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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第98話 小さいモンスター

「ハルキ様!?ここに何のご用ですか?」


 丁度、病院という名の小屋から出て来たおばちゃんが驚く。誰だっけ。


「あの、ペタの友達の、あの……小さい子のお見舞いに来たんすけど」


 名前がどうしても、ミニ、に思えてしまうのは小さいイメージが強いからだ。間違っているのは分かっている。だから言わない。


 おばちゃんは顔の下半分に巻いていた布を取った。ああ、このおばちゃんか。石ヤドカリ祭りの時に塩加減を教えたから覚えてるぞ。顔だけな。やっぱり名札システム導入したいな。読めないけど。


「ああ、ミリちゃんですか。今、治療中なのでちょっと……」


 そうだミリだった。ミニとミリ。どっちも小さいイメージだ。こりゃ逆に覚えにくいな。でも会えないぐらい悪いのか。って事はただの風邪じゃないな。俺はやっぱり役に立たないか。整形外科せいけいげか方面以外の医療の知識なんてほとんどない。整形外科はザックリいうと骨とスジと肉だ。美容整形とは別もんだぞ。


 俺は風邪を引いた記憶は無いが、従妹の美咲は小さい頃よく風邪を引いていた。大体は栄養を取って安静にしていれば治るもんだ。一度、悪化して入院した時は流石に焦ったが。あとインフルエンザもあったな。家族全員に伝染うつったのに、なんで俺だけピンピンしてたんだろうか。ナントカは風邪ひかないの最上級だったんだろうか。ナントカはインフルエンザも伝染らない。聞いたことない上に語呂が悪い。


 という訳で俺は入っても伝染らない。全くの根拠なしだけど。


「少しだけのぞいてもいいっすか?すぐ出ますんで」


 あんまり容体が悪いなら、俺が入ったら雑菌なんかが一緒に入る。とはいえ、あまり清潔でもなさそうな普段着のおばちゃんが入ってるんだ。そこまでじゃないんだろう。小屋も綺麗には見えない。


 おばちゃんは少し迷ったが、


「魔法使い族のハルキ様がそうおっしゃるなら……」


 そう言って布をもう一度顔に巻き直す。


「風邪って聞いたんですけど、酷いんですか?」


 おばちゃんが扉を開けながら答えてくれる。


「まだ、最初ですのでそれほどでも。ただ、熱が下がってくれないと危ないと思います」


 風邪は引き始めが肝心だって何かで言ってたな。すぐに処置してるのは偉い。でも危ないぐらい熱が出てるのか。辛いだろうな。


 ウチの部屋には湿布とテーピングぐらいしか医療品がない。風邪薬ぐらい買っとけば良かった。あのおでこに貼るヤツとか。風邪は引かないが、試合でダメージが大きいと熱が出る事はあった。それにあれ、飛行機とかが妙に暑い時に便利なんだよ。ただ空港で麻薬検査にひっかかった時は焦った。ちゃんと剥がして荷物に入れとかなきゃいけなかったな。




 小屋の中に通された俺は絶句した。何だこりゃ。


 机や棚には薬草らしき草や薬が置いてある。ノコギリや刃物まであるのは外科手術用か?ちょっと考えたくないが、そういう事だろう。


 そしてベッドという名の木の台が数個並んでいる。それはいい。だけどミニ、じゃないミリはベッドには寝かされていない。


 水の入った大きめのおけに裸で浸かっている。


 風邪だろ?風邪だよな。お湯じゃないよなコレ。


「熱が高いので冷やしています。あと薬草も飲ませて……ハルキ様!?」


 駆け寄って桶からミリを引っ張り出す。勢いで水が飛び散った。水だ。冷てえ。思わず叫ぶ。


「すぐ温めろ!布!服!ああもうコレでいい!」


 近くのベッドからシーツ代わりの布を引きはがして震える女の子の体を拭く。唇が紫色だ。


 大体拭き終わった所で別のシーツにくるむ。だが震えが止まらない。意識もない。当たり前だ。熱は間違いなくある。だが体の表面だけ氷のように冷たい。


 殺す気か。駄目だ、ここにある布ぐらいじゃ温めきれない。


「おばちゃん!ミリは預かる!親に言っといてくれ!」


「えっ!?」


 小さいミリを抱えて小屋を飛び出す。ちょっと勢い余って扉が壊れたっぽいが、そんな事はどうでもいい。


 小屋から少し離れた所でペタと双子が座り込んでいた。


「ペタ!」


 ビックリして飛び上がるペタ。


「ペタ、お母さんに言ってパンと玉子をもらって来てくれ!持てるだけだ!」


「きゅうになんだ!あ!ミリだ!」


「そうだミリだ!このままじゃ死ぬ、ウチに連れて行く!頼むぞ!」


 それだけ言って全力で走り出した。が、急ブレーキをかけてちょっと戻る。


「絶対一人で来るなよ!誰か狩人と一緒に来るんだ!」


 再び走り出す。ペタがポカーンとしていた。ちゃんと伝わっただろうか。最悪、ペタが分かってなくても俺がもう一度走ればいい。今は1秒でも早くこの子を温めなきゃいけない。


 川を跳び越え森を走る。当然、橋なんか渡ってない。






 シャワーと湯船を併用してミニを温めた後、Tシャツとペタ用の尻尾穴ジャージを穿かせてベッドに寝かせた。まだ肌寒い季節だったから、ちゃんとした布団を使ってて良かった。


 いつかペタにも作った事のある、経口補水液けいこうほすいえきを作りながらペタを待つ。普通の水より体液に近い濃度の塩分と糖を混ぜてあるから吸収がいい。


 ちょっと俺は、この星の医療にもう何と言っていいか分からない。


 そういえば消毒も知らなかった。傷口から砂だけ落としてり潰した薬草を塗って、使いまわしの包帯で巻く。そんなやり方だ。んでくれと言わんばかりだ。新弟子のウアジ君の治療をした時に何をやってるんだと、慌てて止めた。


 今回も何を考えたかぐらい分かる。熱が出て体が熱い。だから冷やす。冷やすには水だ。連想ゲームか。


 町にいる医者ならちゃんと治療出来るんだろうか。お母さんかエジャに聞きたい。もし同じレベルなら、これは放置できない。


 こうなってくると薬草とやらも信用できない。体に色々な影響を及ぼす草ってのは当然ある。だけど、ここまで人体を理解してないとなると、薬草どころか毒草あたりを使っててもおかしくないぞ。麻薬になる草とか楽しくなるキノコとか。


 ドンドンドン


 来たか。


「ハルキ!パンとタマゴでなおるのか!」


 ドアを開けたら、ペタと……おお、エジャに連れて来てもらったか。好都合だ。今からミッチリと風邪についてお話をしような。他の病気は知らない。あと、エジャと2人で持って来たからパンと玉子が多すぎる。ミニはそんなに食えないぞ。






 まず部屋に入った2人に手を洗わせる。ウチにはハンドソープがあるが村には無い。無い物を教えても仕方ない。確か雑菌のほとんどは手を洗うだけでも落ちたはずだ。


 次にうがいだ。おいペタ、飲むんじゃなくて吐くんだ。ペッペ。


「ハルキ殿、これは一体どんな意味があるんだ?」


 上を向いてあ゛ーと言っているペタを見ながらエジャが聞いて来る。ペタは楽しくなってるな。やりすぎだな。コップをとりあげる。


 まず手洗いうがいは小学生でも知ってる。やるやらないは置いといて。俺はあんまりやらなかったが、それは医者も薬も充実してたからだ。こっちの薬草やら薬やらが信用できるか分からない以上、やるべきだ。


 そして、これが分からないって事は、ウィルスや菌の知識もないって事になる。目に見えない物は幽霊だけじゃないぞ。


 パンをお湯でふやかしながら風邪の講義だ。玉子は最後に混ぜよう。まあ要はおかゆの代わりだ。米食いたい。




「まず。大前提として熱を無理矢理に下げちゃいけません。水に浸けるとか絶対だめ」


「でも、あたまにぬれた布がのってるぞ」


「それは気持ちいいから。それだけ」


 ペタもエジャも良く分かっていない。そりゃまあそうだな。下手すりゃ先祖伝来の方法にケチをつけてるんだ。そもそも俺も詳しくは知らない。美咲の看病の時にちょっと聞いたぐらいの話だ。


「風邪ってのはなー」


 ボールペンで小さい悪魔みたいな絵を描く。お子様向けの虫歯菌みたいな絵だ。ちょっと前衛的。そして部屋の賃貸ちんたい契約書がとうとう犠牲になった。


「目に見えないぐらい小さいモンスターが体に入ってるんだ」


 いきなりウィルスだとか言っても分からないだろう。モンスターなら分かりやすい。ってか、似たようなもんだ。


「目に見えないモンスター!?」


 エジャがベッドから少し離れる。そこにはミニが寝かされている。


「そうだ。砂より小さいやつが百万匹ぐらい入ってる。それとミニは戦ってるんだ」


 契約書の裏に俺の味わい深いミニの絵が追加される。数は適当だ。そしてペタが納得していない。指を折っても百万は数えられないぞ。数えるのを諦めたペタがブーブー言う。


「でも、びょうきは、あくまののろいだってきいたぞ!」


「誰にだ」「エジャ」おい。


「しかし、教会がそう教えているんだ」


 エジャが真面目な顔で言う。教会、教会ね。あの太陽を神様だとか言ってる所か。悪魔とか言い出したか。だが信仰なんてのは教祖様の自由だ。神様がいれば悪魔も必要だろう。敵がいなけりゃヒーローは成り立たない。神様はモンスターは倒してくれないからな。


 それにもしかしたら、ここの太陽には本当に神様が住んでるのかもしれないぞ。地球の近くの太陽には居ないっぽかったけどな。神様が存在しないなんて証明できない。俺は幽霊も宇宙人も信じてるしな。


「一回、教会の事は忘れよう。正しい事も言ってるだろうけど、多分間違った事も言ってる」


 看病してたおばちゃんはマスクをしていた。口から伝染るってのは知ってる訳だ。そこは教会さんが教えてるんだろう。悪魔が入って来るとでも言ってるのか。




 それから、俺は出来る限りの風邪に対する知識を教えた。子供に言うようにだ。俺だって詳しい訳じゃない。これぐらいが丁度いい。


 小さいモンスターはあちこちにいて、体に入ると増え始める。


 体はそいつらと戦う為に熱を出す。最初は冷やしたら駄目だ。汗をかいたら着替えさせてやって急に冷やさないようにする。それぐらいになってきたら少しだけ涼しくしてやるといい。


 とにかく水分が足りなくなるから、できるだけこまめに飲ませてやる。


 戦うのを手伝ってやるために、消化の良い食べ物で栄養をとらせる。それと睡眠。あと必要なら薬も使うが、ちょっと見直そうか。ただの風邪なら、なくてもいい。


 抵抗力の弱い子供や、老人は特に負けやすいから注意する。


 モンスターをばらまいたりしないようにマスクをする。看病する側もだ。同じ食器も使わない。モンスターが付いて来るぞ。


 手洗いうがいは、モンスターを洗い流す為だ。飯前にはやった方が良い。日本じゃ家に帰ったらだったと思うが、こっちの家はもう外と同じだ。


「もちろん風邪のモンスターよりずっと強いやつもいる。全部に勝てる訳じゃない。だけど、これだけ知ってれば普通の風邪ではそうそう死なない」


 そう締めくくった。上手くまとまった。美咲が風邪を引く事が多かったおかげで説明できた。美咲、の風邪ありがとう。ペタも最後までちゃんと聞いていた。


「ここどこ?」


 ミニが目を開けた。熱でボーっとしてる。当たり前だ。まだ休ませないと治らないだろう。大体、風邪の時に水に浸けるとか……肺炎にでもなれってのか。


「ペタ、ミニにこの水を飲ませてやってくれ。ちょっとずつな」


「わかった!のめ!のめ!」


 経口補水液を手渡して、即席パンがゆに卵を落として火にかける。ちょっとずつだと言ってるだろうに。どこの酔っ払いだお前は。


「ハルキ殿、今の話を村でもしてもらえないだろうか」


「いいけど、まずはミニが治ってからだな。そうしないと信じないだろ?まだ2、3日はウチで預かるぞ」


 エジャは目を丸くした。


「2、3日で治るのか!?」


「まあ、早けりゃな」


 あのやり方では、そんな時間じゃ治らないよな。みんなこじらせたんだ。肺炎かその辺だやっぱり。美咲が入院した時と同じだ。日本人も小さい子や老人は肺炎で死ぬ事が多かったはずだ。


 さて、俺も聞きたい事がある。町の医者だか教会の教えとやらだ。


 正直ムチャクチャだ。正しい知識が広まっていればペタ軍団はもっと大規模だったかもしれない。あ、それは手がつけられないかも。


「ハルキー」


 ミニに水を飲ませていたペタに声を掛けられた。


「何だ?問題発生か?」


「ミニじゃなくて、ミリだぞ」




 俺、いつから間違えてた?




読んでくださってありがとうございます。


主人公がみんなの名前を覚えるお話。

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