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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第100話 ひまわりかチューリップ

 村で小さいモンスターの講義と小さい弟子の見舞いを終えた俺は、ウチの部屋で待っている小さい食欲モンスターと小さい病人の為のお土産を持って、森の小道を小走りしている。小だらけ。



 ミリには両親から預かった服と靴だ。お土産というか実用品だった。


 俺はあの幼い女の子を、病院という小屋から素っ裸で連れ去った。ここだけ聞くと重犯罪者だな。色々あったんだ。仕方なかったんだ。って言っても捕まるだろうな。


 明日の朝の様子を見て、問題なさそうなら家に帰そうと思う。寝ている時に「おかあさん」とつぶやいているのが聞こえた。まあ、まだ完治ではない。2日やそこらは家で大人しくしてろと言うつもりだ。


 しかし何で子供は寂しくなると母親なんだろう。俺の思い込みだろうか。父親も頼ってあげてほしい。と、男の俺は思う。



 ペタへのお土産は、お母さんに渡された石ヤドカリの塩茹しおゆで丸ごと1匹だ。昼飯に良いな。流石は娘の事を良く理解してらっしゃる。


 本当は落書き用の紙も欲しかった。エジャに頼んだら、いくらでも持って行って良いと言われた。


 でも置いてある建物に行くと、あれは紙じゃなく、実は毛皮を処理して引き伸ばした物だと分かった。村人が一生懸命作っていた。汗水たらしてだ。


 つまり村の大事な商品の1つだ。作業してた村人にコッソリ聞くと、値段はコピー用紙ぐらいでも大銅貨1枚だそうだ。しかも卸値おろしねだ。実際に町で買うと大銅貨2枚以上はする。俺計算で4000円からのスタートだ。



 アホか!そんなもんペタの落書き用に出来るか!エジャは俺に甘い。甘すぎる。そんな汗と涙の結晶を、派遣会社に登録だけして仕事らしい仕事をしていない俺が、受け取れる訳がない。


 よくよく思い出せば、俺はエジャに銀貨を20枚もらっている。村長家ではいつ行っても飯を食わせてくれるし、昨日は大量の玉子とパンを持ってきてくれた。




 俺は金貨を7枚も!7枚も!持っているのに、村長やエジャに銅貨1枚すら払っていない。金貨7枚も持っているのにだ。


 色々と恩を感じてくれているのは分かるが、狐族の村は正直、貧乏村だ。これ以上負担をかけたくない。かといってお金を払いたくない。お母さんの飯は美味い。わあ、俺ワガママ。


 必要なものはちゃんと買う。そう心に決めた。だから紙っぽい皮は買っていない。落書きごときにそんな高級品必要ない。


 手作りで紙を作ってみようか。確か木の皮を水で何かして乾かせば出来たような……覚えてないわ。


 もう適当に葉っぱとか石とかに落書きすりゃいいんだ。石ヤドカリの石っぽいトコなんかスベスベだしいいじゃないか。そうだそうしよう。




 とか考えてるうちに部屋に着いた。少し急いでいたのは、ペタがウチの中を荒らしていないか心配だったからだ。


 ドアの鍵を開け、ちょっとドキドキしながらドアを開く。


 一瞬、頭の中を大惨事の映像がよぎる。床は水浸みずびたしで冷蔵庫は開けっ放し、カーテンが破れ壁は落書きだらけ。そんなイメージだ。


「あはははは!」


「あはははは!」


 床も壁も平気だ。水も飛び散ってないし落書きっぽいのもない。コップが割れたりもしていないし、冷蔵庫の中身を食い荒らしてもいないようだ。


 ベッドでビョンビョン跳ねて大笑いしている子供が2人いるだけだった。




「ようじぎゃくたいだ。どめすてぃっくだ」


「うるさい。罰だ」


 ペタを正座させた。こっちの人族には結構キツいだろう事は確認済みだ。でも俺は優しいからクッションの使用は許している。


 ミリは大人しくベッドに潜った。大分良くなったから、じっとしてられなくなったんだろう。だが、そこを止めるのがお姉さんの役目だろうが。




 食べやすいように殻を取った石ヤドカリの塩茹でとサラダ、あと砂糖で甘くした玉子焼きをテーブルに並べる。


 そもそも甘い物が少ないからだろう。ペタは異常にこの玉子焼きを喜ぶ。正座のままゴクリとつばを飲む音が聞こえる。プルプル震える足と耳と尻尾。いい感じに拷問ごうもん……じゃない、罰になっただろう。まあ俺も好きだ。玉子焼きは甘い派だ。


「ペタ。病気は?」


「なおりかけが、こわい」


「よし、足を楽にして良し」


「ぐはー!しぬー!たまごがひつようだー!」


 足を投げ出してバタバタしているペタを横目に、ミリにも声をかける。


「ミリも、そんだけ元気だったらもう普通に食えるか?」


「たべるー」


 ベッドから飛び出してペタの横にチョンと座った。この子もペタ予備軍だな。




 ミリもペタも食ったら寝た。2人仲良くベッドに潜っているが、どうなんだろう。まだ伝染うつるよな。分からないけどペタは大丈夫な気がしてきた。俺と同じナントカは風邪ひかないが当てはまる気がする。いいや、このまま寝かせておこう。


 とはいえ目を離すとまた何か仕出しでかしそうだ。玄関のドアは全開にしておこう。換気かんきも兼ねている。ミリが生産したウィルスが蔓延まんえんしていると思う。この異空間に換気が必要かは知らないけどな。


 そもそも、換気扇かんきせんを使った時の空気や、下水なんかはどこに消えて行ってるんだろうか。UFOの中に垂れ流しだったらざまあみろなんだが。今度、魚を焼きまくってやる。いぶし宇宙人だ。あ、サンマが食べたくなってきた。



 勿論ドア全開で森に入ったりは出来ない。いい加減このアホみたいにパワーアップしてる体を慣らしたいんだが、今日は丸いお庭の範囲内で出来る事だけにしとこう。


 軽く体をほぐしてから、基礎的な身体能力の確認をする。パワーは有るに越したことはないんだが、技術と上手く噛み合わなければ、この体は足手まといにしかならない。


 ハッキリ言う。今の俺は戦闘に関しては下手になっている。2日前の俺と戦ったら負ける。投げナイフも的に当たらない。パンチ1つとっても軸がブレているのが自分でも分かる。


 普通はトレーニングの中で筋力も技術も同時にじわじわ上がっていくから、こんな事にはならない。ところが今は筋力が体を振り回す。今までつちかってきた技術が使い物にならない。これも急激なパワーアップの弊害へいがいだ。


 やっぱり手っ取り早いのは実戦だな。


 戦闘技術の高い相手とスパーリングするのが一番早い。エジャとか、エジャとかエジャとか……


 駄目だ。俺は怪我しても治るけど、エジャはマズイ。今は特にだ。


 俺だけ寸止すんどめって手もあるけど、それこそ体を操れるようにならないと本気の寸止めは出来ない。あー相手が欲しい。殴っても良くて強い相手が。うわ俺、熱血バトル漫画の主人公みたい。


 雑念が大分混じって来たので。ここまでにしとこう。


 村で貰って来たボロ布でナイフを磨く。キュッキュッ。落ち着くわー。このナイフの輝き。へへへ。顔も映るぞ。あ、久しぶりにホラーっぽい笑顔だ。やべえ。


 エジャはこのナイフを凄いナイフだと言っていた。俺もそう思う。切れ味が落ちて来たらいでくれるそうだが、今の所必要ないそうだ。グリードベアを切りまくったのに切れ味落ちてないんだ。ホント凄いな。流石ドワーフのおっちゃんの自信作。そして金貨20枚。本当はもっと……いやそれは忘れよう。


 脂や血だけはちゃんと落とすように言われたので、こうやって暇を見つけては磨いている。




 少し目を上げて森を見る。大体こっちが北だと思う。大森林はこの方角に広がっている。この先には化け物がわんさかいるって話だ。


 幸いというか、ペタの誕生日まではまだ1週間ぐらいある。出発までなら5日ぐらいか?それまでにこの体を自分の物にしたい。


 殴っても良くて強い相手か。いっぱいいるじゃないか。




「ハルキがゆくえふめいだ!」


 部屋からペタの騒ぐ声が聞こえて来た。起きたな。じゃあ戻ろう。


 森の中にいるとほとんど見えないが、この位置からなら大森林の奥の、更に奥に連なる山脈が少しだけ見える。


 かなり距離があるはずなのに、山の近くを鳥みたいなのが飛んでるのが見える。相当デカいんだろう。


 ドラゴンじゃないだろうな。絶対あそこには行かない。レーザーが使えるようになったら打ち落としてやろうか。あ、やっぱり可愛そうだからやめよう。大きい鳥さんだったら申し訳ない。そもそもドラゴンだったとしても、いきなり撃っちゃ駄目だ。


 ナイフを腰に戻して、部屋の屋根から飛び降りる。


 ウチの部屋は外側部分は木の小屋に見えるが、これも壊れない成分で出来ている。屋根の上なら足元をボコボコにする心配がない。音も部屋の中には響かない。それに、この丸いお庭もちょっと気に入ってきた。花でも植えてみようかな。ひまわりかチューリップ。他は分からない。






 ペタはベッドの枕元に転がっているデジタル時計を理解している。


 カレンダーの裏を使い切ったペタは、表まで落書きだらけにした。その時に数字を覚えてしまったようだ。実は頭が良いのかもしれない。問題はこっちの数字を覚える前に、地球の数字を覚えてしまった事だ。俺はお母さんに怒られないだろうか。


 だからペタは外が見えないウチの部屋の中でも朝が分かる。


「ハルキ!ねぼうだぞ!ごはんがないぞ!」


「まほうつかいさまー。おきてー」


 床で毛布にくるまって寝ていた俺の上に小さいのが2つ飛び乗った。普段なら俺の方が先に起きる。先に起きて朝のトレーニングをしてシャワーを浴びて飯を作る。その匂いでペタが起きる。そんな流れだ。


 だけど今朝は飯も作ってないし、とにかく眠い。だってさっき寝たばかりだ。


 当然この2匹の食欲モンスターはそんな事知らない。食欲のおもむくままに俺の上を飛び跳ねる。起きるしかない。眠い。






 深夜の傭兵ギルドにはほとんど人がいなかった。カウンターで暇そうにしている夜勤の職員は数名いるが、ギルド員は全くいない。当然だ。しっかり寝ないと翌日の仕事に差しさわる。例え翌日仕事する予定がなくてもまあ寝てる。


「へ?ハルキさん?」


 俺がその深夜のコンビニ以上に静かな傭兵ギルドに飛び込んだ時、カウンターの若い兄ちゃんが驚いたのは当たり前だろう。だが返事をする余裕はなかった。


 無言で部屋の壁際にあるかめから水をみ出し飲む。飲む。そして飲む。更に置いてある木のコップに水を汲んで、手近なテーブルに着く。ゆっくり深呼吸を繰り返して息を整える。背負っていたボディバッグから、固いパンと軽く焼いた肉の塊を取り出してゆっくり噛む。最後に水を飲み干して立ち上がった。ここまで10分。誰も喋らなかった。


「聞きたい事があるんだけど」


 俺がカウンターに近付いて話しかけると、兄ちゃんがビクっと我に帰った。あ、この兄ちゃんにも前、おごったな。じゃあ遠慮はいらないな。


「は、はい何でしょう」


「騎士団の、何だっけ。モンスターのアレ。どこ行けばいい?」


 兄ちゃんの頭にハテナが浮かんでいる。今の説明で分かったら凄いと思う。


「ええと、モンスター討伐の証明部位の提出場所でしょうか?」


 おお、すげえ。分かったのか。この兄ちゃん優秀だぞ。こんな夜勤なんかさせずに、もっと良いポジションにつけてやればいいのに。今度、細目長さんに言ってやろうかな。




 この町の制度か国の制度かは知らないが、人族に害を及ぼすモンスターを討伐すれば騎士団から報奨金が出るらしい。これはゴブリン襲撃の後、狸族の母親に聞いた話だ。


 って事はだ。森の奥にワンサカいる強力なモンスターにも、そういうのが適応されるはずだ。きっと高額だ。俺はそいつらと戦いに行くつもりだ。


 手加減なし、命の危険のある実戦を繰り返して、暴走している体を支配下に置く。それぐらいのスパルタ教育をしてやらなきゃ、この体は言う事を聞かないだろう。


 ただ、襲って来た訳でもないモンスターを殺す。それが俺には出来ない。モンスターってのも、俺にとっちゃ狂暴だったりデカかったりするだけのただの動物だ。そして俺は動物が好きだ。グリードベアだって襲って来なけりゃ遠くから眺めて、すげえなあとか言っていたい。


 だけど現実としてヤツらは襲ってくる。人族はこの星の支配者じゃない。モンスターの少ないところを選んで集団で身を守って生活している。ここが海なら小魚みたいなもんだ。モンスターはこっちをエサだと思っているサメだ。これがこの星の現実だ。




 この気持ちのズレに折り合いをつける方法を考えた。仕事としてやる。これで金を稼ぐ。これで稼いだ金で野菜や調味料を買う。生きる為になら戦える。


 ついでに金持ちになっちゃうかもしれないな。良いじゃないか。そしたらエジャに銀貨20枚返そう。


 5日やそこらじゃ無理だろうが、もしかしたら大発生の原因も見つけちゃうかもな。ボーナスとか出ないかな。もし出たらエジャに利子もつけよう。


 本来2日かけて移動する狐族の村から町までを2時間で駆け抜けたこの体、これに俺本来の技術が噛み合えば意外に出来るかもしれない。ぶっ倒れそうだったけどな。でももう回復した。ああ、気持ち悪い体だなおい。


 帰りは、町の周りを囲む壁もさっきよりは楽に乗り越えられそうだな。門なんか通ってない。この時間だと閉まってる。ちょっと門番にいくらか渡せば入れるらしいけどな。払う訳がない。


「で、どこに行けばその討伐のやつできる?砦まで行かなきゃ駄目か?」


 あのバカ団長の顔がチラつく。砦には行きたくないがこれも仕事仕事。


 俺の問いかけに背筋を伸ばし仕事人の顔になる兄ちゃん。いいねプロだね。


「現在、モンスター討伐関連の業務は傭兵ギルドに委託いたくされています。証明部位の引き取りもこちらで出来ます」


 よし。お前だけまた飯(おご)ってやる。


 兄ちゃんに色々と討伐についての詳細とかを教えてもらって、部屋に帰って来たのは陽が登る少し前だった。




 だからね、眠いんですよ。そりゃ肉を切るついでに軽く指の5、6本も切るよ。騒ぐなペタ。つながってりゃすぐ治るから。ああミリが泣きそうだ。


 この体にも睡眠は普通に必要みたいだ。


 




読んでくださってありがとうございます。


100話。通常運転。

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