今度は野良犬。
蜂の巣を駆除し終えて数日が立った頃。あれから幾度となく、駆除に借り出される海軍艦艇は今日も依頼が何処からとも無く舞い降りて撃退してほしいと頭を下げられる。
本来の戦闘ではなく駆除と言う意味での戦闘は既に数回繰り広げられており流石にそろそろ本来の使い方をしたいと感じてきた。
「今日の依頼は……野良犬を追い払ってほしい、か。普通に主砲で脅せばいいかな」
はぁ、とに溜息をつく。誰もいないところではなく、依頼主の目の前でだ。しかもその野良犬はよく15時頃やってくるらしく、野球の練習を妨害してくるのだという。
いや、お前らで何とかしろよ。
「16時までどうしたらいいんですか」
めんどくさそうに言うと野球部員は「とりあえずそこにベンチがあるので奴が現れたら追い返して下さい」とチャラそうに言う。おい。それ依頼主に対してどうよ。
仕方なく僕は近くにあったその長めのベンチに腰を掛けて16時までの間、野球部員達の部活動を見学する事になった。
はっきりと言って僕は野球には全然と言っていいほど興味がない。ただひたすら飛び交う野球ボールを見つめるだけだ。威勢のいい声がグラウンド全体に響く。他に声が聞こえるとしたら、陸上部の顧問の先生の声やサッカー部達の「ヘイ、パス」等と言った声ぐらいだろうか。
唯一、幸せな時間と言えばベンチの近くに舞い降りる小鳥の囀りぐらいだ。
「暇だ。暇すぎる。あれから一時間は立ったぞ」
一時間。ずっとボールと声を見続けている。来客は勿論来るはずがなくただ声だけが響くグラウンド。何回この言葉を脳裏に焼き付けただろうか。
この数日間の依頼と言えば校内に侵入する動物を主砲で脅し撃退し、危険な生き物であればその場で駆除すると言った具合だった。
コウモリや大量のムカデ。中にはアライグマも居たな。あれは流石に驚いたぜ。
校内の防犯システムしっかりしろよ。そのためのシステムだろ?
「居たぞォ! あいつだァ!」
ある野球部員が叫ぶ。その目標は今、グラウンドの狭い入り口から平気な顔でグラウンド内に侵入。確信犯だなありゃ。
仕方なく僕は雨雲型駆逐艦の姉妹艦。彩雲を召喚し現場へ急行させた。彩雲は速度を上げて野球部員達の間を縫うように進む。その場に注目している野球部員達の真横を今まさに駆逐艦彩雲が少し早めの速度で航行している。
「お! 来たぞ! 応援が来たぞ!」
一人の野球部員がそう叫ぶと皆が彩雲のほうを見る。彩雲は歓喜の声で迎えられた。彩雲に対し僕は軽く砲撃して追い払うようにと伝え、更に追加で「当てるな」と伝える。
彩雲は発行信号で「了解」と返事をし、野良犬を追い払うため、更に速度を上げ現場地域へ急行した。
一方の野良犬は一見。ボスのような風格を見せていた。ここら周辺のボスだろうか? 雑種に見えるが頬には傷跡がある。
そして彩雲を見つけるや否や遠吠えを始めた。成程。戦闘開始の合図か。




