここを脱出してペスと合流してから助けるという手もある。
問題は、ペレイの能力だ。あの能力は、ペレイ本人のものなのか、それとも、アンナ姫に何かして奪ったものなのかはわからない。あの能力だけはまずい。あの目はおそらく、見たものを洗脳する能力、そういったものだ。助けに来た兵など、簡単に洗脳してしまうだろう。
今、僕は、ペレイの視界にいる。おそらく目を光らせてこっちを見ているはずだ。胸のあたりがムズムズするのがわかる。どういうわけか、僕は洗脳されない体質のようなので平気だが、確実に僕になにかしようとしているのは確かだ。相手の出方次第では、それに乗ってみるのもいいかもしれない。
ムズムズが止んだあと、しばらくして、足音が牢屋の側まで来る。振り向くと、そこには長い金髪を揺らしながら近づいてくるペレイの姿があった。ペレイは、鉄格子越しに口を開く。
「柔人……とかいったな。おまえは何しにここに来た? わたしに近づくためか?」
「アンナ姫を助けにきた」
そう答えると、ペレイの表情は、急に険しくなった。そして、きつい声で話す。
「どうして、あんな怠惰な毛を持つ娘を助ける」
「そんなの、モフモフしたいからに決まってるじゃないか!」
「モフ……モフ……? モフモフとは、なんだ?」
「な……モフモフを知らないのか!?」
「そんな事より、なぜお前はわたしと同じ格好なのだ? 髪の色は違うが、怠惰な毛は一切生えていない。それに、わたしの能力でおまえの心に干渉しても、何の反応もない。なぜだ」
モフモフをそんな事呼ばわりされ、さらに、スルーされた事に、少し頭にきた。だが、僕は冷静になり、「知りたいのか?」と、言葉を返す。能力のことについてペレイが先に話を切り出したのには驚いた。この際なので、詳しく能力を探ってみることにする。
「じゃあ、聞くが、その能力は、アンナ姫からうばったのか?」
「奪う? …………奪った覚えはない。狐姫の邪を払って神毛のご加護を得たのだ。嫌なものに触れることにはなったがな。それより、おまえはいったい何者なんだ!」
──やはり、コピーなのか……それに、嫌なものに触れる……まさか、モフモフしたのか……だとすれば、このペレイも同じ能力を……。いや、それだと僕の能力とは違う……ペレイの能力は完全なコピーだ。僕のは、別な能力になる。
「僕は……ただの人間だ」
「人間……いったいそれはどういうものだ?」
「さあ答えたぞ! 次はペレイが僕の質問に答えろ! なぜ毛を嫌うんだ!」
「…………毛は怠惰で有害である。ただ、それだけだ。おまえにも、わかる時がくるだろう。それと、あの狐娘の尻尾にかぶりつくのはやめよ。見ていて汚らわしい」
そう言うと、ペレイはこの場から立ち去った。あまりいい情報ではなかったが、予想はついた。おそらく、僕のように、毛に触れて能力を得るタイプなのだろう。それも、対象者と同じ能力だ。
それと、毛を嫌うことについては、何か理由があるのかもしれない。何かヒントのようなものがあればいいのだが、これといって判断する材料は見つからない。
だが、だからといって、モフモフを汚らわしいなどと、バカにされたままでは、僕の気持ちは収まらない。これは、ただのエゴかもしれないが、モフモフを知れば、考え方が変わるはずだ。何か良い方法はないのだろうか。
リラックスしながら、考えを巡らせていると、頭に包帯を巻いたジッポーが牢屋の前に現れた。さっきの戦いでかなりのダメージを負っているようだ。
ジッポーは、こちらに近づき、悔しそうな顔で声を上げる。
「なぜ、おまえのようなやつがここへ来た! おかげでペレイ様の心が揺らぎ始めた。神毛を持つお方は、あの方だけで十分なのに……その髪は、色は違えど、ペレイ様と同じものだ。なぜおまえのようなやつが……!」
「ジッポー! おまえに聞きたいことがある。ペレイはなぜ毛を嫌うんだ!」
「それを知ってどうする。まさか、毛を好きになってもらおうなどと考えているのか? お前には無理だ」
「そんなに毛が嫌いなのか」
別に、毛を好きになってもらおうなどとは考えてはいない。ただ、モフモフを知らないくせにバカにする態度が許せないだけだ。
「ペレイ様の怠惰な毛を呪う気持ちは、深いということだ」
「呪う……」
「とにかくだ。おれはお前を認めない。覚悟しておけ。今回は油断したが、次はない。ペレイ様に手を出したら、絶対に許さない! 命にかえてもお前を倒す」
そう言うと、ジッポーはこの場を立ち去った。彼は、ペレイの親衛隊みたいなものなのだろうか、それにしてもペレイに対する思い入れが他の信者に比べてかなり深そうだ。そして、おそらく何かを知っている。
MFPはゆっくりと回復に向かう。あの時、とっさにアンナ姫にモフりついて、能力をストックしておいて正解だった。ただし、能力があってもMFPがなければ意味がない。今のMFPの状態は500/1100。全て回復するのにはまだ時間がかかりそうだ。
──完全に回復するまでは様子見か……。
いろいろとこれまでのことを整理しながら今後の作戦を考える。現状では、全員をひろって脱出するのは無理だ。最悪でも、フィオラを連れて脱出しなくてはならないだろう。あとは、ペスのもってくる戦力次第だ。僕は、MFPの回復をチャンスがくるのを待つことにした。
────その時だ。
「柔人~、どこニャ~」
聞き覚えのある声が前方から聞こえてきた。近くにいるようなのだが、姿はない。
「その声は……フィオラか?」
やはり、フィオラの声がはっきり聞こえる。僕は、声のする方に視線を向けた。すると、人型の影が現れ、それはゆっくり、フィオラの姿に変化していった。
フィオラは無事だった。それにしても、彼女は今、確かに消えていた。この能力は、フィオラをモフった時の認識阻害の能力と同等だ。これがフィオラの能力なのだろうか。だとすれば、僕が認識阻害の能力を使えたのも納得がいく。
「一時は、どうなる事かと思いました」
「ほんと、助かったわ」
アンナ姫もラビィも同じように姿を見せる。二人も無事だ。
「みんな、どうやって……」
「実は、宝物庫で手に入れた『ニセ人形』と『カクレミノ』を使ったニャ」
さっきの考えを撤回した。やはり、僕の能力は完全コピーではない。今は、その手癖の悪さに感謝しようと思う。
「まさか……でもおまえ、僕を取り押さえて……」
「洗脳は、『精神の指輪』が弾いてくれたニャ。そのあと、『ニセ人形』と『カクレミノ』を使って部屋を抜け出して、二人を助けたニャ。助けた後は、ニセ人形でアンナ姫とラビィのコピーを置いてきたから、しばらくばれないのニャ」
「便利なアイテムだな(……おそらく、全部宝物庫にあったものだな……)」
「柔人の分の『カクレミノ』もあるのニャ」
そう言うと、フィオラは、緑色の手の平ぐらいに広がった葉っぱを、僕に手渡した。
「それを頭の上に乗せると消えるのニャ。数少ないから、大事に使うのニャ」
これなら、フィオラの認識阻害を使わなくても大丈夫だ。アンナ姫の無敵を保持したまま行動できる。
「さあ、脱出ニャ!」
フィオラは、爪を伸ばし、持ち前の器用さで、牢屋の錠を外した。これでこの場所ともおさらばだ。僕らは『カクレミノ』を使い、姿を消して牢屋を脱出した。




