第17話 情報の収集
信者は、僕たちが、部屋に入っていることに気付いていないのか、落ち着いた様子で祈り続ける。僕は、ゆっくりとその信者に近づいた。信者は、何か、呪文のようなものをつぶやいている。
「タスケテタスケテタスケテタスケテ……」
──!
女性の声だった。つぶやいていた呪文は、助けを呼ぶ声だった。まさか、この信者は無理に連れてこられて白装束を着せられているのだろうか。僕は、とっさに声をかけた。
「君、もう、大丈夫だよ。しっかりして!」
信者は振り向く。
「ええええ! 今タスケテっていったのは、毛の脅威から守ってくださいって意味なんです。決して、ケゾールが怖いとか、そういうのじゃ……」
ふと、ケゾールの黒装束を着ていたことに気がついた僕たちは、軽く黒装束を脱ぎ、姿を見せた。
「わたしたちは、ケゾールではないのニャ」
「助けにきたんですよ」
フィオラとメリルは、体の毛を晒し、信者に見せる。
「あ、ああ……あなたたたちはいったい……ここから出してもらえるんですか!?」
どうやら、半信半疑のようだ。僕は、この信者を安心させるために素性を明かした。
「僕らは、依頼でここへきている冒険者だ!」
「出られるの、出られるのね……願いが、通じたんだ……」
信者は、涙を流しながら白いフードを外した。フードの中の彼女は、ウサギの姿をしていた。それも、ふっさふさのもっこもの毛並みのウサギだった。長い耳がバニーガールのようにも見える。
──こ……このモフモフは……アンゴラウサギと同等、いや、それ以上……!!
モフらずにいられなかった僕は、一目散に飛びついた。そして、所構わず彼女をモフり倒す。
「もっふもふー、もっふもふー」
「ひゃ、ひゃあああ」
──もっこもこだぁ!
「もっふもふー、もっふもふー」
「や、やめえてえぇぇ」
この感触はやばい。毛の中に埋もれてしまいそうだ。このもこもこがたまらない!
「もっふもふー、もっふもふー」
「ふにいぃぃ」
兎っ娘は、モフモフショックで行動不能になった。
「ああ、モフってしまったのニャ」
「柔人殿、やり過ぎです!」
「ああ、つい……」
2人に白い目で見られた。だが、そんなのは関係ない! モフモフは、僕のロマンだからだ!
だが、頭の上に突き出てしまった耳は、男のバニー姿だ。ちょっとだけ恥ずかしかった。
モフモフ感に浸った僕は、少し落ち着いてから、今のモフモフが反映されているかどうか、自分のステータスを確認する。
[
SRA 兎 LV 7
HP --(110)
MFP --(1100)
+AP 10(16)
+DP 10(16)
+SP 10(16)
SK ウサピョンキック
▼(点滅中)
]
能力値が、ガクンと下がってしまった。モフった対象のレベルが低いと、やはり、ステータスも下がってしまうのだろう。後で、モフり直さなければならない。
「しっかりするのニャ」
フィオラは、モフモフショック状態の兎っ娘を介抱する。しばらくすると、兎っ娘は正気をとりもどした。だが、その瞬間フィオラの介抱を嫌がり、恐怖に怯えたように叫んだ。
「ご……拷問だなんて! 冒険者のふりして騙したのね! そんなことまでするのなら、絶対司教になんかなってやらないんだから! もう、こんなところはもうまっぴら!」
「いや、今のは拷問じゃあないのニャ」
「これが、拷問じゃないって! じゃあ、なんなのよ!」
「これは……柔人のあいさつなのニャ」
無理があるような気がするが、フィオラは僕のモフモフを挨拶ということで話を通す気だ!
「あいさつ? ……本当にそうなの?」
「ああ、本当だ。わたしもやられたんだ」
メリルもあいさつという事で話を進めた。
「そう……あいさつ……あいさつなら……仕方がないよね……」
フィオラたちの機転で、なんとかこの場を丸く収めることができた。(収まるのかっ!)
「とにかく、僕たちは情報を得たい。僕は柔人、こっちの猫っ娘がフィオラ、そしてこの羊っ娘がメリルだ。君は?」
「わ、わたしはラビィ。以前、南の村に住んでたんだけど、突然、ケゾールソサエティーの毛剃り隊というのがやってきて……さらわれてここへ連れてこられたの」
「さらわれたんだね」
「はい、それでこの施設へ連れてこられて、全部毛を剃られたの。何事もないように、司教たちの言うことを聞いて生活してたら、突然わたしが司教に選ばれることになって……。今は、毛を伸ばさせられてるんだけど、今度の儀式で……わたし……毛を生えなくされてしまうところだったの」
「あれは、そういう儀式だったのか……」
つまり、スキルの名のごとく、永久脱毛される。そういうことなのだろう。
「嫌な儀式なのニャ~」
「恐ろしい……」
フィオラとメリルは、それを聞いて驚愕していた。
「それと、聞きたいことがある。ここに狐っ娘は来なかったか? 尻尾の大きな娘だ」
「はい、おそらくその娘は神殿内の宝物庫に監禁されてるわ。ここを出て、広間から大きな入口に入ると、行けると思うのだけど……」
「そうか、それともう一つ。羊の子供たちはいるのか」
「えっと、それは、この通路の先にある毛枯れの間にいると思う」
「そうか……メリル、子供たちはこの先のようだ」
「柔人殿、感謝する」
ラビィのおかげで、必要な情報のほどんどを収集することができた。あとは、助けるだけだ。
────カッチャカッチャカチャカチャカチャカチャカチャッ……。
突然、カスタネットのような叩く音が、部屋の入り口から聞こえてきた。
「お前たち~。かってにこんなところに入ってな~にし~てる~?」
後ろを振り向くと、黒装束の男が、歌うような口調で声を上げていた。
「見つかったニャ!」
「あ~らあ~ら、あ~なた~たちは~。どうや~らし~んじゃ~じゃな~いみ~たい~(カッチャカッチャカチャカチャカチャカチャカチャッ……)」
男は、大きなホタテ貝のようなものを両手に持ち、音を鳴らしながら踊っていた。
「おまえ、何踊ってるんだ!」
「わ~たし~はね~。な~くこ~もだ~まるぅ~~毛~抜き~のカ~イザ~。お見知りお~きを~(カチャカチャ)」
まるで、こちらを挑発するかのように、毛抜きのカイザーと名乗った男は、怪しく踊っていた。その体は、まるで、イタチのような、フェレットのような、そんな感じのものだった。
「また変なのが出てきたニャ」
「敵には変わりないな」
フィオラとメリルが戦闘態勢に入る。
「だ、大丈夫……なんだよね……」
ラビィは、心配そうに僕の後ろに隠れた。
どうも、ケゾールソサエティーの司教には、まともなやつがいないらしい。(まあ、もともとまともな教団ではないのだから仕方ないが)ひとまず、カイザーがどんな出方をするのか、2人に任せてみることにした。
「行くぞ、ケゾール!」
メリルは、サーベルを抜き、突きの連打で攻撃を始める。だが、カイザーは、その突きの切っ先を、貝で挟んで全て受け止める。
「ほ~っほっほっほ~。おっそ~いおっそ~い。そんなんじゃだ~めだ~め」
突然、カイザーは、体をコマのように回転させ、メリルに近づきはじめた。メリルは、サーベルで斬りつけるが、全てその回転に弾かれる。
「さあ~。粛清のとっき~。懺悔しなさ~いこのい~たみ~とと~もに~!」
──カチャベリッカチャベリッカチャベリッカチャベリッカチャベリッカチャベリッカチャベリッ…………。
メリルの左肩が、カイザーの回転に巻き込まれる。その瞬間、メリルの毛は無残にむしり飛ばされた。
「ウワアアアアアアアアアア!」
悲鳴とともに、メリルは脱毛ショックで気を失い、その場で倒れてしまった。