第14話 羊モードで必殺技
視界に表示されたカーソルがジョーをロックする。僕の体は強制力で引きずられるかのようにジョーへ向けて加速したので、その力に従い、ジョーへと突進する。その瞬間、頭から何かが伸びた。それは、角だった。渦を巻くように前方へと伸びる。
──これなら……いける! 強いて言うなら……ボーンアタックだ。
「いっけえぇぇ!」
「何事ですか! まさか……グホァッ!」
僕の突進は、ジョーを突き飛ばした。ジョーは、吹っ飛ぶ。だが、2~3回転がった後、態勢を立て直し、苦しそうに立ち上がる。
「何をするのですか……その角、邪魔ですね。わたしのハサミで切り落してあげましょう!」
ジョーは地面を蹴り、砂埃をあげながら、こちらに向かって走ってくる。それでも僕は、もう一度スキルを発動する。
「まだだぁ!」
気合と同時に、突っ込んでくるジョーに体当たりをする。ジョーのハサミが角に触れる。だが、お構いなしに突っ込んだせいか、ジョーにハサミを握る暇を与えなかった。
「グハァッ」
ジョーは悲鳴を上げ、派手に吹っ飛んだ。
「柔人、すごいのニャ!」
「フィオラが時間を稼いでくれたおかげだ。ありがとう。ペスを頼む!」
「任されたニャ」
フィオラは後退し、ペスの治療に入った。
「や、やりますねぇ……おかげで体力の半分を失いましたよ。でも、そんな大技、いつまで使えますかねぇ……」
──ジョーの体力は半分!? なら、あと2回当てれば倒せるはず……いや、まて……なぜ体力のことをばらす? 実はそれは罠じゃないのか! 落ち着け……まずステータスの確認だ。
僕は、視界に表示されているUIを確認する。
[
LV:2
【200/210】HP//////////
【500/1100】MFP/////
【68%】S.gauge///////
【EX】250/300
]
1100あったMFPが500になった。ということは、いまのスキルの消費は、2回攻撃したので300。使用できるのはあと1回だ。まずい、2回で半分ということは、最低でもあと2回攻撃できなきゃならない。ならば、足止めするために足だけを狙うか! だがスキルは、ただ目標に向かって補正されながら突き進むだけだ。無理に狙えば攻撃を外す可能性がある。
「どうやら、疲れていますね。図星だったようですねぇ。もう、必殺技を打ち尽くしてしまいましたか。ほら、信仰心のなさが体に滲み出てきていますよ。怠惰な毛が生えてきたのが何よりの証拠。やはり、あなた方をケゾールソサエティーに入信させるわけにはいけませんねぇ」
「うるさい、これはスキルだ。必殺技なんかじゃ……」
──必殺技!? そういえば、初めて戦った時、とどめの一撃が必殺技だった気がする。狙いは逸れたものの、モヒカンは剃ることができた。そして今、前の時のように全身に毛が生えてきている。羊のモフモフっ毛だ(自分でモフモフしたいぐらいの毛だ)これは……S.gaugeと関係あるのか……だとすれば!?
予想が正しければ、このゲージは必殺技ゲージのようなもので、攻撃するたびに溜まる。そして、これが溜まれば必殺技だ。格ゲー好きの僕がそう思ったのだ、間違いない! ならば、次の一撃にかけるしかない。計算では、あと1回のスキルでゲージがMAXになるはず!
「あなたのその毛、切らせて頂きます」
ジョーは、両手にハサミをもち、そのまま僕に向かって駆け込んできた。もう考えている時間はない。突進のスキルを発動し、ジョーへ突っ込む。
「またですか! もう先程のようにはいきませんよ!」
ジョーは、両腕をクロスする。
「【シザースプロテクト】!」
ジョーのハサミが僕の角を受け止めた。そして……。
「【シザースカウンターカット】!」
────ジャキーン!
ジョーのハサミは光り輝き、ハサミに挟まれた角はぶった切られ、宙に舞った。角を切られても痛みは感じなかったが、そのかわり、僕の体は切られた衝撃で吹っ飛ばされる。そのまま後ろに転がった。
「自慢の角を切られて、さぞ、悔しいでしょう。では、その醜い毛を刈ってさしあげます……このハサミでえ!」
ジョーは、倒れた僕に飛びかかる。だが、恐れなかった。攻撃はガードされたが、視界に表示されているS.gaugeは100%に達していた。この時、必殺技スキルが頭の中を駆け巡る。僕はその必殺技の名を、言葉にした。
「【クラッシャーアタック】!」
切られた角が瞬時に生え変わり、体がドリルのように回転を始める。そして、飛びかかってくるジョーへと回転しながら突っ込んだ。ジョーは回転に巻き込まれ、激しく吹き飛ぶ。
「ば、バカなぁ!」
ジョーは、体を壁に強く打ち付け、気を失った。みんなの協力もあり、なんとかジョーを倒すことができた。必殺技を出したせいか、さっきまで生えていた毛が全て消失した。ただし、今回はまだ意識がある。疲れはどっと出たが、倒れずに済みそうだ。
ジョーは、無残な姿で道端に転がっていた。危ないので、ジョーの持っていたハサミを取り上げておく。
「ついでに、刈っておくか」
ついでにそのハサミで、ジョーのモヒカンを刈っておく。やらなければ、こちらがやられていたんだ。やられても文句は言えまい。
────ジャキーン。
モヒカンは、パラパラと地面に削げ落ちた。
最後に、ジョーが気を失って抵抗できないように体を布で縛り上げる。あとは、こいつから色々聞き出せば、何かわかるかもしれない。とりあえず、モフモフショックで倒れたメリルを起こす。メリルはゆっくりと目を覚ました。
「メリル、お前のおかげだ。ありがとう」
一言声をかける。
「はっ……柔人殿……役にたったのでしょうか……この私が」
「最高のモフモフだったぞ」
「なぜか、複雑な気分です……」
ペスを治療していたフィオラも、無事治療を終えていた。薬草を刷り込み、出血を押さえて応急処置は完了。傷が浅かったおかげで命に別状はないようだ。
「申し訳ございません! 私が足を引っ張ってしまいました」
「いや、ペスは頑張ったよ。ちゃんと戦力を守ってくれたんだからな」
自分の身を犠牲にして仲間を守るなんて、ほんとうに騎士の鏡だ。僕に、そんな真似ができるかどうか……。
「や……柔人さん……ありがとうございます」
だが、そんな僕の感動を蝕むように、フィオラが横やりを入れる。
「でも、あの攻撃はよけられたのニャ」
「そ……そんな……私、余計なことをしただけだったんですね……」
「自信を無くさせてどうするんだ!」
僕は、フィオラに怒鳴りつける。
「フィオラさん、ペスさんは頑張りました。役に立ちたいというのは私も同じです」
メリルがペスに同情して、声を出す。とても良いフォローだ。それを聞いたフィオラは改心したように言葉を放つ。
「素直にお礼を言うニャ。ありがとなのニャ」
こうしてフィオラが素直にお礼を言ったところで、ジョーがゆっくりと目を覚ました。現状を見て怒鳴り始める。
「なぜこのわたしが縛られているのですか! そ、それに……この頭……なんてことをしてくれたのですか! 神の慈悲により残された大事な髪の毛に!」
どうやら、ジョーは自分の立場を把握してないようだ。
「なんだ、毛は怠惰じゃなかったのか? それよりも、クラウド村の子供たちをどこへやったんだ! お前たちの本拠地はどこにある! それと、姫はどこだ!」
胸元をつかみ、ジョーを問い詰める。だが、ジョーはただ、笑みを浮かべて言葉を話す。
「信仰なき者共よ! お前たちに教えることなど何もない。私をこの場でやらなかったことを後悔するぞ!」
どうやら、意思は固いらしい。一言も口を割らなそうだ。それを見かねてか、ペスが、口を開く。
「柔人さん、この件私に一任してはくれませんか」
「……どうするの?」
「この者を、帝国に連行したいと思います。それに、アジトに入る方法もわかりましたし、一度城へもどり、兵を編成しようと思います」
「ああ、そうだったね、姫の居場所はどうするの?」
「先遣部隊を派遣します。アジトに入れるなら、あとは兵を差し向けて探りをいれるだけです」
「じゃあ、とりあず依頼の1つはこなせたってことだよね。じゃあ、姫を助けるのは競争ってなるわけか」
「はい。ですが、報奨はきちんと払われるように私が責任をもって頼んでおきます。ただし、姫救出の際、応援を頼むかもしれませんので、その時はよろしくお願いします」
「ああ、もちろんだ」
「よかったのニャ。報奨はちゃんとでるのニャ」
フィオラは報奨のことを心配していたようだ。本来、姫のことなど、どうでもよいのだろう。
こうして僕たちはペスと別れた。ペスは、ジョーを引きずってこの地を後にする。もちろん、姫救出は、僕にとっての最優先事項だ。できるなら、僕たちが先に助けるに越したことはない。それと、メリルの村の子供たちも救うのも忘れてはならない。僕は、フィオラとメリルを引き連れ、洞窟の奥へと足を進めることにした。