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奇想の艦隊  作者: 置草茅
53/122

護衛艦隊対ヤトガミ戦。

 一方、ヤトガミが交戦に入ったのは駆逐艦:多楽が炎に燃え上がっている頃。時刻は20:17分を差す。

 護衛艦隊旗艦は軽航空巡洋艦手取は、周囲よりもより黒く暗い霧に気がつく。

 その黒い霧に向かって探照灯を照らす。


 旧海軍は探照灯をよく旗艦が照らす事が多かった。例として第三次ソロモン海戦。コロンバンガラ島沖海戦等の例がある。

 しかしこの黒い霧は周囲を明るく照らす探照灯でも薄い明かりにしかならず、逆にヤトガミにからして見ればこの明るい光りは手取が自ら位置を教えているような物ですぐに攻撃態勢に入る。


 まずヤトガミはその黒い霧を護衛艦隊全体に満喫させ、艦隊の視界を完全に奪う。

 そしてその暗闇の中から今だに探照灯を照らす手取に向かって真っ直ぐ走る。

 この時、護衛艦隊に所属していた駆逐艦:上野が電探による捕捉に一応成功する。暗闇がある場所に高速で動く影をキャッチしたのだ。

 そして、本隊からはぐれた駆逐艦:錘鰤つむぶりも電探による捕捉に一応成功する。


 2隻の情報が一気に別次元を潜航する伊1204潜と旗艦手取に送信される。手取は情報に頼り砲撃を開始。1基2門の22mm連装砲が火を吹く。

 しかし暗闇の中では着弾音こそは聞こえるもののどこに着弾したのかはたまた命中したのかが濃く黒い霧の中では判別できずに居た。

 唯一の情報は2隻の駆逐艦による電探の情報だけ。


 一方、ヤトガミも自身の黒すぎる霧のおかげで方向感覚を失っていた。

 彼にとって頼りになるのは探照灯を照らす手取の艦橋部分のみである。また手取もむやみには照らさないようにし僅か1基のみでヤトガミを捜索する事にした。

 この判断は後に手取を救う事になる。


 後続艦に駆逐艦:にしんの姿があった。鰊も手取の援護を目的として探照灯を1基。電探に移る影に向かって照らし始める。この時、鰊はヤトガミが思っていたよりもかなり近くに居た。

 その距離、前方15m先である。

 あまりにも眩しく光る探照灯に一度、額に手を翳し目標を駆逐艦:鰊に変更する。


 ヤトガミは少し遠くで照らすふねを護衛の艦艇と誤認する。

 しかし、誤認したのは最初の攻撃目標だった手取だったのだ。手取はある意味、この時、ふねとしての寿命が伸びた。ヤトガミは一番近い光に向かって霧による圧力をかける。


 鰊は圧力により艦橋が捻じ曲げられ、雑巾絞りを終えたときのような姿になった。

 艦橋をある意味で損失した鰊は砲撃を無作為に開始。新しい閃光がヤトガミの格好の的となる。

 ヤトガミは閃光する場所に手当たり次第に霧の圧力をかける。どのような状態かと言われると霧は本来あまり重みはないがその場一点に集中的に霧の塊をポイントに投入させるため物体は圧力がかかり捻じ曲げられるのだ。


 鰊の第一砲塔が艦橋のように捻じ曲げられた後、爆発する。続いて後部甲板の第二砲塔も爆発。

 鰊はこの爆発により炎上をはじめる。ヤトガミはその光りを頼りに更に霧の圧力をかける。


 鰊はとても鈍く大きな音を船体から立て始めた。それはまるで悲鳴のような音だった。

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